腸閉塞(イレウス)
intestinal obstruction (ileus)
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Clinical Chart
- イレウスとは腸管内容の通過が障害された状態をいう.4大症状は①腹痛,②嘔吐,③排ガス・排便の停止,④腹部膨満,である.外科緊急疾患である.イレウスは外科入院患者の10%を占める,よくある疾患(common disease)である.
- 機械的イレウスの診断においてもっとも重要なのは閉塞腸管の血行障害の有無である.血行障害のない単純性イレウスか,血行障害のある絞扼性イレウスかを鑑別する.絞扼性イレウスは緊急手術が必要になる.ただし,当初単純性イレウスであっても経過中に絞扼性イレウスに進展悪化することもある.
- 機械的イレウスの原因としてもっとも多いのは開腹手術後の癒着(癒着性イレウス)である.単純性イレウス,絞扼性イレウスともに,その原因の70%を癒着性イレウスが占め,最大の原因である.したがって過去の手術歴についての問診,腹部手術創の確認が重要である.手術からイレウス発症迄10年以上経過していることもまれではない.
- 単純性イレウスの治療は絶食,輸液,抗菌薬,胃管(short tube)またはイレウス管(long tube)による腸管減圧である.しかしこれらの治療を1週間行っても改善が無い場合は待機手術を考慮する.
- イレウスは管腔の狭い小腸(直径3 cm)に好発し(小腸イレウス),管腔の広い大腸(直径5 cm)ではまれであるが,近年大腸癌による大腸イレウスが増加している.腹部単純Xpで盲腸の最大径が9 cm以上の場合は穿孔の危険が高く,緊急で減圧処置(経口イレウス管,経肛門イレウス管,ステント,切除術,人工肛門)が必要となる.
検査
- ①血液検査
白血球高値,CRP高値といった炎症反応亢進を認める.ただし,敗血症になると逆に白血球が減少することがある 絞扼性イレウスでは代謝性アシドーシス〔base excess(BE)低値〕,BUN・CPK・LDH・アミラーゼの高値が認められる.胃液,消化液の頻回の嘔吐があるとK 低値,Cl 低値,代謝性アルカローシス(BE 高値)となる.大腸癌では貧血,CEA 高値を認める.
- ②腹部Xp(図1)
腸管内に充満したガスと襞の形状により,小腸(ケルクリングKerckring 襞,全周性)か,大腸(半月襞,半周性から亜全周性)かを鑑別し,通過障害の部位を推測する.立位か左側臥位にて鏡面像〔ニボー(niveau)〕が確認できればイレウスと診断できる.ただし絞扼性イレウスや小腸上部の閉塞では無ガスイレウス(gasless abdomen)になることもあり,単純X線のみでは診断がつかず,腹部CT が必須である.
- ③腹部CT
イレウスの診断には必須である.撮影範囲は横隔膜から鼠径部まで広く行い,消化管の連続的な追跡を行う.水平断に加えて冠状断も撮る.鼠径ヘルニア嵌頓や閉鎖孔ヘルニア嵌頓も除外必要である.
腸管壁の血行状況を把握する為に,腎機能に問題が無ければ,可能な限り造影剤を使用する.血中Cr,クレアチニン1.2 mg/dL 以上,eGFR 推定糸球体濾過値45~60 mL/分/(1.73 m2)以下では造影剤腎症(contrast induced nephropathy:CIN)の危険がある.Cockcroft 式:eGFR=(140-年齢)×体重kg/Cr×72×(1 男性,0.85 女性)は参考となる.体重50 kg,50 歳男性でCr 1.2 mg/dL の場合,Cockcroft 式ではeGFR は52 mL/分となる.簡単に言えばCr 1.2mg/dL 以上で造影剤腎症の危険があり,2 mg/dL 以上では危険が高い.造影剤腎症の予防には生食などの輸液しかない.重症の造影剤腎症の治療は透析しかない.造影CT の必要度を考慮して個々の症例で造影剤を使うかどうか判断する.
CT ではエコーと違ってガスが貯留した腸管の状況も把握できる.しかし腹部CT にも限界があって索状物は描出できず,開腹しないとわからない.
主要所見は以下のとおりである.- ①拡張した腸管と虚脱した腸管の移行部,管腔径差(caliber change):機械的イレウスでは必ず移行部がある.鳥の嘴状でbeak sign ともいう.腸管の異常な拡張とは小腸で最大径3 cm 以上,大腸で最大径5 cm(左側)~8 cm(右側)以上を指す.閉塞腸管ループ(closed loop obstruction)は拡張腸管の両端が閉塞した状態をいい,絞扼性イレウスの1つであり緊急手術が必要である.
- ②腸管内容貯留:小腸内に空気を混じた食物残渣が貯留し,あたかも便のように見えることがある.
小腸内便徴候(small bowel feces sign)といい,機械的イレウスの所見である.
- ③腸管壁肥厚:小腸,大腸の壁の厚さ3mm以上を壁肥厚という.腸管壁内ガスは絞扼性イレウスの所見である.
- ④腹水,門脈ガス,腹腔内微量遊離ガス(free air),
後腹膜ガスの検出:絞扼性イレウスや腸管穿孔の所見であり緊急手術が必要である.
- ①拡張した腸管と虚脱した腸管の移行部,管腔径差(caliber change):機械的イレウスでは必ず移行部がある.鳥の嘴状でbeak sign ともいう.腸管の異常な拡張とは小腸で最大径3 cm 以上,大腸で最大径5 cm(左側)~8 cm(右側)以上を指す.閉塞腸管ループ(closed loop obstruction)は拡張腸管の両端が閉塞した状態をいい,絞扼性イレウスの1つであり緊急手術が必要である.
- ④超音波検査所見
無ガスイレウスでは有効である.主要所見は以下のとおりである.- ①拡張腸管,②腸内容の移動性:拡張腸管内に点状高エコーの前後移動(to and fro movement)がみられれば,単純性イレウスと診断できる.絞扼性イレウスではこの所見は消失する.
- ③Kerckring 襞の描出,keyboard sign と腸管壁肥厚:単純性イレウスではKerckring 襞が浮腫状に肥厚し鍵盤徴候(keyboard sign)を呈す.絞扼性イレウスでは腸管壁は浮腫状に肥厚しKerckring 襞も消失する.
- ④腹水:大量の混濁した腹水の発生は絞扼性イレウスを疑う.
- ①拡張腸管,②腸内容の移動性:拡張腸管内に点状高エコーの前後移動(to and fro movement)がみられれば,単純性イレウスと診断できる.絞扼性イレウスではこの所見は消失する.
- ⑤注腸Xp
大腸イレウスの診断に有用.腹痛や腹部膨満が強い場合にはガストログラフィンを使用する.目的は閉塞部位,閉塞程度の確認である.
- ⑥小腸造影
イレウス管挿入に続いて,可能なかぎり腸管内容を吸引し,閉塞部位付近でガストログラフィンによる造影を行う.腸管の走向を立体的に把握するため,斜位や側面像を駆使する.
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図1 イレウスの腹部Xpシェーマ