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拡張型心筋症

略称 DCM
別名 dilated cardiomyopathy

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臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

  1. 心不全症状・胸部 Xp の著明な心拡大で疑い,心エコーで左室拡張とび漫性壁運動低下を確認する.虚血性心疾患弁膜症,高血圧性心疾患,特定心筋症など他の心疾患を除外することで最終的に診断される.
  2. 原因は不明であり,治療は対症療法で心不全不整脈,血栓塞栓症に対する治療が中心となる.ただし様々な治療が開発され治験進行中である.
  3. 予後不良であるが,原因自体が多様であり,β遮断薬の導入を含めた治療法の進歩により生存率は改善している.
  4. 死因は心不全死が約 50%,突然死が約 40%を占める.
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心不全による症状

 収縮不全により低心拍出になると生命に重要でない臓器への血流が減少していく.すなわち,最初は筋肉への血流が減り倦怠感が起こり,次に皮膚への血流が減り冷感が起こる.さらに腎臓への血流が減り乏尿となり,夜間の安静により腎臓への血流が改善して利尿がみられ,昼間乏尿・夜間多尿となる.脳や心臓自体への血流は最後まで保たれるので,心不全自体で意識障害や心筋虚血をきたすことはまれである.
 肺うっ血(左心不全)により咳嗽,喀痰(ときに血痰),呼吸困難(息切れ,喘鳴),起坐呼吸がみられる.体うっ血(右心不全)により頸静脈怒張,肝腫大,消化管うっ血(食思不振),下腿浮腫がみられる.黄疸を主訴に消化器内科を受診することもまれではない.
 夜間発作性呼吸困難は左室拡張障害(HFpEF)で発症することが多く,その代表が高血圧性心疾患であるが,慢性収縮障害(HFrEF)を呈するDCM でもみられ,「夜になると咳が出て苦しくなる」「昼間は元気だったのに,就床後に突然起坐呼吸が出現」という病歴になり,呼吸器内科を受診することがある.
 2000 年代半ばより収縮機能の保たれた心不全が注目され,拡張期心不全Heart Failure with preservedEjection Fraction(HFpEF:EF≧50%),収縮期心不全HF with reduced EF(HFrEF:EF≦40%)と分類されている.
<身体所見>
①収縮不全のため脈拍は微弱となり,代償性に頻脈になる.重症例では交互脈がみられる.収縮不全を認めるが,代償機転が働くため初期の血圧は必ずしも低くない.血圧低下例は予後不良とされる.
②肺うっ血があれば,湿性ラ音を聴取する.体うっ血があれば,頸静脈怒張,肝腫大,下腿浮腫がみられる.
③聴診で重要なものはⅢ音ギャロップおよび心房音(Ⅳ音)で,高率に聴取し特異的である.左室拡大により二次的に生じる僧帽弁逆流音や三尖弁逆流音も聴取する.
<心電図>
①多彩な心電図異常がみられるが,DCM に特異的な変化はない.
②心筋病変が進行すると心筋の脱落により低電位や異常Q 波が出現し,ST-T 変化はほとんどの症例でみられる.伝導系も障害され,心室内伝導障害・QRS 幅増加,脚ブロック,軸偏位をきたす.
③左房負荷は高率に認め,心房細動は約2割に認める.
④心室性不整脈を高率に認め,心室頻拍は約2 割に認める報告があり,徐拍型不整脈もまれではない.
⑤重症不整脈例ではHolter 心電図による監視が重要である.
<胸部Xp>
①収縮不全の代償により全例に心拡大を認め,うっ血像,胸水を多くの症例で認める.
②肺うっ血は,肺楔入圧12 mmHg 以上で起こり,antler’s sign(肺静脈怒張によるが,下方は代償性に収縮するために上方の血管が鹿の角のように目立つ)が出現する.肺楔入圧が18 mmHg 以上になると,間質性肺水腫によるKerley B line・Peribronchial cuffing が,24 mmHg になると肺胞性肺水腫によりbutterfly shadow が出現する.ただし慢性的経過ではさらに高い肺楔入圧にならないと,上記の所見は出現しない.
<心エコー図・ドプラ法>
①左室収縮能低下のため,び漫性の壁運動低下を認める.定量的にはFS 25%以下,EF 50%以下を目安に判断する.
②左室拡大を認める.定量的には左室拡張末期径(LVDd)55 mm 以上を目安にする.
③肺静脈波形や左室流入波形により左室拡張末期圧上昇の推定や心機能の評価を行う.
④心腔内血栓は左室心尖部と左心房にできやすい.
⑤左室拡大に伴い,二次性に僧帽弁逆流や三尖弁逆流が高率に出現する.
⑥経過観察や他の心疾患を除外するうえでも,心エコーは有用である.
<心臓カテーテル・造影検査>
①冠動脈造影は虚血性心疾患の鑑別に必要であり,左室造影ではび漫性に左室収縮能低下と容量の増大を認める.しかしCT・CMR など非侵襲的検査で情報は得られ,必要性は減少している.
②肺動脈カテーテル(Swan-Ganz カテーテル)を用いた肺動脈揳入圧の測定や心拍出量の測定は重症例で有用だが,臨床現場での使用は減少している.
<その他画像検査等>
①CT 検査は冠動脈の評価に有用である.CMR は心機能の評価や心筋組織性状の評価に有用である.
②心臓核医学検査
③現時点で心筋生検は,他疾患の除外診断とするための位置づけに留まる.
<血液・尿検査>
①BNP またはNT-proBNP は,心機能異常・構造異常を検出する心不全の指標としてスクリーニングに有用である.また治療効果の判定にも有用.
②血中心筋トロポニン(cTnT・cTnI)は微小な心筋傷害を反映し,急性心不全や重症心不全の病態でも上昇する.
③一般生化学検査や尿検査は,しばしば合併する腎機能障害や全身状態の管理のために必要である.
④DCM の20~30%が家族性であり病因遺伝子が判明してきており,遺伝子検査は推奨される.しかし現時点で発症前診断や適切なカウンセリングが可能である施設は限られており,医療体制が問題となる.
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