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心不全

別名 heart failure

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臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

  1. 急性心不全症候群の場合,クリニカルシナリオに則った初期治療を来院数分以内に開始し,すみやかに酸素化,血圧,不整脈の安定を図る.
  2. 心不全の重症度と予後,QOL の決定因子は運動耐容能である.労作時の心機能と症状が軽快するような治療方針を企てる.
  3. 腎機能,貧血,睡眠時無呼吸症候群,メタボリック症候群,COPD などの合併疾患も見逃さない.
  4. 慢性心不全は急性増悪の 2 週間くらい前から ADL が低下し始める.患者の activity が低下していることに気づいたら減塩,過労防止,服薬管理を行い,急性増悪を防ぐ.
  5. ガイドラインに基づいた治療を行う.
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検査

<急性心不全入院時の検査>
 入院時はうっ血の程度と低酸素の程度を評価する検査を直ちに行う(表11).筆者は表に示す検査の他,血漿と尿の浸透圧,FENa(FEUN)とimpedancecardiogram 法による血管抵抗(SVR)も測定している.
<診断に関する検査>
 急性心不全症候群は,「心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し,心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への灌流不全をきたし,それに基づく症状や徴候が急性に出現,あるいは悪化した病態」とガイドラインにも記載されているとおり,心ポンプ機能の低下と心内圧の上昇,心不全症状の存在が診断するために必要である.
 心ポンプ機能の低下に関して,HFrPF ではEF の低下,HFpEF では「Paulus WJ, et al:Eur Heart J 28:2359-2550, 2007」あるいは「松崎益徳 編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン 慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)」に従って診断する.心エコーがすぐにできない場合,症状・所見(表12)から心ポンプ機能の低下を判断する.うっ血は心内圧上昇により生じるが,Swan-Ganz カテーテルが入れば図5 のForrester 分類を用いる.挿入しない場合は心内圧上昇を示唆する症状と身体所見および胸部Xp(図17)から判断する.心内圧上昇・うっ血を示唆する身体所見を表13 に示す.
 急患室における初期治療を決定する際にはクリニカルシナリオが用いられる(表14).来院時の血圧が重要である.
 慢性心不全の場合,うっ血が取れて酸素化が改善した代償期では急性期の症状や所見は軽減する.NYHAⅠ度の場合は急性心不全症候群の既往が診断の根拠となる.
 基礎疾患の診断のための検査を表15,重症度評価のための検査を表16 に示す.
<心機能・重症度把握目的の検査>
①心エコー
 心臓の形態と機能を評価する基本的検査である.急性期に見るべき心エコーの指標を表17と表18に示す.収縮能,拡張能,左室径,逆流,左室の形態,右室と左室の関係などはもれなく評価する.うっ血の評価目的に下大静脈の大きさと形は重要である(図18).
 一般的に心エコーは臥位の状態で検査するが,この姿勢は静脈還流が増加する姿勢であるため,必ずしも患者の日常生活下の状況を反映しているとは限らない.労作時の症状が強い患者の心機能を評価したい場合には運動負荷心エコーが有用である.
 肺うっ血評価法として,心エコープローブを肺野にあてて反射を評価することもある.うっ血が強いとコメットサインが現れる(図19).
②BNP
 BNP は循環血液量の増加,前負荷上昇,心筋障害などに関連して,主に左心室から分泌される.BNPはNYHA重症度・予後と相関する(図20).
③心臓カテーテル検査 (Swan-Ganz カテーテル検査)
 心不全の原因として虚血性心疾患が占める割合は約35%である.冠動脈造影検査あるいは冠動脈CT は行うべきである.ただし,心不全を呈する虚血性心疾患は,必ずしも広範囲梗塞とは限らず虚血性心筋症(ischemic cardiomyopathy:ICM)のこともある.
そのため,全周性に心室壁運動が低下していて,壁運動異常領域が冠動脈還流域に一致しないからといって虚血性心疾患は否定できない.CT の場合はeGFR が45mL/分/1.73m2以下,CAG の場合は60mL/分/1.73m2以下のCKD合併時には造影剤腎症の発症予防目的に500~1,000mL 程度の生食による水分負荷を行ってから検査を行う.
 Swan-Ganz カテーテルは心エコーの発達により一時廃れたが,最近では,圧測定が実測できるため見直されている.尿量が少ない場合,ボリュームを入れるべきか利尿を強くするべきかの判断は下大静脈を見ても判断しにくいことがある.その際にもSwan-Ganzカテーテルのデータは有用である.圧データなどの正常値を表19 に示す.
