プライマリケア Primary Care

sysmex

検査項目スピード検索

プラスミノゲンアクチベータインヒビター1

プラスミノゲンアクチベータインヒビター1

略称 PAI-1

臨床的意義

  • PAI-1は,t-PAと同様に血管内皮細胞から放出されることから,血管内皮細胞が傷害される病態,薬物やサイトカインなどによる血管内皮細胞の刺激,過度の静脈駆血などで上昇し,血管内皮細胞傷害のマーカーとして利用されることが多い.
  • PAI-1が高値を示す場合は,血管内皮細胞が傷害や刺激を受けている病態が示唆される.播種性血管内凝固症候群深部静脈血栓症などの血栓性疾患や,エンドトキシンにより血管内皮細胞が刺激される敗血症などの重症感染症のほかに,サイトカインが増加する悪性腫瘍や炎症性疾患でも刺激により放出されると考えられる.特に敗血症に起因したDICは,血中に活性型PAI-1が多く遊離し,線溶系が抑制されて血栓形成が促進されるため,線溶抑制型(凝固優位型)となる.その結果,線溶抑制型DICでは出血症状よりも臓器症状が前面に出て,多臓器不全に進展しやすいと考えられている.逆に急性前骨髄球性白血病などに起因したDICでは,PAI-1は微増にとどまり線溶優位型となって出血症状が前面に出やすい.DICの病型分類において,このようなPAI-1の特徴的な動態は,PAI-1とは反対の動きを示すFDP-Dダイマーとともに重要視されるようになってきた.
  • PAI-1は脂肪細胞からも放出され,脂肪組織が産生するアディポカインの一つに含まれている.メタボリックシンドロームにおいて,PAI-1の増加は,TNF-αの増加とともに,血管内血栓の形成を促進する重要な危険因子として認識されている.
  • またPAI-1は,他にもいろいろな臓器や組織で発現される.血管内の線溶阻止因子としてだけではなく,組織の再構築や細胞の移動といった細胞周囲での線溶現象の制御にも関与すると考えられ,創傷治癒や腫瘍細胞の浸潤転移などの研究領域でも注目されている.
  • 低値を示す場合には先天性欠乏症が考えられ,臨床症状は止血異常となる.線溶系を抑制できないため,いったん止血した後に,じわじわと滲むように出血する後出血のかたちをとる.まれな疾患であるが,一般的なスクリーニング検査で検出されない止血異常症の場合,除外診断のためにPAI-I抗原量の測定も考慮する必要がある.
  • なおPAI-1の測定自体は保険収載項目ではない.実際の医療現場では,臨床的意義がほぼ同等で保険収載項目であるt-PA・PAI-1複合体検査が選択されることが多い.
詳細を見る

基準値・異常値

基準範囲
抗原量:50ng/ml以下
変動要因
高値

エンドトキシン産生菌による敗血症、  悪性腫瘍、  広範囲の血管病変(大動脈瘤,膠原病)、  代謝性疾患(糖尿病,高脂血症,メタボリックシンドローム)、  動静脈血栓症、  播種性血管内凝固症候群(DIC)

血管内皮細胞傷害:播種性血管内凝固症候群(DIC),動静脈血栓症,エンドトキシン産生菌による敗血症,代謝性疾患(糖尿病,高脂血症,メタボリックシンドローム),広範囲の血管病変(大動脈瘤,膠原病),悪性腫瘍など

低値

先天性PAI-I欠乏症

先天性PAI-I欠乏症

次に必要な検査
血管内皮細胞傷害を評価するためには,組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)との複合体(t-PA・PAI-1複合体)やトロンボモジュリン(TM)などの血管内皮細胞マーカーを定量測定する.さまざまな病態で高値を示すので,それぞれの疾患に応じた精密検査を進めていく.
変動要因
  • 過度の静脈駆血などで血管内皮細胞が刺激されると,PAI-1のみならずt-PAも人為的に放出されるので,特に採血条件に注意する.早朝安静時に,全く駆血をしないか,駆血しても静脈穿刺できる最低限の緊縛にとどめ,すみやかに採血を終了させる.採血針の穿刺による血管内皮細胞の刺激の影響を避けるために,最初の少量の検体を破棄してから測定検体を採取するのが望ましい.
  • またPAI-1は血小板にも存在するので,強引な採血による血小板の崩壊や,不十分な遠心による血小板の残存は,測定に影響を及ぼす可能性がある.
  • このように厳しい採血条件があるために,PAI-1値を比較,評価する際には,検体が同一条件下で採取されたかを常に考慮する必要がある.
( 香川和彦 )
臨床検査項目辞典

「最新 臨床検査項目辞典」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部の項目を抜粋のうえ当社が転載しているものです。全項目が掲載されている書籍版については、医歯薬出版株式会社にお問合わせください。転載情報の著作権は医歯薬出版株式会社に帰属します。

「最新 臨床検査項目辞典」
監修:櫻林郁之介・熊坂一成
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, inc., 2008.

お問い合わせ サイトマップ
個人情報の取り扱いについて ご利用に際して
会社概要
PAGE TOP