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溶血性貧血

別名 hemolytic anemia

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臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

  1. 溶血
    赤血球の細胞膜が何らかの原因で生理的寿命より早期に破壊されることを溶血という.
  2. 溶血性貧血
    正常な状態では赤血球は約120日の寿命がつきると主に脾臓網内系において破壊される.この赤血球の早期破壊による減少ペースが,骨髄での代償性産生亢進のペースを上回ると貧血を生じる.この病態を溶血性貧血という.
    溶血が起こる場所により血管内溶血と血管外溶血に,また溶血の原因により赤血球自体の異常と赤血球外に原因がある場合とに分類される.
  3. 溶血の原因による分類
    ①赤血球自体に異常がある場合(主に先天性)
    赤血球膜異常症:HS(遺伝性球状赤血球症),HE(遺伝性楕円赤血球症)など赤血球酵素異常症:G6PD 異常症,PK 異常症など
    異常ヘモグロビン症:サラセミア,鎌状赤血球症など
    ②赤血球外に異常がある場合(主に後天性)
    自己免疫性溶血性貧血(AIHA)
    薬剤性溶血性貧血(ハプテン型・免疫複合型・自己抗体型・赤血球修飾型)
    機械的溶血:人工弁,人工血管,DIC,TTP,TMA など
    網内系機能亢進:脾機能亢進症,血球貪食症候群など
  4. 溶血性貧血の疫学
    比較的まれな疾患であり,欧米の数分の 1 程度.自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の推定患者数は 100 万対 3~10 人,年間発症率は 100 万対 1~5 人とされる.男/女比は 1/1.6で,50 歳代がピーク.
    病型別比率は,温式自己免疫性溶血性貧血 47.1%,発作性夜間血色素尿症 24.9%,先天性溶血性貧血 16.6%,寒冷凝集素症 4.0%,発作性寒冷血色素尿症 1.0%の順となる.
  5. 溶血性貧血の診断
    診断基準(厚生労働省特発性造血障害に関する調査研究班)に準ずる(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班(平成16年度改訂)参照).
  6. 溶血性貧血に認めうる一般的臨床所見
    貧血,黄疸,脾腫,胆嚢結石など.
    冷式 AIHA では末梢循環障害症状(指趾末梢のチアノーゼや Raynaud 現象など).
  7. 溶血性貧血の検査所見
    溶血性貧血の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班(平成16年度改訂)参照)
    AIHA では Coombs 試験が陽性となる.一方,赤血球結合 IgG 量が少量で,通常法のCoombs 試験では陰性となる  Coombs 陰性 AIHA もあるので注意が必要である.
    冷式 AIHA では寒冷凝集素や Donath-Landsteiner 抗体(D-L 抗体)が陽性となる.
  8. 溶血性貧血の治療
    ①自己免疫性溶血性貧血(AIHA)
    温式 AIHA は副腎皮質ステロイドが奏功する症例が多い.
    冷式 AIHA は寒冷暴露を避ける.ステロイドは温式ほど有効ではないが,低力価例では奏功例もあり試みる価値はある.
    ②薬剤性溶血性貧血
    原因薬剤の中止
    ③先天性溶血性貧血(赤血球膜異常症や異常ヘモグロビン症)
    特別な治療法はなく,重症例では摘脾および適宜輸血を行う.
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検査・診断・臨床所見

1.自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)

1)温式自己免疫性溶血性貧血
[検査と診断]
 診断基準に基づいて溶血性貧血であることを確認し,自己免疫性溶血性貧血(AIHA)診基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班(平成22年度一部改訂)参照)に準じて診断を進めてゆく.
 ①小型球状赤血球の出現とMCHC の上昇
 ②赤血球浸透圧抵抗性の減弱:正常赤血球よりも高張な緩衝液で溶血を起こす.
 ③直接Coombs 試験陽性
   約3~10%にCoombs 陰性例がある.
   この場合,赤血球表面結合IgG 定量を行うことによって診断可能となる.
 ④骨髄は赤芽球系の過形成像を認めることが多い.

