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急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

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臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

  1. 急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)の本態は種々の原因による非心原性の透過性亢進型肺水腫を呈する症候群である.
  2. 肺炎,誤嚥性肺炎(胃液誤嚥による Mendelson 症候群も含む),間質性肺炎薬剤性肺障害などの直接的肺損傷に加えて,敗血症,重症外傷,重度熱傷などの間接的肺損傷によっても引き起こされる.
  3. 2012 年の Berlin definition により,PEEP≧5 cmH2O に準じた状態下での動脈血酸素分圧(PaO2)/吸入気酸素分圧(FiO2)比(P/F 比)により,軽症(200<P/F≦300 Torr),中等症(100<P/F≦200 Torr),重症(P/F≦100 Torr)に分類され,発症後 1 週間以内に満たした場合に診断される.
  4. 予後規定因子として,①胸部単純 Xp での重症度,②肺コンプライアンス(≦40 mL/cmH2O),③PEEP(≧10 cmH2O),④修正呼気量(≧10 L/分)があげられる.
  5. 一般に,ARDS の死亡原因の約 80%は多臓器不全であり,呼吸不全死は約 20%弱であるため,全身管理の重要性がきわめて重要である.ARDS の原因疾患の治療に加えて,酸素療法・人工呼吸管理,水分管理,好中球エラスターゼ阻害薬,抗菌薬,ステロイドなどを含めた全身管理が重要となる.
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検査

①採血
 白血球数の増加,左方移動,CRPの上昇,血沈の亢進に加えて,肺胞上皮の障害に伴いLDH,KL-6,SP-D(surfactant protein D)などが上昇する.播種性血管内凝固症候群を伴うことも多く,FDP やD-dimerの上昇も認める.
 また,心原生肺水腫の除外のためにBNP なども検索する.
 易感染宿主の場合には,ニューモシスチス肺炎の鑑別にβ-D-グルカンを検索する.また,粟粒結核ではしばしばARDS を呈するため,疑われる場合にはT-SPOT かQFT-3G といったinterferon gamma release assay(IGRA)を提出する.
②胸部単純Xp
 両側肺野にびまん性(非区域性)に拡がる浸潤影が診断では必須で,周囲にすりガラス陰影を伴う場合もある.肺の構築改変が進むと牽引性気管支拡張像,蜂窩肺などを認める.
③胸部CT(HRCT)
 診断において,HRCT 所見が最も有用である.
 ARDS の急性滲出期ではconsolidation とすりガラス陰影が,約3日目からの肺の構築改変を伴う亜急性増殖期にはconsolidationやすりガラス陰影内部に牽引性気管支拡張や肺の縮み,歪みなどを認めるようになり,約10日目以降の慢性線維化期になると肺構造のリモデリングが進行して蜂窩肺,荒廃肺を呈するようになる.急性の経過で生じる牽引性気管支拡張は特発性間質性肺炎にみられるものとは異なり,比較的平滑な内腔を保ち,末梢に向かって気管支内腔が先細りしないことが多い.ARDSでは傷害発生の後,実際に診断される時点でこれらが種々の割合で混在することが特徴で,病変の乏しい正常な小葉が病変部に混ざってモザイク状を呈するが,特に重要なのは急性滲出期と亜急性増殖期が混在することを示す「牽引性気管支拡張を伴うconsolidationやすりガラス陰影」であり,この所見を認める場合には通常の肺炎よりもARDSが強く疑われ,迅速な対応が必要となる.ただし,構築改変が起こる前の純粋な急性滲出期のみを呈する場合は牽引性気管支拡張などの所見を認めないために,細菌性肺炎などとの鑑別が困難となる.
④細菌学的検査
 ARDS の鑑別診断において,呼吸器感染症の否定が重要となるため,喀痰検査(一般細菌ならびに抗酸菌の塗沫,培養)や,尿中肺炎球菌抗原,尿中レジオネラ抗原などを行う.
⑤心エコー図
 心原生肺水腫の除外のために,右心カテーテル検査に代替するものとして心エコー図は重要で,収縮能のみならず拡張能の検索も行う(拡張不全心不全の除外).明らかな推定肺動脈圧の上昇が認められなければ,BNP上昇がないことと併せて心原生肺水腫を否定する事が多い.
⑥右心カテーテル検査
 Swan-Ganzカテーテルにより肺毛細血管楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure:PCWP)が正常範囲(18mmHg 以下)であることにより左心不全の否定が可能であるが,ARDSでは呼吸状態が切迫しているため侵襲的な検査を行うことが困難な場合も多く,心エコー図などで代用する事も許容される.
⑦気管支鏡
 ARDSでは診断時にすでに呼吸不全が重篤なために気管支鏡を施行できない場合も多い.呼吸状態が許す場合には積極的に行い,気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid:BALF)中の好中球分画が増多する,びまん性肺傷害(diffuse alveolar damage:DAD)パターンを呈するか,肺胞出血を呈することが多い.経気管支肺生検(transbronchial lung biopsy:TBLB)では感染症,肉芽腫性疾患,腫瘍性病変の除外に有用であるとともに,ARDS では硝子膜形成を伴う浮腫状の肺胞上皮が特徴的である.
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