プライマリケア Primary Care

sysmex

検査項目スピード検索

タクロリムス水和物

タクロリムス水和物

臨床的意義

  • タクロリムス水和物の血中濃度は患者により個人差があるので,血中濃度の高い場合の副作用ならびに血中濃度が低い場合の拒絶反応およびGVHDの発現を防ぐため,患者の状況に応じて血中濃度を測定し,投与量を調節する必要がある.
  • 骨髄移植時のGrade 2以上の急性GVHD発症例はいずれも発現時の血中trough濃度が10ng/ml以下である.一方,腎障害発現例は発現前に20ng/mlを超える血中濃度が多く認められる.これらのことから,GVHDの好発時期での血中濃度は10~20ng/mlを維持する.
  • 移植直後あるいは投与開始直後は頻回に血中濃度測定を行う.また,肝障害あるいは腎障害のある患者では,副作用の発現を防ぐため,定期的に血中濃度を測定し,投与量を調節する.
適応症
腎,肝,心,肺,膵移植における拒絶反応の抑制および骨髄移植における拒絶反応およびGVHDの抑制,全身型重症筋無力症(胸腺摘出後の治療において,ステロイド剤の投与が効果不十分,または副作用により困難な場合)[カプセル・顆粒],関節リウマチ(既存治療で効果不十分な場合に限る),ループス腎炎(ステロイド剤の投与が効果不十分,または副作用により困難な場合)[カプセル]
詳細を見る

基準値・異常値

基準範囲
血中濃度域 5~20ng/ml
  • 移植する臓器にかかわらず,高い血中濃度が持続する場合に腎障害が認められているので,血中濃度をできるだけ20ng/ml以下に維持する.
  • ただし,骨髄移植では血中濃度が低い場合に移植片対宿主病(GVHD)が認められているので,GVHD好発時期には血中濃度をできるだけ10~20ng/mlとする.
変動要因
適応症

ループス腎炎、  関節リウマチ、  骨髄移植における拒絶反応、  全身型重症筋無力症

次に必要な検査
今後の検査の進め方
  • 測定して得られた血中濃度の実測値だけで解析するのではなく,患者の病態や年齢に応じた薬物の母集団パラメータを考慮して解析する方法にベイズ理論がある.1点の採血データだけであっても,薬物動態パラメータを算出することが可能である.そして,同じような背景をもつ患者群を集団としてとらえ,その患者母集団における個体差および個体内変動を定量的に評価し,これらの集団の背景データを利用して,ベイズ理論を用い,1回の採血で得られた血中濃度から患者固有の薬物動態パラメータを予測することが可能である.タクロリムス水和物は,このような母集団解析の対象薬物として注目されている.
  • タクロリムス水和物の体内動態は人種差に起因する相違が認められているが,近年,CYP3A5の遺伝子構造の差異によることが判明しつつある.今後,日本人においてもCYP3A5の一塩基多型(CYP3A53)の有無を調べることによって,投与計画を立案することが考えられている.
変動要因
  • 骨髄移植でクレアチニン値が投与前の25%以上上昇した場合には,タクロリムス水和物の25%以上の減量または休薬などの適切な処置を考慮する.
  • 腎障害の発現頻度が高いので,頻回に臨床検査(クレアチニン,BUN,クレアチニンクリアランス,尿中NAG,尿中β2-ミクログロブリンなど)を行う.特に投与初期にはその発現に十分注意する.
  • カリウム血症が発現することがあるので,頻回に血清カリウムの測定を行う.
  • 高血糖,尿糖などの膵機能障害の発現頻度が高いので,頻回に臨床検査(血液検査,空腹時血糖,アミラーゼ,尿糖など)を行う.特に投与初期にはその発現に十分注意すること.
  • タクロリムス水和物の投与中に心不全不整脈,心筋梗塞,狭心症,心筋障害(心機能低下,壁肥厚を含む)などが認められているので,使用に際しては心電図,心エコー,胸部X線検査を行うなど患者の状態をよく観察する.
  • タクロリムス水和物注射薬による過量投与では,BUN上昇,クレアチニン上昇,悪心,手振戦,肝酵素上昇などの症状の発現が報告されている.処置としては,脂溶性が高く蛋白結合も高いため,血液透析は有用ではない.必要に応じて支持・対症療法を行う.
  • タクロリムス水和物注射液との相互作用(併用禁忌)が報告されている医薬品の作用機序と影響は表3-14のとおりである.
( 加藤裕久 )
臨床検査項目辞典

「最新 臨床検査項目辞典」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部の項目を抜粋のうえ当社が転載しているものです。全項目が掲載されている書籍版については、医歯薬出版株式会社にお問合わせください。転載情報の著作権は医歯薬出版株式会社に帰属します。

「最新 臨床検査項目辞典」
監修:櫻林郁之介・熊坂一成
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, inc., 2008.

お問い合わせ サイトマップ
個人情報の取り扱いについて ご利用に際して
会社概要
PAGE TOP