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メチル馬尿酸

メチル馬尿酸

別名 キシレン代謝物

臨床的意義

  • キシレン200ppmの曝露で眼,鼻,咽頭に刺激がある.400ppmを超えると眼刺激があり,さらに高濃度では吐き気,眩暈,呼吸障害,中枢神経抑制,肺うっ血,死亡もありうる.刺激性があるために,トルエンのように単独で嗜癖に用いられることはまれである.皮膚接触すると,刺激,脱脂により皮膚炎を起こす.
  • キシレンは揮発性,脂溶性に富むため,吸入だけでなく皮膚接触により容易に体内に吸収され,両手を15分間キシレンに浸したときの吸収量は100ppmの経気道曝露に相当する.体内に吸収されたキシレンの約5%は未変化体として呼気に排泄され,90%以上はメチルベンジルアルコールを経てメチル安息香酸に代謝され,さらにグリシン抱合を受けてメチル馬尿酸となって尿中に排泄される.残りの2%以下は,キシレノールに代謝され,硫酸またはグルクロン酸抱合を受けて尿中に排泄される.メチル馬尿酸の生物学的半減期は3.6時間と短いので,曝露後に時間が経過している場合は尿中代謝物が検出されないこともある.
  • 通常3種の異性体の濃度の合計をメチル馬尿酸濃度とし,「分布」に対応させる.この「分布」は,採尿が連続した作業日の後半の作業日(当該勤務週の最終日など)の作業終了時に行われた場合に曝露の多少を判断するための数値であり,それ以外のときに採尿された検体には適用できない.
  • キシレンの現在の許容濃度(日本産業衛生学会)および管理濃度(厚生労働省)は50ppmである.生物学的許容値(日本産業衛生学会)と許容濃度は対応しているが,分布の区分(厚生労働省)はこの濃度に対応していない.各分布の境界値が定められた当時の管理濃度は100ppmで,基準濃度を下げた後も分布区分の見直しが行われていないことによる.
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基準値・異常値

基準範囲
  • 有機溶剤中毒予防規則(有機則)に基づく法定健康診断項目として測定する場合は,厚生労働省通達の「分布区分」に従う.分布区分以外の基準値として,「生物学的許容値」が日本産業衛生学会により勧告されている.分布区分は曝露(体内への吸収量)の多少を判定するための目安であり,正常・異常の鑑別を目的としたものではない.一方,生物学的許容値は,それ以下の濃度であればほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響がみられないと判断される値である.
  • 分布1:0.5以下,分布2:0.5超~1.5以下,分布3:1.5超
  • 変動要因
高値

【1.5g/l超】

  • キシレンに接触する作業者の場合,8時間労働に換算し時間加重平均濃度100ppmに相当する曝露を受けていると考えられる.この曝露量では健康影響を生じる可能性があるため,健康状態とともに作業場の環境や作業方法が適切か確認し,必要な対策を行う.現在は,日本産業衛生学会の許容濃度も厚生労働省の管理濃度も50ppmとなっているため,生物学的許容値である800mg/lを超えていれば対策をとるべきであろう.空気中有機溶剤濃度の測定(作業環境測定)結果が得られる場合は,作業環境が適切な状態にあるかの判断に有用である.

次に必要な検査

可能なら個人曝露濃度を測定することが望ましい.
変動要因
  • 職場の健康診断項目として予想外に高値の結果を得た場合には,作業条件の確認を行う.手についた塗料や油などを有機溶剤で洗うようなことがあると皮膚からの吸収量も無視できないので,問診上留意する.
  • 尿中代謝物濃度は尿の濃度により影響され,例えば発汗が多く尿量が極端に少なくなるとそれに対応して代謝物濃度が高くなる.アメリカ労働衛生専門家会議(ACGIH)は,尿が著しく濃い場合(比重>1.030またはクレアチニン>3g/l)や薄い場合(比重<0.010またはクレアチニン<0.5g/l)には試料を採取し直すべきであるとしている.
( 上島通浩 )
臨床検査項目辞典

「最新 臨床検査項目辞典」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部の項目を抜粋のうえ当社が転載しているものです。全項目が掲載されている書籍版については、医歯薬出版株式会社にお問合わせください。転載情報の著作権は医歯薬出版株式会社に帰属します。

「最新 臨床検査項目辞典」
監修:櫻林郁之介・熊坂一成
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, inc., 2008.

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