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細菌学的検査(塗抹検査、培養検査)

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臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

  1. 一般細菌の塗抹検査であるグラム染色は,1884 年に開発されたものであるが,今日でも細菌の分類や同定における基本的技術として欠かせないものである.細菌が青く染まるグラム陽性菌と,赤く染まるグラム陰性菌に大別でき,特徴的な形態の菌は塗抹検鏡だけである程度菌種の推定も可能である.
  2. グラム染色をはじめとする塗抹検査は,10 分程度で結果が得られ,感染症の初期治療において抗菌薬の選択をするうえで有力な情報を与えてくれる迅速診断法のひとつである.
  3. 塗抹検査(グラム染色)は,感染症の起因菌同定におけるもっとも重要な基本的手技であるが,日本では一部の施設を除き,医師自らが塗抹検査を実施するという習慣がない.そのため安全策として最初から広域の抗菌薬を選択しがちである.
  4. 広域の抗菌薬(第 3 世代セフェム系,カルバペネム系,ニューキノロン系など)を使用すると,菌交代現象による日和見感染症や耐性菌が生じやすくなる.塗抹検査の結果によってできるだけ狭域の抗菌薬を選択することが望ましい.
  5. 確実な菌の同定と,薬剤感受性検査の結果を得るため,培養検査の実施は必須である.
  6. 常在菌の混入や病原菌の死滅を防ぐため,培養検査の検体を適切に採取して保存,輸送する必要がある.
  7. 感染症の診断治療において血液培養は重要であり,積極的に行うようにする.
  8. 各種迅速診断方法が変化してきており,状況に応じて活用する.
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検査

1.細菌塗抹検査(グラム染色)
[所見のとり方]
  1. ①炎症細胞
    1. ① 菌体を観察する以外に,白血球などの炎症細胞を観察することによって,炎症の程度や検体が適切に採取されたかどうか判断できる.
    2. ② 喀痰の場合,唾液が混ざると口腔内の上皮細胞が多く観察され,菌体もさまざまな口腔内の常在菌も観察される.上皮細胞と白血球は大きさにより容易に識別できる(図3,4).検鏡する際はできるだけ上皮細胞が少なく,白血球が多く見える部位を観察する.
    3. ③ 上皮細胞が見あたらず白血球が多数観察され,単一の菌が多数見えて貪食像もあれば起因菌と考えられる.貪食像の典型例では核細胞質の端に寄り,空いたスペースに形態が変化した菌が密集している(図5).
    4. ④ まず100~400倍の低倍率の視野で白血球や上皮細胞の有無を見て,適当な場所が見つかったら油浸レンズを使用して1,000 倍で菌体を観察する.
    5. ⑤ 核が2 分葉の好酸球は喘息発作のときなどによく見られる(図6).
    6. ⑥ 独特の形態の線毛上皮細胞はウイルス感染でよく見られる(図7).
    7. ⑦ 菌量および白血球の量は1,000 倍の1 視野で0~9 個(1 桁)は“1+ ”,10~99 個(2 桁) は“2+”,100 個以上(3 桁)では“3+”と表現する.ただし統一した基準はなく,各施設でそれぞれ独自の表現方法を使用しているのが現状である.
  2. ②各種細菌
     グラム陽性菌は菌体が青く染まり,グラム陰性菌は赤く染まる.粘液も赤く染まる.原則的には球菌はグラム陽性,桿菌はグラム陰性であることが多い.球菌(cocci)は丸く見え,桿菌(rod or bacilli)は細長く見える.桿菌は菌体の太さにより,小桿菌,中桿菌,大桿菌に区別される.この区別は菌体の長さによるものではない.
    1. ① 黄色ブドウ球菌(gram positive cluster:GP cluster,ブドウの房状)
       グラム陽性球菌であり,ブドウの房状に固まって見える.肺炎球菌やレンサ球菌より菌体が大きく,形態は正球状に近い.ごく一部は双球菌,レンサ球菌のように見えることもある.形態学的に配列が特徴的なので比較的容易に鑑別できる.広域の抗菌薬を長期使用中の入院患者の検体でこの菌が観察された場合は,MRSA を疑う必要がある.便の塗抹によりMRSA 腸炎の早期診断も可能である(図8).
