縦隔病変
mediastinal lesion
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「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
- 縦隔は Felson による胸部単純 X 線写真を用いた区分で,前縦隔,中縦隔,後縦隔に分けられ,各区分に発生する腫瘍ないし病変のスペクトラムが知られている.
- 胸部 CT ではより正確な存在部位が診断でき,縦隔腫瘍取扱い規約の区分として,縦隔上部,前縦隔,中縦隔,後縦隔に分類される.
- 腫瘍性病変の他に,縦隔気腫,縦隔炎(急性,慢性),食道破裂,大動脈瘤,大動脈解離なども認められる.
- 腫瘍性病変は主に CT ガイド下生検により確定診断を行う.
- 縦隔気腫の多くは安静で軽快するが,縦隔内圧が上昇して緊張性となりショックを呈する場合や,気道損傷や食道損傷の場合には緊急でドレナージ術や外科的治療を要することがある.
- 急性縦隔炎では血液培養を 2 セット施行のうえで広域スペクトラムを有する抗菌薬を投与するとともに,膿瘍に対して縦隔ドレナージ術や外科的に壊死組織除去を行う場合がある.また,敗血症によりバイタルサインが崩れることも多く全身管理が重要となる.
検査
- 1.縦隔腫瘍
- ①胸部単純Xp
腫瘍性病変は縦隔陰影の開大,腫瘤陰影として認められ,hilum overlay sign を呈する(肺門部の腫瘤影中に気管支・肺血管が透見でき,心拡大による縦隔影の拡大でないことを示す).
- ②胸部CT
- ① 発生部位:まず発生部位を同定し,縦隔上部,前縦隔,中縦隔,後縦隔における好発疾患を検討する.
前縦隔における充実性病変は胸腺上皮性腫瘍(胸腺腫,胸腺癌,神経内分泌腫瘍),胚細胞性腫瘍(精上皮腫,胎児性癌,絨毛上皮腫,卵黄嚢癌,成熟嚢胞状奇形腫),悪性リンパ腫(Hodgkin リンパ腫,びまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫,前駆型T リンパ芽球性リンパ腫など),胸郭内甲状腺腫が重要で,嚢胞性病変は胸腺嚢胞,心膜嚢胞,心膜憩室,嚢胞状リンパ管腫が鑑別となる.
中縦隔には嚢胞性病変が多く,前腸嚢胞(気管支原生嚢胞,食道嚢胞),前縦隔にもみられる心膜嚢胞,嚢胞状リンパ管腫がみられ,充実性病変としては縦隔リンパ節腫大,気管腫瘍(粘液表皮癌,腺様嚢胞癌,カルチノイド,扁平上皮癌など),食道平滑筋腫,神経原性腫瘍(反回神経,迷走神経由来の神経線維腫,神経鞘腫)などがみられる.
後縦隔には充実性病変として神経原性腫瘍が多く見られ,その他,椎体腫瘍,後縦隔発生の奇形腫も発生する.嚢胞性病変としては神経腸管嚢胞なども認められる.
縦隔上部では充実性病変が認められることが多く,前・中・後縦隔腫瘍の上方進展や,胸郭内甲状腺腫を含めた頸部腫瘍の下方進展,胸郭入口部神経原性腫瘍などが多い.
- ② 内部構造:次に,腫瘤の内部構造を検討するが,単純CT で内部濃度の評価(水成分は嚢胞性病変で認められ,均一な低~等吸収域は腫瘍性病変以外にも出血性あるいは蛋白濃度の高い液貯留を伴う 嚢胞性病変を示唆,均一な高吸収域は気管支原性嚢胞の一部で石灰化結晶を含む場合に認められ,内部に不均一な低吸収域を伴う場合は壊死性病変を伴う)とともに,内部石灰化の有無(成熟嚢胞状奇形腫における歯牙,胸腺腫の石灰化,陳旧性肺結核の石灰化リンパ節など),脂肪濃度の含有(成熟嚢胞状奇形腫や脂肪肉腫などにおける脂肪など)を詳細に読影する.
造影CT では,内部に造影効果を認めない場合は嚢胞性病変(胸腺嚢胞,心膜嚢胞,心膜憩室,気管支原性嚢胞,食道嚢胞など各々の鑑別は困難で,発生部位により推定する)が示唆され,嚢胞性胸腺腫,悪性リンパ腫などで嚢胞を伴う場合は壁に充実性部分を認めることが多く,鑑別点となる.ただし,充実性病変でも高度な壊死や嚢胞性部分を多く含む場合には鑑別が困難となる.
充実性腫瘤はさまざまな吸収値を呈する部分が混在し,造影CT で高度の造影効果を示す場合は大動脈瘤などの血管性病変,Castleman 病,血管性腫瘍が,早期相に比して遅延相で造影効果が高くなる場合は孤立性線維性腫瘍(胸膜腫瘍),消化管間質腫瘍,線維性縦隔炎など線維組織を多く含む腫瘍である可能性が示唆されるが,造影所見のみで完全に鑑別を行うことは困難である.
