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原発性肝癌(肝細胞癌、肝内胆管癌)

別名 primary liver cancer

疾患スピード検索で表示している情報は、以下の書籍に基づきます。

臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

 わが国における原発性肝癌の90%以上が肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:HCC),約5%が肝内胆管癌(intrahepatic cholangiocarcinoma:ICC)であり,肝細胞癌と肝内胆管癌の性格が,混ざりあったという意味の混合型肝癌が各々約1%を占めている.やはり1%未満の腫瘍で,従来は肝内胆管癌の亜型とみなされていた嚢胞腺癌の分類が,混合型肝癌とともに現在進行形で変更の途上にある.それ以外は肝芽腫(hepatoblastoma:遺伝子突然変異が原因と推定されている),や肉腫などまれな悪性腫瘍が約0.1%を占める.

●肝細胞癌
  1. 肝細胞癌の定義:肝細胞癌は肝細胞が癌化したものである.したがって高分化なものほど正常肝細胞結節(肝硬変の再生結節)の構造を維持している.
  2. 肝細胞癌の基礎疾患:肝細胞癌はその約80%が肝炎ウイルス持続感染に基づく肝硬変/慢性肝炎を基礎疾患にもつ.C型肝炎関連肝細胞癌が約65%,B型肝炎関連肝細胞癌が10数%を占める.原因いかんにかかわらず肝硬変は肝細胞癌の高リスク群であり,肝硬変と慢性ウイルス肝炎は定期的に画像診断・腫瘍マーカーで経過観察し,肝細胞癌の早期診断に努める.
  3. 肝細胞癌の自然経過:小肝細胞癌(最大径3 cm以下,3結節以下)の自然経過は,肝機能が保たれた例では予想以上によく,Child AまたはBであれば3年生存率55%,5年生存率24%.ただし,肝機能不良例(Child C)ではほぼ全例2年以内に死亡する.
  4. 肝細胞癌の診断と治療対象:診断は画像診断を軸とし,腫瘍マーカーをその補助として使う.原則として造影剤をボーラスに投与して撮像する造影CT/MRI/超音波で動脈相に造影効果を示す多血性肝細胞癌が治療対象となる.
  5. 乏血性腫瘍の治療適否:造影画像検査で動脈相に濃染がないとき(乏血性腫瘍)には,①EOB-MRI(プリモビスト®を使用したdynamic MRI)の肝細胞相で結節全体が欠損になる場合,②造影USやSPIO-MRIでKupffer細胞の欠損がある場合,③CTAPや造影CT/MRIの造影後期相で結節の門脈血流が背景肝より明らかな低下がある場合,④狙撃生検で肝細胞癌と診断された場合には治療対象になる.
  6. 肝細胞癌の治療:肝細胞癌の治療には,肝切除・肝移植といった外科的治療,ラジオ波焼灼療法(RFA)や経皮エタノール注入療法(PEI)などの局所療法,経カテーテル的肝動脈化学塞栓療法(TACE),および進行肝細胞癌に対する分子標的薬ソラフェニブ内服の4つが科学的根拠のある効果的な治療法である.これらの対象にならない進行癌で主として肝動脈に留置したカテーテルからの抗癌剤動注療法が行われる.肝予備能不良例ではミラノ基準(最大径3 cm以内3個まで,または単発5 cm以下)を満たせば保険診療での生体肝移植が可能であり,JISスコア3以上では肝移植の生命予後がそれ以外の治療を上回る.
  7. 肝細胞癌の予後推定と統合ステージングシステム:肝細胞癌の予後は腫瘍のstageと肝予備能のstageに左右される.したがって一人ひとりの患者の予後推定にはそれらを統合したstaging scoreが必要であり,わが国の実情に見合ったステージングシステムとしてJIS scoreが有用とされた.が,ここ数年は臨床研究論文でも使用頻度が下がり,EASL(欧州肝臓学会)によるBCLCステージングシステムが頻用される傾向にある.
  8. 診療ガイドラインとマニュアル:厚生労働省研究班から引き継いだ日本肝臓学会により「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2013年版」が出されている.4年ごとの改訂が日本肝臓学会でなされる予定であり,同学会や日本肝癌研究会で改訂に向けた議論が盛んになされている.さらに科学的根拠が揃わない部分に関して専門医のコンセンサスに基づく肝癌診療マニュアルも,診療ガイドライン発刊の1~2年後を目途に出版されている.