    2. 肺炎球菌(gram positive diplococcus:GPDC,グラム陽性双球菌),lancet form(ランセット状)
       グラム陽性球菌であり,大部分は2 つずつ菌体がペアになって存在するが,4~6 個の菌体が連鎖状に連なって見える部分があってもよい.菌体は正球ではなくやや楕円形(そろばんの玉状)で,長軸方向が直線状に並んでペアを形成するのが特徴である.莢膜がhalo(菌体周囲に薄い膜のように見える)として観察されることが多い.医療器具のlancetに形態が似ているためlancet formともいわれる.脱色しすぎるとしばしば赤く染まってグラム陰性菌と見間違うことがあるが,形態が特徴的なので慣れれば鑑別は容易である(図9).
    3. ③ レンサ球菌(Streptococuss/Gram-positive chain:GP chain,グラム陽性レンサ球菌)
       グラム陽性球菌で連鎖状に長く連なって見える.一部は双球菌状に見えてもよい.形態学的に特徴的であり鑑別は容易である.喀痰で上皮細胞の近くに見えた場合は口腔内の常在菌のレンサ球菌(α-streptococccus など)が見えていることが多く,起因菌とはみなさない(図10).
       なお,Enterococcus(腸球菌)も同じように見える.カテーテル留置中の尿の塗抹でこの菌が見えた場合は腸球菌の可能性が高い(図11).ただし尿路感染において腸球菌は病原性が低く,通常は治療の対象にはならない.
    4. Moraxella catarrhalis,淋菌,髄膜炎菌,Acinetobacter(Gram-negative diplococcus:GNDC,グラム陰性双球菌)
       グラム陰性球菌であり,肺炎球菌と同じように2 つの菌体がペアになって存在するが,肺炎球菌は長軸が縦並びであるのに対し,長軸が横並びであり,kidney shape(腎臓型)と称される.Moraxella,淋菌,髄膜炎菌などは形態学的には同じように見える.Acinetobacter は他の菌よりはやや小さい.Acinetobacter は日和見感染を除けば通常は起因菌にはならない.尿道分泌液の塗抹でこの菌が見えたら淋菌を,髄液の塗抹で見えたら髄膜炎菌を疑う.喀痰で上皮の近くに見えても口腔内の常在菌のNeisseria 属のことが多く,起因菌とはみなさない(図12).
    5. インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae/gram negative cocobacilli:GNCB,グラム陰性短桿菌)
       菌体が小さいグラム陰性桿菌であり,球菌状,短い桿菌,比較的長い桿菌など多型性があるのが特徴で,1 つの視野でさまざまな形態の菌体が観察できる.他の菌に比べて菌体が小さいため,塗抹標本の背景にまぎれて見逃すことがあるので注意が必要である(図13).
    6. ⑥ 緑膿菌(Pseudomanas aeruginosa/Gram-negative small rod:GNSR,グラム陰性小桿菌)
       グラム陰性桿菌であるが,小桿菌と表現され,糸のように細く見える.ムコイド型の場合は菌体周囲に粘液状の塊が観察できる.病院内感染の起因菌として頻度が高く,抗菌薬投与による菌交代現象でもしばしば検出される.有効な抗菌薬が限られるので,塗抹でこの菌が見えたら緑膿菌に抗菌力のある薬を選択する.なお,Serratia は緑膿菌よりも多型性に富むが,ほぼ同じように見える(図14).
    7. ⑦ 大腸菌(Escherichia coli/Gram-negative middle rod:GNMR,グラム陰性中桿菌)
       グラム陰性桿菌であるが,中桿菌と表現され,緑膿菌よりも菌体が太くはっきりと見える.両者の区別は慣れれば比較的容易である.大腸菌は単純性の尿路感染症の起因菌として頻度が高く,膀胱炎や腎盂腎炎の尿の検体ではしばしば観察される(図15).
