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ニコチン

ニコチン

臨床的意義

  • ニコチンは,ニコチン性アセチルコリンレセプターのα-ブンガロトキシン結合部位に高い親和性で結合し,中枢神経や自律神経節,神経筋接合部に作用する.いずれの場合も少量では刺激され,大量では麻痺が起きる.つまり,少量による中毒症状は,吐き気,嘔吐めまい,頻脈,血圧上昇,発汗,流涙である.致死量(大人40~60mg)では衰弱,痙攣呼吸不全により数分から1時間で死亡する.乳幼児の致死量は10~20mgといわれ,たばこ1本分のニコチン摂取はきわめて危険である.
  • 急性中毒者の血中ニコチン濃度に関して,20~25gの硫酸ニコチン溶液を飲み1時間以内に死亡した5人の濃度は11~63(平均29)μg/mlという.自殺を含む他の死亡例では,血中濃度が5~5,800μg/ml,尿中濃度が17~58μg/mlという報告がある.
  • 救急の現場では,血中ニコチン濃度の機器分析結果を待っている余裕が一般にはないので,急性中毒の治療は摂取量や全身状態の評価をもとに行われる.
  • ニコチンは,皮膚,粘膜,肺,胃から吸収される.喫煙では鼻粘膜および口腔粘膜が主な吸収経路で,気管へはニコチン含有率1.5%の紙巻きタバコを吸った場合に0.2~2.4mg入り,そのうち10~50%が吸収される.深呼吸での吸収率は80~100%に達する.吸収されたニコチンはその後,血液を介してほとんどすべての臓器や組織に分布する.喫煙由来のニコチンは,血液中で速やかに代謝され約80%はコチニンとなり解毒され,尿中に排泄される.なお,尿中代謝物のほとんどがコチニンであるが,約5%は未変化体として,コチニンの約30%が3-ヒドロキシコチニンとして排泄される.腎からの排泄はpH依存性で,尿のpHが低いほど排泄が多い.
  • 喫煙の有無と血漿中ニコチン濃度の関連に関して,都市在住の非喫煙者39人の約半数の血漿にニコチンが検出され,最高6ng/mlという.6時間半の自由喫煙で7.8~33mgのニコチンを摂取した30分後の血漿中濃度は,12~44ng/mlの範囲になったと報告されている.1時間に1本の割合で7本の紙巻きタバコを吸い,血漿中ニコチン濃度を継続測定した実験では,吸入直後に濃度がピーク(35~54ng/ml)となるが,すぐに減衰して7時間の蓄積は少なかった.血漿中のニコチンの半減期は40分(24~84分)である.パイプ喫煙による血漿中濃度は4ng/ml程度である.ちなみにニコチン製剤に関しては,ニコチンガム(2または4mg)を食べると12または23ng/mlとなり,経皮吸収製剤(ニコチンを35mg含有するニコチンパッチ)を喫煙者の皮膚に貼付したときには貼付9時間後に17~22ng/mlとなる.小児では,非喫煙家族の血漿濃度は1ng/ml以下であるが,喫煙家族では受動喫煙があると考えられ血漿濃度も4ng/mlと高めの値を示す.
  • 喫煙によりニコチンを摂取した場合の尿中コチニン濃度の生物学的半減期は二相性で,α相は2.4時間,β相は31時間である.半減期がニコチンの半減期に比べ長いこと,尿の採取に生体侵襲を伴わないことから,尿中コチニンは喫煙の客観的指標として測定されることが多い.尿中コチニン濃度は,非喫煙者でほぼ5ng/mg・Cr以下で,非喫煙の受動喫煙者で12.3±9.6(3.4~41.8)ng/mg・Cr,喫煙者(44±21.8本/day)で1982.1±930.3(651.1~4087.9)ng/mg・Crという報告がある.
  • コチニン測定法に関して,最近は尿中濃度測定用の試験紙や血清での濃度測定用のELISAキットが発売されているが,定量性,特異性という点ではGC-MSやHPLCを用いた測定法が優れている.
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( 上島通浩,山野優子 )
臨床検査項目辞典

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「最新 臨床検査項目辞典」
監修:櫻林郁之介・熊坂一成
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, inc., 2008.

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