●肝内胆管癌
  1. 肝内胆管癌の定義:肝内胆管癌(intra-hepatic cholangiocarcinoma:ICC)は胆管細胞癌(cholangio-cellular carcinoma:CCC)ともいう.ICCは肝内に腫瘤を有する胆管癌と定義されている.
  2. 肝内胆管癌の肝基礎疾患:肝内胆管癌には,世界的多発地域である中国南部,東南アジアなどでは肝吸虫症(Clonorchiasis sinensis)に続発するものが多い.わが国ではB型・C型などの肝炎ウイルス感染が30%を占めている.その他,肝内結石,原発性硬化性胆管炎,先天性総胆管拡張症,トロトラスト曝露,1-2ジクロロプロパン(DCP)曝露などが基礎疾患としてあげられるが,肝内胆管癌全体に占める頻度は低い.
  3. 肝内胆管癌の診断:診断は画像診断を軸とし,腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)をその補助として使う.肝細胞癌と異なり肝内胆管癌は一般に画像診断的には動脈血流の乏しい乏血性腫瘍であり,典型的には造影後期相では腫瘍周囲に淡い濃染を示す.画像・病理組織像のみでは一般に消化器由来の転移性肝癌と鑑別困難なことがあり,全身検索で肝以外に原発巣がないことを確認する必要がある.
  4. 肝内胆管癌の治療:リンパ節転移と被膜・脈管浸潤を伴わない単発腫瘍の症例に根治的切除が行われれば,一定の予後改善が期待できる.経皮的局所療法ではRFAは局所制御にある程度期待できるがエビデンスがなくそれ以外の局所療法は無効,またTACEも無効であり,化学療法や放射線療法が試みられているが現時点で生存期間延長効果は乏しく,肝移植も再発率が高く有用性は乏しい.
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診断