2)冷式自己免疫性溶血性貧血
(1)寒冷凝集素症(cold agglutinine disease:CAD)
[診断]
 溶血一般の所見.
 赤血球の自己凝集が特徴的.この赤血球凝集は加温により可逆的に消失する.
 球状赤血球も認めるがHS ほどではない.自己凝集による見かけ上のMCV の異常高値.
 広域スペクトル抗血清による直接Coombs 試験は補体のみ陽性.
 血清補体価は低下する.

(2)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)
[診断]
 現在D-L 抗体検査を依頼可能な外注検査機関はなく,自施設で検査を行う.

2.薬剤性溶血性貧血
  1. ①免疫学的機序による
    1. ① ハプテン型:薬剤+赤血球に対して抗体産生.主にIgG 型直接Coombs 試験が陽性となり血管外溶血を起こす.ペニシリン・セファロスポリンなどで報告が多い.大量投与で生じやすい.投与後1~2 週間で発症,中止数日~2 週間で溶血は消失する.
    2. ② 免疫複合型:薬剤に対する抗体が産生され,薬剤+抗体が赤血球に結合,さらに補体が結合しヘモグロビン尿を伴う血管内溶血を起こす.補体型直接Coombs 試験が陽性となる.悪寒・発熱・腰痛・腎障害などで急激発症する.薬剤投与量と重症度は相関せず,ステロイドは無効である.ペニシリン・セファロスポリンが代表薬剤であるが,テイコプラニン・オメプラゾール・リファンピシンなどでの報告もある.
    3. ③ 自己抗体型:薬剤により赤血球に対する自己抗体が産生される.直接・間接Coombs 試験が陽性となり,特発性AIHA との鑑別は困難である.陽性例の一部で溶血を起こす.αメチルドパが代表薬とされるが,メフェナム酸,セファロスポリン,タクロリムスなどでの報告もある.またフルダラビン・レボフロキサシンでの重症例の報告がある.発症は緩徐であるが,薬剤中止後も自己抗体が低下するまで溶血は続き,回復に時間を要する.
    4. ④ 赤血球修飾型:薬剤が赤血球の表面を修飾し,結果血清中の免疫グロブリン,補体などが非特異的に赤血球に結合する.セファロスポリン投与後1~2 日で生じる.溶血は起こさず,薬剤の中止の必要はないとされている.
  2. ②ヘモグロビン還元系代謝酵素異常による
     (G6PD 欠損症・グルタチオン系代謝欠損症・不安定ヘモグロビン症など)
     メトヘモグロビンの還元能力に異常を生じているため,酸化ストレスの高い薬剤を使用した場合にメトヘモグロビン血症をきたし,ヘモグロビン変性によるHeinz 小体の形成や赤血球膜の透過性亢進などにより溶血が起こる.
     代表的薬剤は,アミノピリン・アセトアミノフェン・アスピリン・スルファメトキサゾール・抗マラリア薬などである.
     Coombs 試験陰性の溶血性貧血で被疑薬服用歴があれば本症を鑑別に加え,可能なら直ちに薬剤を中止する.腎障害の合併など重症例では人工透析やハプトグロビン投与を考慮する.

3.先天性溶血性貧血

1)遺伝性球状赤血球症(hereditary spherocytosis:HS)
[臨床所見と診断]
 貧血・黄疸・脾腫・胆石など.ヒトパルボウイルスB19(HPVB19)感染による無形成発作により,急激な貧血の進行をきたすことがある.その際,造血は10~14 日間で自然回復する.

2)遺伝性楕円赤血球症(hereditary elliptocytosis:HS)
[臨床所見と診断]
 溶血をきたしている症例では,溶血の所見.
 末梢血中の赤血球の30%以上が楕円赤血球(鉄欠乏性貧血では楕円赤血球の出現はあっても主体は小球性で家族歴も認めない)

3)サラセミア(thalassemia)
[診断]
 著明な小球性貧血.標的赤血球の出現が特徴的.軽症型βサラセミアでは,MCV が著明に低値であるにもかかわらず,赤血球数は正常値に近いことが多い.このことを利用した,Mentzer Indexが鉄欠乏性貧血との鑑別の一助となる.ヘモグロビン分析(ヘモグロビン電気泳動)を行いヘモグロビンF やA2の増加を認めれば,本疾患の可能性を考慮して遺伝子検査を依頼し病因を確定する.国内では福山臨床検査センターに検査依頼可能である.
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