    8. 肺炎桿菌/ Klebsiella pneumoniae(Gram-negative large rod:GNLR,グラム陰性大桿菌)
       グラム陰性桿菌であるが,大桿菌と表現され,典型的な場合は大腸菌よりもさらに菌体が太く見え,はっきりとした莢膜(halo)が観察される.しかし実際には大腸菌と鑑別困難な太さに見えることも多い(図16).
    9. Campylobacter(gull wing,カモメの翼状)
       グラム陰性桿菌であるが,菌体がらせん状であるため,コイル状の波打った特徴的な形態が観察できる.カモメの翼のようにも見え,gull wingと表現される.太さは緑膿菌と同じくらいの小桿菌であり,背景に溶け込んで見逃しやすい.急性腸炎の患者の便の塗抹でこの菌が見えたらカンピロバクターによる腸炎と考えてほぼ間違いない.サルモネラや赤痢菌などは大腸菌などの腸内細菌と同じ形態なので,塗抹検査では鑑別できない(図17).
    10. Corynebacterium〔Gram-positive rod(グラム陽性桿菌),chinese letter pattern(漢字状)〕
       グラム陽性桿菌だが,短冊状ないしはハの字型,バナナの房状と称される,一端を束ねたような特徴的な形態を示し,慣れれば鑑別は容易である.欧米人の目には漢字に見えるらしく,chinese letter pattern とも表現される.ジフテリア菌もこのように見えるが,喀痰で上皮の近くに見えた場合は口腔内の常在菌であり,起因菌とはみなさない(図18).
    11. Candida albicans(酵母様菌)
       真菌はグラム陽性で青く染まる.カンジダの酵母は菌体が大きく,一般細菌との鑑別は容易である.菌糸が赤く染まって見え,グラム陰性桿菌と見誤ることがあるので注意が必要である(図19).カンジダが痰から検出されても口腔内の常在菌の混入がほとんどで,通常は治療の対象にはならない
2.細菌培養検査
[検体採取,保存の注意点]
  • ①本来無菌である検体(血液,髄液,胸水,腹水,関節液など)を採取する際には,穿刺部位の皮膚消毒を入念に行い皮膚常在菌の混入を避けるように注意し,滅菌されたスピッツに保存する.喀痰は口腔内の常在菌の混入が避けられないが,うがいしたあとに採取するなど,なるべく汚染を避ける努力をする.尿も尿道口付近の皮膚常在菌の混入が避けられないが,尿道口を消毒し,中間尿を採取するようにする.
  • ②抗菌薬が投与されていると菌の検出率が低下するので,初期治療においては抗菌薬開始前に検体をとるのが原則である.治療中に検体をとる場合は,可能であれば24 時間以上抗菌薬投与を中止するか,次の抗菌薬投与直前の血中濃度が最低の時期に採取するように心がける.
  • ③喀痰や尿など常在菌の混入が避けられない検体を室温に放置すると,少数混入した常在菌が増殖して,起因菌が判明しなくなる危険性がある.起因菌も増殖し,定量培養の結果が信頼できなくなる.採取後の検体は4℃の冷蔵庫に保存して,できるだけ短時間で培地に塗るようにする.冷蔵庫保存は24 時間が限度であり,これ以上経過した場合は可能なら検体を採取しなおす.
  • ④淋菌や髄膜炎菌は低温に弱く,4℃では死滅するので,これらが検出される可能性のある髄液や尿道分泌液はすぐに培地に塗って孵卵器に入れるか,検体を孵卵器に入れて保存する必要がある.使用する培地もあらかじめ孵卵器で温めておくことが望ましい.
  • ⑤膿,各種体腔穿刺液(胸水,腹水など)をはじめ,喀痰でも嫌気性菌が検出される可能性がある場合は,嫌気性菌は空気(酸素)に触れると死滅するので,採取後すぐに嫌気状態で菌を保存できる容器に入れて検査室に届ける.

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    図3~図19
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