薬剤性肺障害
別名 | drug induced lung injury |
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「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。
詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690)
Clinical Chart
- 薬剤の投与中,肺野に非区域性の病変を認めた場合には,薬剤性肺障害を鑑別にあげることが重要である.
- 分子標的薬の開発など,原因薬剤の種類は増加の一途をたどるとともに,健康食品などによる薬剤性肺障害も増加しており,注意が必要である.
- 日本人は欧米人に比して薬剤性肺障害の頻度が高いため,注意が必要である.
- 薬剤性肺障害の病型は,一般の呼吸器疾患(非薬剤性)との類似性に基づいて分類される.
- 日常診療で薬剤性肺障害を疑う場合,原因となりうる薬剤の摂取歴,薬剤に起因する臨床病型の報告の有無とともに,他の原因疾患の否定が重要となる.
- 診断は,CT(HRCT)所見により疑い,細菌検査,気管支肺胞洗浄,経気管支肺生検などにより,感染症,腫瘍性病変(癌性リンパ管症など)などの除外が重要である.
- 治療は発生機序(細胞障害性/アレルギー性)と重症度(軽症/中等症/重症)により,被疑薬の中止,経口ステロイド内服,ステロイドパルスなどを選択する.
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検査
薬剤性肺障害のフローチャート(日本呼吸器学会:薬剤性肺障害の診断・治療の手引き, 2013 参照)に従って行う.
- ①採血
血沈,CRP などの非特異的炎症反応の亢進やLDH上昇など,肺の組織障害を示す所見,好酸球増多などのアレルギー性反応の所見を認める場合もある.また,KL-6,SP-D,SP-A などの間質性肺炎のバイオマーカーが上昇することもあり,特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)やNSIP などの慢性間質性肺炎(chronic interstitial pneumonia:CIP)パターン,DAD パターンでは上昇するが,OP,EP,HP パターンでは上昇しないことが多い.
なお,ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)の鑑別にβ-D-グルカン(また,喀痰のニューモシスチスDNA 検査)を,サイトメガロウイルス(CMV)肺炎の鑑別に抗原検査(CMV アンチゲネミア法:C7-HRP)も易感染宿主である場合や画像所見で疑われる場合は提出する.また,血液悪性腫瘍の治療中などであれば侵襲性肺アスペルギルス症なども念頭にアスペルギルス抗原も追加する.
- ②薬剤リンパ球刺激試験(drug lymphocyte stimulation test:DLST)
DLST は薬剤によって偽陽性,偽陰性の確率にばらつきがあり,解釈には注意が必要となる(日本呼吸器学会:薬剤性肺障害の診断・治療の手引き, 2013 参照).
- ③画像診断
胸部単純Xp,CT(HRCT)では既知のびまん性肺疾患と類似した病型を決めるが,その際に有用となるびまん性肺疾患を呈する薬剤性肺障害の特徴を「大中原研一・他:呼吸23:540-545, 2004」に示す.
この画像パターンから「日本呼吸器学会:薬剤性肺障害の診断・治療の手引き, 2013」の臨床病型を完全に決定することは困難であるが,類型化することで,予後不良のDAD 型肺障害と非DAD 型肺障害の鑑別や,他疾患の鑑別などで有用となり,気管支鏡を行う前に得られる情報として重要となる.
DAD 型肺障害は急性間質性肺炎に類似して広範なconsolidation,すりガラス陰影に加えて,牽引性気管支拡張など肺の縮み,構造改変を示唆する所見がみられることが特徴である.急性の経過で生じる牽引性気管支拡張は,慢性間質性肺炎にみられるものとは異なり,比較的平滑な内腔を保ち,末梢に向かって気管支内腔が先細りしないことが多い.ただし,構造改変が起こる前の初期(滲出期)には牽引性気管支拡張などの所見を認めないため,鑑別が困難な場合もある.
非DAD 型肺障害ではNSIP,OP,EP,HP などに類似した種々の像を呈するが,もっとも多いのは構造改変を示唆する牽引性気管支拡張,容積減少などを伴わない,広範囲な非区域性,両側性のすりガラス陰影,consolidation である.
また,非区域性病変がみられた場合に,consolidationが主体であれば重症細菌性肺炎や侵襲性肺アスペルギルス症と,すりガラス陰影が主体であればPCPやCMV 肺炎など感染症との鑑別を画像だけで行うことも困難な場合がある.
PCP は両側対称性で,上肺野の内層を主体とした非区域性のすりガラス陰影が特徴的で,汎小葉性の分布で病変部と正常肺が明瞭な境界を呈するモザイクパターンを示す.CMV 肺炎が単独で起こることはまれで,PCP と同時に併発する場合が多く,画像所見はすりガラス陰影と小葉中心性の結節影を伴うことが特徴である.また,侵襲性肺アスペルギルス症などの真菌感染症はCT で結節やconsolidation 周囲にすりガラス陰影を伴うhalo sign にも留意する.
なお,薬剤ごとに出現しやすい肺障害があり,CT画像所見と原因薬剤を結びつけることが可能な場合もあり,代表的なものを「日本呼吸器学会:薬剤性肺障害の診断・治療の手引き, 2013」に示す.
- ④細菌学的検査
薬剤性肺障害の鑑別診断において,呼吸器感染症の否定が重要となるため,喀痰検査(一般細菌ならびに抗酸菌の塗沫,培養)や,尿中肺炎球菌抗原,尿中レジオネラ抗原などで感染症の除外を行う.
- ⑤気管支鏡
気管支肺胞洗浄液(BALF)を,①cellular pneumonia(HP パターンで,もっとも頻度が高く,ステロイドが奏効する.BALF 中リンパ球が増加しているもので,CD4/CD8 比は低いことが多い.),②EP(BALF 中の好酸球分画が増加し,ステロイドが奏功する),③OP(BALF 中リンパ球,好中球,好酸球などが種々の割合で混在し,CD4/CD8 比は低いことが多い),④cytotoxic reaction(DAD パターンであり,細胞障害性薬剤により誘発され,BALF 中の好中球分画が増多する,予後不良な群である),⑤diffuse alveolar hemorrhage(赤血球,ヘモジデリンを貪食した肺胞マクロファージがみられる)に分類することで,治療反応性や予後予測につながることがある.
経気管支肺生検による病理組織学的所見は非特異的なものが多く,間質性肺炎のあらゆるパターンをとりうるため,薬剤性肺障害の確定診断を単独で行うことは困難であるが,感染症,肉芽腫性疾患,腫瘍性病変の除外には有用である.
- ⑥薬剤負荷試験
薬剤への過敏反応についての再現性をみることは,確定診断につながるが,重篤な有害事象をきたしうるため,倫理的にも勧められず,具体的な方法も含めて,一定の見解を得ていない.
ただ,誤って被疑薬の再摂取を行った際に再現性が証明された場合は,診断が確定する.
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