  1. ①自覚症状
     基礎肝疾患による全身倦怠感などの症状を除くと,一般に肝細胞癌には進行した症例以外に自覚症状はない.進行肝細胞癌では,体重減少,食思不振などの全身症状のほか,肝内での腫瘍体積が増すことにより肝被膜が進展するために起こる右季肋部痛や,被膜直下の腫瘍が腹腔内出血を起こす(肝癌の腹腔内破裂:右季肋部に外圧が加わる場合などに起こりやすい)ときに起こる腹痛(激痛のことあり)・血圧低下,肝外転移では骨転移による転移部の疼痛,急速に門脈腫瘍塞栓が発達した場合の食道・胃静脈瘤破裂による吐下血などの頻度が高い.
  2. ②問診
     基礎肝疾患を意識して飲酒歴,輸血歴,肝疾患歴とその家族歴を聴取する.治療方針を左右するものとして食道・胃静脈瘤破裂など消化管出血,肝性脳症や浮腫・腹水貯留の既往歴の有無を聴取する.
  3. ③検査所見
    1. ①肝予備能:並存する肝基礎疾患の重症度は,治療方針にも予後にも大きく影響する.肝予備能を評価する重要なステージングシステムが 2 種あり,古典的な Child 分類(その改良型であるChild-Pugh 分類)と,日本肝癌研会が定めた肝障害度分類である(日本肝癌研究会 編:原発性肝癌取扱い規約第6版. 金原出版, 2015 参照).今日 Child-Pugh 分類と肝障害度分類が頻用される.肝障害度分類のほうが肝切除術を前提として作成されたためプロトロンビン時間アルブミン値でもやや強い縛りがかかっている.実際には外科領域でも肝移植では Child-Pugh 分類で,肝切除では肝障害度分類で議論されている.
    2. ②B 型肝炎ウイルスマーカー.
    3. ③C 型肝炎ウイルスマーカー.
    4. ④腫瘍マーカー(AFP,AFP-L3,PIVKA-Ⅱ)
       腫瘍マーカーは早期診断には使えない.しかし画像診断では術者依存性,装置依存性の問題があり,補助的手段として腫瘍マーカーは依然重要である.AFP(α-fetoprotein)と PIVKA-Ⅱ(DCPともいう)は互いに相補的で,組み合わせると診断精度が向上する.AFP-L3 は AFP のレクチン結合分画の一つで,φ2 cm以下の肝細胞癌では10%をカットオフ値として感度17.0%と低いが,特異度 97.0%と,特異度がきわめて高い.
④画像診断(日本肝臓学会 編:肝癌診療マニュアル 第3版. 医学書院, 2015 参照)
  1. ①腹部超音波検査(US):肝細胞癌サーベイランス目的で慢性ウイルス肝炎・肝硬変などの高危険群に定期的に施行する.施行にあたっては全肝をくまなく走査する.「日本肝癌研究会 編:原発性肝癌取扱い規約第6版. 金原出版, 2015」に示す典型像が得られれば質的診断も可能であるが,径 3 cm 未満のものではこれらの所見を欠くことも多い.カラードプラ法でも典型的なバスケットパターン(動脈性カラーシグナルが腫瘍を取り巻くように配置し,腫瘍内部に進入する枝を出す様子が描出される)が検出できれば質的診断が可能.肝細胞癌治療後のフォローアップ検査の頻度は超高危険群と同程度が必要である.
  2. ②CT:US によるスクリーニングを経て診断確定のため造影 CT(dynamic CT)を行うことが一般的である.ヘリカル CT または MDCT(multide-tecter-row CT)による dynamic CT では肝細胞癌の質的診断が可能である.この多血性肝細胞癌診断が,標準的診断法となる(日本肝臓学会 編:肝癌診療マニュアル 第3版. 医学書院, 2015 参照).MDCT では multi-planner reconstruction(MPR)像をはじめとする各種三次元像が可能となった. MDCT で撮影した dynamic CT では 3D 画像や冠状断,矢状断などが容易に得られ,術前に重要な脈管と腫瘍の位置関係を知るうえできわめて有用である.さらに腫瘍個数と門脈・肝静脈浸潤の評価,腹部リンパ節・副腎転移の評価(すなわち staging に)有用である.
  3. ③Gd-EOB-DTPA(プリモビスト®)造影 MRI (EOB-MRI):慢性肝疾患のフォローとして,1年に 1~2 回の施行が望ましい(日本肝臓学会 編:肝癌診療マニュアル 第3版. 医学書院, 2015 参照).CT に比較し,被曝がなく造影剤アレルギーの頻度も少ない点と,造影剤注入後 15~20 分で撮像する肝細胞相で,腫瘍部の肝細胞機能の有無を判定できること,等が利点である.質的診断は MDCT と同等以上である.
    • a:MRIはCTに比べ,ⅰ 異型結節(dysplastic nodule)や早期肝細胞癌(T1 強調画像で高信号に描出),ⅱ C-TACE(conventional trans-catheter arterial chemo-embolization)後の再発肝細胞癌の質的診断能力に優る(Lipiodol®によるアーチファクトがない)点が優位で,近年早期肝癌を診断するためには EOB-MRI が必須とされている.
