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虚血性腸炎

別名 ischemic enteritis

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臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

  1. 虚血性腸炎とは,血流障害とそれに基づく低酸素状態がもたらす,腸管の壊死性変化を本態とする疾患の総称である.
  2. 50歳以上の高齢者に好発するが,最近若年発症者も増加している.
  3. 腸管虚血の原因として血管側因子と,腸管側因子の両者が発症に関与しているが,原因が不明なことも多い.また,すべての原因で大腸の灌流低下を引き起こし,粘膜障害から全層虚血まで至る可能性がある.
  4. 好発部位は脾彎曲部から下行結腸にかけて(Griffiths point)とS状結腸(Sudek's point)である.
  5. 虚血性腸炎は重症度とその経過から,一過性型(60%),狭窄型(30%),壊疽型(10%)の3つに分類される.壊疽型はまれではあるが予後不良であり,緊急手術が必要となる.
  6. 典型的には激しい腹部疝痛に続く鮮血便,頻回の水様下痢を三大症状とするが,臨床症状は典型的でないことも多い.腹痛部位が変化した場合や持続性腹痛へと変化していく場合は壊疽型,腹膜炎への進展を考慮する.
  7. 腹膜刺激症状がない場合は,診断確定,治療方針決定のために腹部超音波またはCT検査,内視鏡検査,生検をできるだけ早期に施行する.
  8. 多くは保存的治療によって数日~1週間で改善するが,壊疽型を疑う場合には緊急手術の適応,また狭窄型を疑う場合は内視鏡検査によるfollowが必要.
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検査

①血液検査
 発病早期に白血球増加,左方移動,CRP 上昇,赤沈亢進が認められる.これらの異常所見は発症後2~4週で正常化するが,狭窄型より一過性型の方が正常に復するまでの期間が短い.壊疽型ではCPK やlactateの上昇を認め,代謝性アシドーシスや腎機能障害,低Na 血症やLDH の上昇を認めるが,一般に遅れて上昇してくる.
②腹部単純Xp
 長い範囲にわたって高度の腸炎が生じている場合には,内腔が虚脱するために,その領域に腸管ガス像が目立たない.さらに内腔にわずかに残されたガスと,肥厚した腸管壁によって母指圧痕像を示すことが特徴的.
③腹部超音波
 発症早期に区域性の壁肥厚を認める.またcolor doppler により壁の血流低下がみられた場合は強く虚血を疑うが,感度は高くない.
④腹部CT(図2)
 典型的には脾彎曲部から下行結腸,S 状結腸近位部などにかけて,虚血領域に連続した壁肥厚像が認められる.
 造影CT では粘膜層,粘膜下層および筋層/漿膜下層が3 層構造を示し,とくに粘膜下層に高度の浮腫性肥厚が認められる.中間層の低吸収域は粘膜下層の浮腫や出血を反映し,内層・外層の高吸収域は血流増生もしくは再灌流を反映する.
 その他腸管浮腫の範囲,腸管外への炎症の波及の有無,腹水や穿孔の有無の評価などが可能である.腹腔内遊離ガス像,門脈内ガス像,腸管壁内ガス像などを認めた場合には壊疽型を疑う.腸管壁全層性の虚血では,造影CT にて腸管壁造影不良,単純CT にて壁内出血を反映した高吸収域を示す.
⑤ガストログラフィン注腸造影(穿孔の危険性があるのでバリウムは用いない)
 通常の診断では不要だが,狭窄型の慢性期における狭窄の程度の評価には注腸造影は有用である.
 飯田・小田らの報告によると発病早期(10 病日程度)には,腸管内面の変化として区域性に粘膜の浮腫による母指圧痕像(粘膜下の出血と浮腫を反映)や縦走潰瘍,小潰瘍などがみられ,その後(10~42 病日)腸管の変形として偏側性変形,嚢形成,管腔狭小化が認められる.狭窄型では発病から2 カ月後には縦走潰瘍はほぼ治癒瘢痕化し,狭小化軽減,壁変形,偽憩室形成の固定化などを認める.一過性型では数週間~1カ月後にはほぼ正常像となるが,狭窄型では治療固定期から1~4 年程度かけて徐々に管腔狭小化が改善すると報告されている.
⑥大腸内視鏡(図3)
 腸管内圧を上げないために下剤は用いず,愛護的挿入を心掛ける.全大腸の観察は不要であり,病変粘膜の状態の観察と区域性の確認を行えればよい.
 病変部と非病変部との境界は比較的明瞭である.7病日以内には結腸紐に一致した白苔を伴った縦走潰瘍や,縦走する発赤・びらん,出血,粘膜の強い浮腫などを高率に認める.早期には粘膜が蒼白化,浮腫状となり,散在性の充血を認める.虚血が進行すると,粘膜下浮腫や出血がみられ,青黒い小水疱や小結節が現れる.
 狭窄型では,発症時に厚い白苔を伴う全周性潰瘍がみられることが多い.全周性病変であっても,その周辺に縦走病変がみられることが多く,結腸紐上がもっとも虚血の程度が強い.8~14 病日には狭窄型では炎症が持続しているのに対し,一過性型では治癒傾向が著しい.さらに,15 病日以降になると,狭窄型では管腔狭小化が明らかとなり,しばしば出血,浮腫,開放性縦走潰瘍が残存するのに対し,一過性型では完全に正常化するか,わずかな発赤や縦走潰瘍瘢痕を残して治癒する.
 広範囲に灰色~緑,黒色の粘膜が認められる場合は壊疽型を疑う.壊疽型では検査に伴う腸管穿孔や大出血の可能性があり,短時間で愛護的な検査を行う.腸管壁に30 mmHg 以上の圧をかけて膨張させることは避けるべきであり,CO2送気が望ましい.また,病変より口側への挿入や生検は避けるべきである.
⑦病理組織所見
 急性期(2~5 病日)には,粘膜・腺管上皮が変性・脱落・壊死剥離した陰窩の立ち枯れ像(ghost like appearance)や,粘膜固有層内のフィブリン沈着,出血,蛋白成分に富む滲出物,水腫,線維素血栓,高度でびまん性の杯細胞減少,ごく軽度の好中球浸潤などがみられ,診断上重要である.
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図2 虚血領域に連続した壁肥厚像 (単純CT画像)
図3 大腸内視鏡像
a:一過性型.縦走する発赤・びらん・盛り上がり偽膜様の潰瘍
b:一過性型.病変部と非病変部の境界が明瞭.半周に鱗状発赤と白苔が散在
c:狭窄型急性炎症期.白苔を伴う全周性潰瘍.赤紫の色調で強い虚血を疑う
d:狭窄型.40日後,管状の管腔狭小化が明らかとなり,しばしば出血,浮腫
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