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ミトコンドリア病

別名 mitochondrial disorders

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臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

  1. ミトコンドリアはエネルギー産生に関わる細胞内小器官である.本病はミトコンドリア遺伝子または核遺伝子の変異によりミトコンドリアの呼吸鎖機能の異常を生じる疾患群である.筋力低下,痙攣,知的障害などが主症状である.変異の種類により多彩な症状を呈する.
  2. CPEO,MELAS,MERRF が最も多い病型である.
  3. 診断は特徴的な臨床症候,家族歴,血中および髄液の乳酸・ピルビン酸値の上昇,筋生検での赤色ぼろ線維などのミトコンドリアの形態異常の同定,神経画像検査,心臓機能検査,遺伝子検索により行う.
  4. 根治療法はなく,対症的に診療を進める.多臓器の合併症を伴うことがあり,複数科による管理が必要になることが多い.
  5. 厚生労働省の特定疾患治療研究事業の対象疾患に指定されており,医療費の公費による補助制度を利用できる.
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疾患概要

 ミトコンドリア遺伝子または核遺伝子の変異により全身の細胞のミトコンドリアの呼吸鎖機能の低下を生じる疾患群である.ミトコンドリア遺伝子は16,569塩基対よりなる環状DNA であり,39 個の遺伝子からなる.多くの点変異,欠失,挿入などが同定されている.ミトコンドリア遺伝子または核遺伝子の変異によりエネルギー産生の低下を生じると,感受性の強い中枢神経系と全身の骨格筋や外眼筋が特に大きな障害を受ける.筋力低下,筋萎縮,知能低下,痙攣,ミオクローヌス,小脳失調,難聴,外眼筋麻痺などの多彩な神経・筋症候がみられる.生検筋では,ミトコンドリア異常に伴う赤色ぼろ線維〔ragged red fiber:凍結切片のGomori-Trichrome 染色により赤紫色に染まる顆粒状・桿状構造物(増加・腫大したミトコンドリア)が蓄積した筋線維〕を認める.また,多くの症例で血清・髄液中の乳酸値〔正常値:血清<2.1 mM(19mg/dL)〕,髄液<1.8 mM(16 mg/dL)および血清乳酸/ピルビン酸比(正常値7~20)の上昇を認める.低身長,やせ,感音性難聴,糖代謝異常,心伝導障害などを合併することがある.以下に述べるCPEO,MELAS,MERRF が全体の2/3 を占める.
 以下に主な病型の特徴を示す.
①ミトコンドリア筋症(mitochondrial myopathies)
 純粋に筋障害のみを生じ,3250 番のミトコンドリア遺伝子の点変異で生じる例が最も多い.比較的良性の臨床経過をとり,近位筋優位の筋力低下を上肢に生じる.このほか,致死的経過をとる乳児例,肢帯型の病型をとる例,顔面肩甲上腕型などの病型も報告されている.
②慢性進行性外眼筋麻痺症候群(chronic progressive external ophthalmoplegia:CPEO)
 外眼筋麻痺と筋脱力を主症状とする.3243 番のミトコンドリア遺伝子異常が原因である.代表的病型であるKearns-Sayre 症候群(KSS)は外眼筋麻痺(両側性眼瞼下垂,対称性眼球運動障害),網膜色素変性症,心伝導ブロックを3 主徴とし,難聴,小脳性運動失調,髄液蛋白増加,性腺ホルモン異常,糖尿病などもみられる.
③脳卒中様症状を伴うミトコンドリア脳筋症(mitochondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis and stroke-like episodes:MELAS)
 多くは3243 番のミトコンドリア遺伝子の点変異で生じる.10歳代に発症するものが多い.片頭痛様の頭痛発作,嘔吐に加え,局所性・全身性痙攣,片麻痺,同名性半盲などの脳卒中または一過性脳虚血発作様のエピソードがみられる.さらに,高乳酸血症,四肢近位筋優位の筋力低下と筋萎縮をともなう.この他,精神発達遅滞,低身長,感音性難聴を伴うことがある.また,肥大型心筋症をしばしば合併する.脳卒中様のエピソードの時期には頭部MRI,CT で梗塞様の所見を認めるが,その分布は血管支配と一致しないことが普通である.
④ragged-red fibers を伴うミオクローヌスてんかん(myoclonus epilepsy with ragged-red fibers:MERRF),福原病
 約80%の症例は8344 番のミトコンドリア遺伝子の点変異で生じる.全身の進行性ミオクローヌスてんかんを生じる.ミオパチーは軽度なことが多いが,筋生検ではragged red fiber を認める.また,小脳性運動失調,深部感覚低下,足変形などがみられることがある.ほとんどは遺伝性で母系遺伝である.
⑤Leigh 脳症(Leigh disease,subacute necrotizing encephalomyelopathy:亜急性壊死性脳脊髄症)
 20%の症例で8993番のミトコンドリア遺伝子の点変異を認める.その他,ミトコンドリア遺伝子9176,13513や核遺伝子の変異が報告されている.半数以上は1 歳以内に発症するが,発症年齢は多岐にわたり成人発症例もある.発症は亜急性または急性である.乳児の場合,頭位保持困難,筋緊張低下,哺乳嚥下障害,嘔吐,食欲低下,易刺激性,啼泣,全身痙攣,ミオクローヌス発作を生じる.2 歳以上で発症した場合は処女歩行の遅延,運動失調,退行,強直発作,呼吸障害,眼球運動障害,不随意運動を生じる.頭部CT,MRIにて両側視床,基底核,脳幹に対称性の病変を認めることが特徴である.病理学的には,視床,基底核,中脳,橋,延髄,脊髄に海綿状変性,壊死性変化,出血性変化を認める.
⑥Leber 病(Leber’s hereditary optic neuropathy)
 11788 番などのミトコンドリア遺伝子の点変異が多い.若年成人に急性または亜急性に夜盲症で発症し,次第に視力障害が進行する視神経萎縮を生じる疾患である.不随意運動,心伝導障害,精神神経障害を合併することもある.
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