    • b:一般に単純 MRI では,進行肝癌は,肝細胞癌,肝内胆管癌,転移性肝癌のいずれも,T1 強調画像で低信号になり,T2 強調画像では高信号になる.しかし,腫瘍内部に脂肪成分や高粘張性液体,出血,メラニン沈着を有する場合,また異型結節や早期肝細胞癌では,T1 強調画像で高信号に描出される.一方,出血(急性期)やヘモジデリン沈着,石灰化,金属などがあると T1 強調画像で著明な低信号になる.T2 強調画像に関しては異型結節,早期肝細胞癌では一般に低~等信号である.また拡散強調画像(DWI)では,分化度の低い肝癌において径が小さくとも強い高信号となり診断できることがある(表2).
  4. ④血管造影:MDCT や MRI,造影エコーなどの画像診断の進歩により,空間分解能に劣る血管造影の検査としての重要度は低下した.肝細胞癌に対しては現在,angio-CT(CTAP/CTHA)を行う場合か,治療的インターベンションを行う場面以外では行われなくなった.ただし利点として以下がある.
    • a:血管造影で確定診断したあとただちに治療することが可能である〔TACE や TAI(transcath-eter arterial infusion):経カテーテル的抗癌剤動注療法〕.動注用リザーバーを留置することも一般的である.
    • b:血管造影中に,CTHA(CT during hepatic arteriography),CTAP(CT during arterial portography)を施行して,CTHA にて造影早期に造影効果を認め,CTAP にて欠損像を示すようなら肝細胞癌と診断できる.CTAP・CTHA〔これらを総称して動脈造影下CT(動注 CT,Angio-CT)と呼ばれる〕は,検査が侵襲的であるにもかかわらず依然として画像診断での肝細胞癌診断のゴールドスタンダードである.同時に腫瘍の分過度を組織診断なしに推定することが可能である.
  5. ⑤超音波ガイド下狙撃生検
    • a:画像診断によって大多数の腫瘤性病変が診断可能となった現在,肝細胞癌との診断が画像的に可能な場合,狙撃生検は行うべきではない.頻度は低いが合併症(気胸,出血,腫瘍細胞の播種など)が起こりうる.
    • b:画像診断で非典型的所見が得られる場合(乏血性腫瘍など),組織診断の適応があるが,この場合にも個々の症例に応じて慎重に適応を決めるべきである.しかしそのような結節は最大径20 mm 未満で十分な組織を採取することが困難な場合が多く,成長速度が遅いため経過観察するべきという意見も根強く,また病理学的にも良悪の鑑別が困難なことがある.その場合は経過観察とし,画像上の変化(サイズ増大・エコーレベル, CT 値,MRI の信号強度の変化)を認めた時点で再度狙撃生検の適応を考える.
    • c:生検する場合の最大の注意点は,穿刺ルートから門脈などの脈管をはずすことと,周囲の正常肝を生検組織片に含むようにするまたは正常肝の部分を別に採取することである.診断には,正常部との比較が必要となることが多いためである.
    • d:狙撃肝生検が必要な場合:むしろ肝細胞腺腫やFNH(focal nodular hyperplasia:限局性結節性過形成)など,むしろ良性疾患が予想される場合に診断を確定するため腫瘍生検を求められることがある.画像診断で悪性の除外がかなりできていることが前提で,腫瘍細胞の播種の可能性が低い場合である.腫瘍が多血性であれば,肝縁に近ければ正常肝を通した穿刺ルートを選択するなどし,腫瘍の腹腔内破裂を防がねばならない.
  6. ⑥肝外転移の検索(腫瘍進行度のステージング):原発性肝癌の肝外転移の好発部位は,剖検例での報告で,ⅰ 肺:約 50%, ⅱ腹腔内リンパ節:約20%,ⅲ副腎:約 10%,ⅳ骨:約 10%,ⅴ脳:約 5%,と続く.したがって,
    • a:胸部単純 Xp,胸部 CT
    • b:腹部造影 CT
    • c:頭部 MRI
    • d:骨シンチグラムなどでスクリーニングする.さらに
    • e:心エコー(肺転移する前に右心腔内に転移巣をつくることがある)
    • 以上の各種画像診断を,必要性に応じて治療前に行っておく.
  7. ⑦上部消化管内視鏡
    • a:肝癌治療前に一度は施行しておく.消化性潰瘍食道・胃静脈瘤の治療を肝癌の治療に優先させる必要性がある場合がある.
    • b:消化性潰瘍の場合,A1,A2 期のものは,肝切除・TACE・放射線療法前に瘢痕期にまで治療する.経皮的局所療法でも同様の対処が望ましい.
    • c:食道・胃静脈瘤では,内視鏡像による出血予測因子を参考にする
      1. Ⅰ肝切除術,TACE,放射線療法前には肝硬変における食道・胃静脈瘤管理基準と同様に,破裂の危険性が高い食道静脈瘤は予防的に内視鏡的治療を施行しておく.
      2. Ⅱ局所治療の場合にも予防的治療を施行することが望ましい.
      3. Ⅲ胃静脈瘤,特に孤立性胃静脈瘤をどう処置すべきか定見がない.肝切除術の場合は,手術時に胃静脈瘤周囲の血管を結紮・郭清するなどの対処を考慮する.
    • d:肝細胞癌治療後は,食道・胃静脈瘤が存在する症例では,癌出現前より門脈腫瘍塞栓など種々の要因により門脈圧が亢進するため,内視鏡での経過観察の必要度は高まると認識すべきである.

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表 2 原発性肝癌とその類似病変の画像診断上の鑑別点
表はPC版サイトをご覧ください
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