各検査項目がどのような目的で用いられているかを示します。
- ACTH低下あるいは増加に対してDHEAは敏感に反応するので,Cushing症候群の病型を鑑別するときに測定する.すなわちACTH依存性である下垂体性Cushing病では高値となり,対照的にACTH非依存性副腎性Cushing症候群やpreclinical Cushing症候群では低値となる.
- 副腎癌では糖質コルチコイド,鉱質コルチコイド,副腎アンドロゲンの3系統すべてのステロイドホルモンが著増することが多く,腺腫によるCushing症候群でDHEAが低値になるのとは対照的にDHEAが高値となる.
- 高プロラクチン血症では副腎アンドロゲン産生刺激により高値を示す.
- 21-,ないしは11β-水酸化酵素欠損症,3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症では糖質コルチコイド,鉱質コルチコイド合成が障害され,ステロイド合成が17α-水酸化酵素を介してDHEAの方へ流れるため,高値となる.対照的に17α-水酸化酵素欠損症では低値となる.
- 多のう胞性卵巣症候群では17α-水酸化酵素活性が増強し,3β-水酸化ステロイド脱水素酵素活性が減弱するためΔ4-アンドロステンジオンとともにDHEAも上昇する.
- 副腎皮質3層がすべて障害される原発性副腎不全,ならびにACTH分泌不全に伴う続発性副腎不全でも低値を示す.
- 外傷などの急激なストレス状況下におけるACTH分泌の突然の増加に対する反応として,コルチゾール,DHEAはともに増加するが,コルチゾールが高値を維持するのとは対照的にDHEAは時間とともに減少していく.神経性食欲不振症や,慢性的なストレス存在下においては血中コルチゾールが高値をとるにもかかわらず,血中DHEAは低値となる.
基準値・異常値
不特定多数の正常と思われる個体から統計的に得られた平均値。 |
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高値 |
11β-水酸化酵素欠損症、 21-水酸化酵素欠損症、 3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症、 Cushing病、 テストステロン産生卵巣腫瘍、 異所性ACTH産生腫瘍、 高プロラクチン血症、 多のう胞性卵巣症候群、 副腎癌
Cushing症候群の一部(Cushing病,異所性ACTH産生腫瘍),先天性副腎皮質過形成の一部(21-水酸化酵素欠損症,11β-水酸化酵素欠損症,3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症),多のう胞性卵巣症候群,副腎癌,テストステロン産生卵巣腫瘍,高プロラクチン血症 |
低値 |
17α-水酸化酵素欠損症、 ACTH単独欠損症、 Addison病、 Klinefelter症候群、 Prader症候群、 preclinical Cushing症候群、 Sheehan症候群、 Turner症候群、 神経性食欲不振症、 副腎結節性過形成、 副腎腺腫
Cushing症候群の一部(副腎腺腫,副腎結節性過形成),preclinical Cushing症候群,Addison病,続発性副腎不全(Sheehan症候群,ACTH単独欠損症),先天性副腎皮質過形成の一部(17α-水酸化酵素欠損症,Prader症候群),Turner症候群,Klinefelter症候群,神経性食欲不振症 |
次に必要な検査 |
異常値の場合,コルチゾール,アルドステロン,デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEA-S)を含めた性ステロイドおよびその中間代謝産物を同時に測定し,下垂体-副腎皮質系のどこに異常があるか調べる.
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変動要因 |
抗ドパミン薬の投与などで高プロラクチン血症があるときは高値を示し,副腎皮質ホルモン剤や経口避妊薬の投与で低値を示す.
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( 伊藤 聡 )