- ③ 組織構築:腫瘤内部の組織構築の評価については,CT では十分には行えない場合もあるが,胸腺腫において分葉状構造が特徴とされる.
- ① 発生部位:まず発生部位を同定し,縦隔上部,前縦隔,中縦隔,後縦隔における好発疾患を検討する.
- ③胸部MRI
CT に比べて軟部組織間コントラストが良好で,内部組織構築の評価に優れる.分葉状構造は,胸腺腫ではサイズが小さいうちから認められるのが特徴であるが,他の腫瘍でも腫瘤サイズが増大すると分葉状となる.多くの腫瘍性病変ではT1 強調画像・T2 強調画像ともに脂肪と筋組織の中間的な信号強度を呈するが,奇形腫ではT1強調画像で脂肪成分を反映して高信号,嚢胞部分はT2 強調画像で高信号,骨化成分や石灰化は無信号を呈して種々の程度に混在して不均一な信号を呈する.また,嚢胞性か充実性かの評価は造影剤を使用しなくても拡散強調像で鑑別できるため(高いb値:b=1,000 sec/mm2で嚢胞性では内部信号を認めず,充実性では高信号を呈する),腎機能障害の患者などでは有用となる.その他,in phase/out of phase T1 強調画像での内部信号強度の差を比較すると胸腺肥大と胸腺腫瘍の鑑別も可能となる(胸腺肥大では内部の脂肪混在によりout of phase で信号強度の低下が大きくなる).
- ④FDG-PET
悪性度の強い腫瘍性病変でFDG 集積が高くなる傾向にあり,リンパ腫ではびまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫,前駆型T リンパ芽球性リンパ腫などで高集積を呈するのに対して,MALT(mucosa associated lymphoid tissue)リンパ腫では集積が低い.また,胸腺上皮性腫瘍では胸腺癌で集積が高く,胸腺腫(特に被包化されたⅠ期症例)では低いとされる.ただし,一般的な事項として,FDG 集積のみで良悪性の診断を行うには限界があり,総合的な判断が重要となり,悪性腫瘍と確定した際の遠隔転移検索など補助診断として用いるのが妥当である.
- ⑤採血
悪性リンパ腫ではLDH が上昇する.腫瘍マーカーは,胚細胞性腫瘍ではβ-hCG,AFP を,悪性リンパ腫では可溶性IL-2 受容体が参考となる.また,胸腺腫では抗アセチルコリン受容体抗体を重症筋無力症の補助診断として採血する.
- ⑥CT ガイド下生検
充実性病変の場合にはCT ガイド下生検で確定診断を行うことが多い.体表マーカーを置いた上でCT を撮影し,消毒のうえで局所麻酔を行い,息止めした状態で生検針(外套針:18 G,内套針:20 G)を挿入する.合併症は,キシロカインアレルギー,気胸,血痰・喀血,空気塞栓症,血胸,腫瘍の播種(胸腔内,穿刺経路),肺出血などがある.
- ⑦縦隔鏡/胸腔鏡検査
大血管や肺などと腫瘍との位置関係によりCT ガイド下生検が困難と判断される場合には,縦隔鏡検査が選択される.標準的頸部縦隔鏡が到達できない左側(#5,#6 リンパ節付近)はChamberlain 前胸部縦隔鏡または拡大縦隔鏡も検討される.それらも困難な場合には胸腔鏡補助下生検の適応となる.
[検査]
- ①胸部単純Xp
心陰影の外側に平行な線状影,気管・気管支に接した線状の透亮像,胸郭外や頸部の皮下気腫像を認める.
- ②胸部CT
縦隔気腫では縦隔内の疎な組織内に空気を認める.
2.縦隔気腫
[検査]
- ①胸部単純Xp
縦隔炎では縦隔の開大や胸水の貯留を伴うことがあるが,特異的な所見は認めないことが多く,CT が必須となる.
- ②胸部CT
縦隔炎では縦隔の開大,縦隔脂肪織の不均一な濃度上昇,空気の存在,膿瘍を示唆する低吸収域(造影CTでより鮮明になる),胸水貯留などを認める.造影CTも適宜行い,炎症が縦隔へ波及する経路について,前述の原因疾患(臓器)の検索も併せて行う.
まれな病態である慢性縦隔炎はCT では軟部組織濃度を呈して,腫瘍性病変との鑑別が困難な場合もある.その場合は,胸部MRI で,線維成分によりT1 強調画像・T2 強調画像ともに脂肪や筋組織よりも低信号を呈することが多く,前述の縦隔腫瘍とは異なり,参考になる.
3.縦隔炎
[検査]