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馬尿酸

馬尿酸

別名 トルエン代謝物

臨床的意義

  • トルエン100ppmの曝露で軽度の中毒症状(粘膜刺激症状,頭痛,記憶力障害など),400ppmで軽度の眼刺激,600ppmで疲労,吐き気,軽度の躁状態,800ppmで眠気,平衡機能の失調,強い刺激,鼻粘膜からの分泌,1,000ppmを超えると幻覚や麻酔作用,死亡もありうる.
  • トルエンは体内に吸収されると80%は肝臓で代謝され,安息香酸となり,さらにグリシン抱合を受けて馬尿酸として尿中に排泄される.馬尿酸の生物学的半減期は1.5時間と短く,曝露後時間が経過すると低値となる
  • 「分布」は冒頭に述べたタイミングで採尿された検体以外には適用できない.
  • トルエンの現在の許容濃度(日本産業衛生学会)および管理濃度(厚生労働省)は50ppmとなっているが,分布の区分はこの濃度に対応していない.各分布の境界値が定められた当時の管理濃度は100ppmで,基準濃度を下げた後も分布区分の見直しが行われていないことによる.
  • 50ppm曝露に相当する尿中馬尿酸量は1.5g/l前後であるが,その95%下限値は1g/l程度となり,このレベルは非曝露者の尿中馬尿酸量の上限値に相当する.したがって,基準値(管理濃度)50ppm以下に保つことが求められる職場の曝露量管理に尿中馬尿酸値を用いるには,十分な注意が必要である.
  • 日本産業衛生学会では,50ppm相当のトルエンの生物学的許容値として血中トルエン濃度(0.6mg/l),尿中トルエン濃度(0.06mg/l)を提案している.検体採取から測定まで十分管理できれば,気中濃度が低い職場の曝露評価に有用である.
  • 検査機関における尿中馬尿酸の測定には通常数日かかるため,救急医療の現場で急性トルエン中毒を疑う場合は,脱力および筋力低下,腹痛,神経学的徴候の有無を明らかにし,血清電解質(カリウム低値およびクロール高値),動脈血液ガス検査(代謝性アシドーシス),腎機能検査,尿中ミオグロビン(横紋筋融解によりミオグロビン尿症をきたす)をもとに診断するのが実際的である.脳MRI上はT2強調像での側脳質周囲白質の高信号領域,プロトン密度強調像での白質・灰白質の境界不鮮明化が特徴的所見である.
  • シックハウス症候群予防のために設定されたトルエンの室内濃度指針値は0.07ppmであるが,この濃度域の曝露を馬尿酸により評価することはできない.
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基準値・異常値

基準範囲
  • 有機溶剤中毒予防規則(有機則)に基づく法定健康診断として測定する場合は,厚生労働省通達の「分布区分」に従う.この数値は曝露の多少を判定するための目安であり,正常・異常の鑑別を目的としたものではない.
  • 分布1:1.0以下,分布2:1.0超~2.5以下,分布3:2.5超(単位:g/l
変動要因
高値

【2.5g/l超】

  • 天然由来の安息香酸を含むいちご,すもも,プルーンなどの果実や,保存料として安息香酸を含む飲食物(清涼飲料水,マーガリン,しょうゆなど)の摂取状況を確認する.尿中馬尿酸がトルエン曝露によることが確実である場合,健康影響が生じる可能性のある曝露量と考えられる.健康状態とともに作業場の環境や作業方法が適切か確認し,必要な対策を行う.空気中有機溶剤濃度の測定(作業環境測定)が行われている場合は,結果を確認したい.

次に必要な検査

トルエンは尿細管障害をきたすので,β2-ミクログロブリンなどの尿細管機能検査を行う.また,必要に応じて神経内科学的検査を行う.可能なら個人曝露濃度を測定することが望ましい.
変動要因
  • 職場の健康診断項目として予想外に高値の結果を得た場合には,まず飲食物による影響を疑い,必要に応じて再検査することが望ましい.また,作業条件の確認を行う.手についた塗料や油などを有機溶剤で洗うようなことがあると皮膚からの吸収量も無視できないので,問診上留意する.
  • 馬尿酸濃度は,発汗による尿の濃縮または水分摂取による希釈の影響を受けるため,尿比重が極端に大きいか(>1.030)小さい(<1.010)場合は,検体を採取し直したほうがよい.
( 上島通浩 )
臨床検査項目辞典

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「最新 臨床検査項目辞典」
監修:櫻林郁之介・熊坂一成
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, inc., 2008.

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