④心肺運動負荷試験(CPX)
 心不全の重症度と予後はどの程度動けるかで判断される.NYHA 分類は最高酸素摂取量(peak VO2)と相関し,peak VO2は良好な予後予測因子である.そのため,重症度評価を行う場合,CPX は欠かせない.表20 にCPX によるWeber の重症度評価を示す.
 さらに重要なCPX の役割は心不全の病態評価である.CPX は労作時の心機能,心拍応答,血管応答,血圧応答,換気応答などを評価できる.動悸,息切れ,易疲労感などを治療するにあたり,これらの病態を理解しておくことは必須である.
 CRT-D(両室ペーシング機能付き埋込型除細動器)を植え込んだ場合,AV delay とrate response を適切に設定しないと運動耐容能は改善しない.労作時息切れ感を改善させるためには換気血流不均衡分布が小さくなる必要があり,これを評価するのはVE/VCO2である.NYHA Ⅲの患者に植え込んだ場合は,日常活動レベルに相当する10 ワット定常負荷中のVE/VCO2が最小になるAV 間隔を採用する.また,ランプ負荷にて心拍応答が適切に得られ,VO2が最高値になるrate response の感度を設定する.
 表21 にCPX から得られるパラメータを示す.
⑤血算・生化学的検査
 心不全が重症化するにつれて異常値をきたす項目を表22 に示す.Cr,eGFR,Hb は腎血流低下に伴い増悪し,ビリルビン値は肝うっ血と肝障害に伴って上昇する.Na,K と予後の関係を「Bowling CB, et al:Circ Heart Fail 3:253-260, 2010」,「Mikulic JA, et al:Circulation 52:477-482, 1975」に示す.
⑥脈圧,拡張期血圧,血管抵抗
 脈圧は心拍出量と関係する.急性心不全の経過中,拡張期血圧が低下せずに収縮期血圧だけが低下した場合は心ポンプ機能が低下したことを意味する.
 拡張期血圧は末梢血管抵抗と関係する.拡張期血圧がいつもよりも高値であった場合はニコランジルなどの血管抵抗改善薬を使用して後負荷を軽減させる.
<合併症>
 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)の評価目的にPULSOX,引き続きポリソムノグラフィを行う.
 CKD 合併の判断には尿中アルブミンとeGFR を用いる.eGFR が30 mL/min/1.73 m2未満の場合,45未満で尿アルブミン/Cr 比(ACR)が30 mg/gCr 以上,eGFR が60未満でACR が300以上の場合,予後が特に悪い.
 心不全では約40%に心房細動が合併する.また,心室期外収縮や心室頻拍も多くみられ,抗不整脈薬でQT が延長するとTorsades de Pointes(TdP)や心室細動が出現する.これらを把握するのは,もちろん心電図である.
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表11 急性入院時の検査
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表12 低心機能を示唆する所見
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図5 Forrester分類
図17 心不全における胸部Xp所見とPAWP
表13 心内圧上昇・うっ血を示唆する所見
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表14 クリニカルシナリオ
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NIV:非侵襲的陽圧換気
表15 基礎疾患・合併疾患診断のための検査
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表16 重症度評価のための検査
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表17 心不全急性期に心エコーでみるべき指標
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表18 心エコーの主な指標と正常値
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図18 下大静脈エコー
左が形態,右が呼吸性変動の例
図19 肺エコー
図20 日本心不全学会が推奨するBNP値の考え方
表19 右心カテーテルから得られる指標
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表20 Weber-Janicki 分類
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表21 CPX で得られる指標
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表22 心不全重症化を示唆する採血項目
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