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マンデル酸

マンデル酸

別名 スチレン代謝物

臨床的意義

  • 25~50ppm以上の慢性的なスチレン曝露で数字符号テストや反応時間の遅れなどの神経行動テストバッテリーへの影響,30~50ppm程度で後天性の色覚障害,50ppm程度またはそれ以上で運動および感覚神経伝導速度の低下,100~200ppmの曝露で眼と上気道の刺激,頭痛,疲れ,吐き気,めまい,数百ppmでは麻酔作用,嗜眠状態,集中力低下がみられる.また,皮膚に付着すると脱脂作用により刺激性皮膚炎を起こす.
  • スチレンの発癌性に関して,国際がん研究機関(IARC)は第2群B(人間に対しておそらく発癌性のあると考えられる物質で,証拠が比較的十分でない物質)に分類している.
  • 体内に吸収されたスチレンの1~2%は未変化体として呼気に排泄され,85%はマンデル酸,10%はさらにフェニルグリオキシル酸に代謝され,尿中に排泄される.マンデル酸の尿中排泄は二相性減衰を示し,生物学的半減期はおよそ4時間と25時間である.体脂肪に貯留するため体内に長く残る.呼気への未変化体排泄の半減期は,1~7時間と変動する.スチレンは吸入だけでなく皮膚接触により体内に吸収されるが,繰り返し接触する場合の吸収量は,吸入曝露1~2ppm相当量程度と見積もられている.
  • 職場の許容濃度・管理濃度と尿中マンデル酸濃度の「分布」区分は対応しない.各分布の境界値が定められた後に許容濃度・管理濃度が下げられた一方で,分布区分の見直しが行われていないことによる.
  • 飲酒者がスチレンを吸入すると,マンデル酸の排泄が最大約3時間遅れると同時に,血液中のスチレングリコールの濃度がマンデル酸に比べ相対的に高くなる.
  • エチルベンゼンは,溶剤として市販されるキシレンに異性体として含まれる.高濃度曝露で鼻粘膜の炎症,流涙,めまい,中枢神経の抑制を生じる.
  • 体内に吸収されたエチルベンゼンの6%は未変化体として呼気に排泄され,残りは側鎖の酸化によりメチルフェニルカルビノールとなる.このうち5%分は尿中にグルクロン酸抱合体として排泄され,64%はマンデル酸を経て,25%はさらにフェニルグリオキシル酸を経て,尿中に排泄される.尿中排泄の半減期は4~7時間である.
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基準値・異常値

基準範囲
  • 労働安全衛生法が規定する有機溶剤中毒予防規則(有機則)による健康診断項目として測定する場合,厚生労働省通達の「分布区分」に従う.この数値は曝露(体内への吸収量)の多少を判定するための目安であり,正常・異常の鑑別を目的としたものではない.
  • 分布1:0.3以下,分布2:0.3超~1.0以下,分布3:1.0超(単位:g/l
変動要因
高値

【1.0g/l超】

  • スチレンに接触する作業者の場合,8時間労働に換算し時間加重平均濃度50ppmに相当する曝露を受けていると考えられる.この曝露量では健康影響を生じる可能性があるため,健康状態とともに作業場の環境や作業方法が適切か確認し,必要な対策を行う.空気中有機溶剤濃度の測定(作業環境測定)が行われている場合は,結果を確認したい.現在は,日本産業衛生学会の許容濃度も厚生労働省の管理濃度もともに20ppmとなっている.日本産業衛生学会は2007年,この曝露濃度に相当する尿中代謝物濃度について,尿中マンデル酸濃度と尿中フェニルグリオキシル酸濃度の合計値430mg/lを生物学的許容値(その勧告値の範囲内であれば,ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響がみられないと判断される濃度)の暫定値として提案した.20ppm曝露時の尿中フェニルグリオキシル酸(mmol/l)/マンデル酸(mmol/l)濃度比は0.35~0.79であることを鑑みれば,マンデル酸濃度単独で測定値が分布2に相当すれば曝露は多いと考えた方がよい.

次に必要な検査

可能なら個人曝露濃度を測定することが望ましい.
変動要因
  • スチレン,エチルベンゼンの同時曝露の有無,経皮吸収の有無,作業以外の曝露機会の有無,飲酒状況を確認する.
  • 尿中代謝物濃度は尿量により変動する.アメリカ労働衛生専門家会議(ACGIH)は,尿が著しく濃い場合(比重>1.030またはクレアチニン>3g/l)や薄い場合(比重<0.010またはクレアチニン<0.5g/l)には再度試料を採取すべきであるとしている.
( 上島通浩 )
臨床検査項目辞典

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「最新 臨床検査項目辞典」
監修:櫻林郁之介・熊坂一成
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, inc., 2008.

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