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肺血栓塞栓症

略称 PTE
別名 pulmonary thromboembolism

疾患スピード検索で表示している情報は、以下の書籍に基づきます。

臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

  1. 急性と慢性に分類され,急性肺血栓塞栓症は,突然死をきたす重症疾患のひとつである.死亡率は 14%,心原性ショックを呈した症例では 30%と高く,診断の遅れや見逃しが生命にかかわるので,診断に至る流れを熟知しておくこと.
  2. 急性肺血栓塞栓症に特異的な症状はなく,呼吸困難胸痛,頻呼吸が主要症状である.失神の鑑別疾患としても重要である.
  3. 約 9 割に下肢深部静脈あるいは骨盤内静脈に血栓を伴うという.誘因は,長期臥床,術後,ロングフライト,肥満が重要.
  4. 低酸素血症,低二酸化炭素血症,呼吸性アルカローシスが特徴的所見である.この血液ガスパターンでは,常に疑うこと.
  5. 心電図では,V1~3の陰性 T 波が感度の高い重要な所見.S1Q3T3 パターンや右軸偏位は重症例に多いが,頻度は高くない.多くは心電図で推定できる.刻々と変化するので,発症後数日間は心電図を毎日チェックするとよい.
  6. 上記に加えて,心エコーの右室拡張と左室圧排(D-shape)を確認することで,ほぼ診断される.胸部造影 CT で肺動脈内に血栓を確認できれば確定診断となる.
  7. 呼吸不全ショックで,PaO2低下かつ PaCO2低下を認めたときに疑い,心電図の V1~3 の陰性 T 波で強く疑い,心エコーの右室拡張と左室圧排(D-shape)と胸部造影 CT の肺動脈内血栓から診断というのが,一般病院におけるよくある診断の流れである.
  8. D ダイマー 500μg/L 未満ならば,PTE はほぼ否定できるとの報告がある.
  9. 原因追求と再発予防のために,下肢造影 CT や下肢静脈エコーで深部静脈血栓の有無を確認することも重要である.
  10. 呼吸循環管理とヘパリンナトリウム投与などの抗凝固療法が基本となる.重症例や改善が不十分なものでは,血栓溶解療法,インターベンション,外科的治療も検討する.
  11. 慢性肺血栓塞栓症は,器質化血栓により肺動脈が慢性的に閉塞することにより発症する.
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検査

    <血液>
  1. ①肺組織の破壊により,高率にLDH 上昇がみられる.
  2. ②血栓形成を反映して,高率にFDP やD ダイマーの上昇がみられる.D ダイマーは陰性予測力が高く,500μg/L 未満でPTE をほぼ除外できるとされる.

  3. <血液ガス>
  4. ①換気血流不均衡により,低酸素血症(PaO2低下)は必発.
  5. ②低酸素血症,低二酸化炭素血症,呼吸性アルカローシスが特徴的所見である.重症例や肥満では,PaCO2が上昇することもある.

  6. <心電図>
  7. ショック呼吸不全の代償のため,洞性頻脈が高率にみられる.
  8. ②心房負荷によりⅡでP波の尖鋭化が高率にみられる.
  9. ③右室の急激な拡大により,右室壁内動脈が圧排され右室虚血をきたすため,右側胸部誘導(V1~3)で陰性T 波が高率に出現する.まれだが梗塞に至れば,同誘導のST 上昇もみられる.重症例では,右室拡大に伴い陰性T 波が左側胸部誘導にまで及ぶことがある.
  10. ④S1Q3T3 パターンは重症例で認めることが多いが,早期に数時間で消失することもあり,頻回の心電図チェックが重要.
  11. ⑤右軸偏位,右脚ブロック,移行帯の時計方向回転など,その他の右心負荷所見も認めることがある.
  12. ⑥低酸素,頻脈により左室の虚血も起こり(global anoxia),V4~6でST 低下を認めることもある.
  13. ⑦急性心筋梗塞,心筋炎とならび,心電図の経時的変化が大きい疾患である.

  14. <胸部Xp>
  15. ①閉塞部位より末梢の肺血管影が減少し,透過性が亢進する.
  16. ②しばしば肺動脈の突然の不整な途絶を認める.途絶された肺動脈が握りこぶし様に見えるため,knuckle sign とよばれる.
  17. ③肺動脈圧の上昇により,肺動脈基部は高率に拡張するが,攣縮により,肺動脈末梢は先細りを示す.
  18. ④しばしば右室拡大所見を認める.
  19. ⑤肺梗塞を伴えば,肺野末梢の浸潤影,時に同側の胸水(血性)を認める.
  20. ⑥胸部Xpから本症を確定診断することは困難である.

  21. <心エコー>
  22. ①右心後負荷(肺高血圧)により,右室腔拡大,右室壁収縮力低下を認める.
  23. ②右室圧上昇により,心室中隔が偏位して左室を圧排し,左室がD-shape になる.さらに重症では,三日月型となることもある.この心エコー所見が臨床上で最も有用な所見と言っても過言ではない.研修医であっても,心エコーで短軸像を描出できるようにしておきたい.
  24. ③ドプラー法で三尖弁逆流を認めれば,肺動脈圧を推定できる.
  25. ④右心負荷により,肺動脈や下大静脈の拡大も認める.
  26. ⑤心エコーで診断され,治療を開始することもある.

  27. <胸部造影CT>
  28. ①肺動脈内に血栓像を認めれば,診断が確定する.感度は53~89%,特異度は78~100%と報告されている.
  29. ②性能向上により,肺動脈主幹部~区域枝まで血栓の描出が可能となってきた.
  30. ③心エコーと同様に,疑われれば,速やかに行うべき検査である.

  31. <肺動脈造影>
  32. ①肺動脈の閉塞,肺動脈内の血栓を認めれば,診断は確定する.
  33. ②かつてはgolden standard であったが,CT の診断精度が向上したため,これらの所見は胸部造影CT でも確認できるようになった.

  34. <肺換気血流シンチ>
  35. ①換気シンチでは,正常パターンを示しながら,血流シンチで,楔形の欠損像を示す.
  36. ②本検査のみではPTEの確定診断は困難であり,臨床的有用性が少なくなった.

  37. <下肢静脈造影>
  38. ①下肢深部静脈あるいは骨盤内静脈に血栓を約9 割に認める.
  39. ②もっとも信頼性の高い検査であるが,侵襲性が高いので,下肢造影CT,下肢静脈エコーなど,他の画像診断で診断できない場合に施行する.骨盤内の血栓の描出にはCT が優れている.

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