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発達障害

別名 developmental disorder

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臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart


●医療者が「変わった患者」や「困った家族」「扱いにとまどうスタッフ」などと遭遇する機会は少なくない.本項では,そのような場合にそれらの人々の発達傾向や特徴を把握してコミュニケーションすることで,無用なトラブルや軋轢,訴訟のリスクなどを軽減し,医療者の不安軽減や,場合によっては精神科への紹介を促すことなどの一助となるような点について述べたい.
  1. 発達障害とは,幼少期から持続する脳の特性に起因する種々の困難により社会適応が阻害される状態(成人後の頭部外傷などを契機とした高次脳機能障害などの変化は含まれない).発達の凸凹+適応障害=発達障害,との理解が現実的.発達の凸凹は,生物学的素因によるものであり親の不適切な養育により惹起されるものではない.
  2. 未成年の場合,不適応や困難は,少なくとも 2 つ以上の場面でみられるものである(単一の場面でのみ見られる困難や不適応は,単にその環境への反応である可能性がある).
  3. 発達特性により学校や職場での適応に困難を覚える方々のなかには,しばしばいじめの対象となるものがあり,それに起因するフラッシュバックなどの二次症状に苦しむことがある.また定型発達でない小児は「育てにくい子ども」であることがあり,不適切な養育や虐待などへと至ることがある.
  4. ひきこもりや,いわゆる NEET(Not in Education,Employment or Training)の問題にも根底に発達障害の問題が存在することが少なからずある.
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発達障害の特性

①知的障害(MR:mental retardation)はIQ が70未満と定義され,社会適応への困難因子である.発達障害を評価するうえで知的障害の有無は重要なポイントである.
②発達障害の特性は,①自閉症スペクトラム障害(ASD:autistic spectrum disorder),②注意欠陥多動性障害(AD/HD:attention deficit/hyperactivity disorder),③学習障害(LD:learning disabilities),④発達性協調運動障害(DCD:developmental coordination disorder),などの概念で特性の理解が可能.また,それぞれの頻度は,下記のとおり報告されている.ASD:1~2%,AD/HD:3~10%,LD:2~10%,DCD:数%.
③自閉症スペクトラム障害(ASD)を理解するための概念として,英国の医師ロナ・ウィングが提唱した「Wing の三つ組」といわれる以下の三徴がある.①社会性の障害,②コミュニケーションの障害,③常同的・限定的な行動(repetitive/restrictive behavior:RRB).自閉症には障害や困難の程度に濃淡があり連続性がみられることから自閉症スペクトラム障害と呼ばれているが,古典的な自閉症の概念は「Wing の三つ組」をもつ知的障害児であり,古典的自閉症児は就学に際して個別の発達特性や困難に配慮した特別支援教育が準備されることが一般的であった.
④ところが,「Wing の三つ組」をもちながらも知的障害をもたない自閉症者が存在し,これを「高機能自閉症」などと呼ぶことがある(高機能とは知的障害を有していないという意味であり,定義的にはIQ が70 未満ではないこととされる).このような高機能自閉症者は就学時に特別支援教育への道は進まずに普通教育を受けることになるが,そこでは定型発達と見なされるために個別の発達特性や困難に配慮した教育はなされず,その過程で問題が発生したり,あるいは学校を卒業後社会に出てから何らかの問題が発生することがある.最新版のDSM-Ⅴでは,Wing の三つ組のうちの「社会性の障害」と「コミュニケーションの障害」の峻別にこだわらず「社会コミュニケーションの障害」とし,これと「RBB」をもってASD として扱っている.
⑤注意欠陥多動性障害(AD/HD)は不注意,多動,衝動性などの問題をもち,①不注意優勢型のAD/HD,②多動性・衝動性優位型のAD/HD,③混合型のAD/HD,などと下位分類されることがある.小学校に入学したときに教室でおとなしく着席できずに騒いだり,歩き回る子どもは少なからずいるが,学年が進むにつれて歩き回る子どもは減っていく.このような多動性をもったAD/HDはどちらかというと男児に多いが,女児は不注意優勢型が多いために見過ごされているともいわれている.また年齢が進むにつれて着席できるようになったAD/HD児も授業の内容には集中できずに頭の中では空想に浸っているために実は授業は聞いていないということも珍しくはない.AD/HD 児は相手の話を最後まで聞いてから話すことが苦手であったり,順番を守って行列に並ぶことに困難を覚えることもある.成人後に表面上は多動が目立たなくなっても,脳内は「多動」であることがありうる.
⑥学習障害(LD)は,知的障害ではないのに読み,書き,計算などの一つまたは複数の学習能力の獲得に困難を有するものである.その困難は単に知的能力の低さに起因するものではない.定義上LD はMR と相互排他的である.
⑦発達性協調運動障害(DCD)は,一言で表現すれば手先の不器用さともいえる特徴であるが,身体の左右の部位に独立した別個の動作を起こすことなどに困難がみられるものである.お手玉をする際に右手でお手玉を投げ上げて左手で受け取るというような,左右の手が別々の動作をするような課題を例示しても,DCD の特徴を有する者では左右の手で同時にお手玉をそれぞれ対側の手に向けて投げるようにして,左右の手の動作が同じように(左右対称に)なってしまうことがしばしば観察される.大きなバランスボールに座って床から足を離すとバランスの保持ができずに転んでしまうこともしばしば観察される.また,DCDの特徴を濃くもつ人は,テンポよく会話のキャッチボールをすることが苦手で,売り言葉に買い言葉のように,瞬時に言い返すことなどが苦手な傾向がありコミュニケーションでストレスを溜め込みやすい方もいる.
⑧ASD,AD/HD,LD,DCD,MR などの概念は発達特性を理解するうえでは便利であるが,純然たるASD だとか純然たるAD/HD という方はむしろまれであり,ASD やAD/HD,LD,DCD などをそれぞれのバランスで組み合わせてもっていることが臨床像としては一般的である.しかしながら,それでは一人ひとりの患者の状態像を理解するうえで困難が大きくなるため,「困難の中心はASD の特性だがDCD も対人関係の構築に困難をもたらしている」とか,「不注意優勢型AD/HD が中核だがASD の特性もストレス負荷時には出てくる」などと目の前の人を理解することが実際的だと思われる(備瀬哲弘:大人の発達障害―アスペルガー症候群, AD/HD, 自閉症が楽になる本. マキノ出版, 2009 参照).
⑨感覚の過敏性・鈍感性の問題:聴覚の過敏性,嗅覚の過敏性,皮膚感覚の過敏性,口腔内の感覚の過敏性などにより定型発達の人では体験しないような辛さを体験する人がいる.この過敏性は個人差もあるが,同一人物でも体調により過敏性による苦痛が変動することがある.聴覚過敏をもつ人にとっては,たとえばエアコンの送風音が堪え難い騒音のように過剰な刺激として体感されたり,皮膚感覚の過敏性をもつ人にとっては降雨やシャワーの水圧が痛いと感じられたり,嗅覚に過敏性がある人はデパート地下の食料品売り場のあらゆる食べ物の混沌とした臭いで気分不良になることもある.また,逆に感覚の鈍感性により,自分の発熱などの体調不良に気がつかず,疲労の極致まで自覚症状が感じられないために,突然「電池が切れた」かのように倒れるようなケースもある.
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