腹痛
abdominal pain
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「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。
「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
一般原則
腹痛患者に対するアプローチでは解剖学的部位から責任臓器を類推し,責任臓器の疾患の特徴を踏まえて,その疾患に合致する随伴症候があるかを検証するのが一般的である(図1).
さらに「痛みかた」からも,ある程度原因を絞り込むことが可能である.
痛みに消長がある場合は,管腔臓器の蠕動によって生じる疼痛である可能性が高いが,持続痛であっても,「痛みに変化がある」という表現をする患者もいる.胆石の疼痛は「胆石疝痛」という別名があるため誤解されやすいが,持続痛である.
また,突発的な発症は血管病変や臓器が「詰まる,破れる,裂ける」病態を示唆する.悪性腫瘍で突発的な症状が出現することはまれである.痛みの程度を客観的に把握することは困難であるが,「冷汗」を伴った場合は一定以上の疼痛であったことを示す.
上記からある程度疾患が絞りこめれば,疾患を確定するための検査を行うことになるが,上下部消化管内視鏡,腹部造影CT などを行っても器質的診断の同定にいたらない腹痛は多い.このような病態は機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)あるいは過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)など,ある程度特徴的な徴候をもつ群に分類され,現在その原因追及のための研究が盛んに行われているが,かなり雑多な病態を扱っていることから,いまだ診断治療で確立されたものは少ない.慢性の経過をもつ腹痛診療においては,初診の段階からこのような疾患概念があることを説明し,器質的疾患の同定に至らないことも多いという事実を理解してもらう必要がある.もちろん,悪性疾患をはじめとする器質的疾患を除外(同定)することが前提であるのはいうまでもない.検査の結果,悪性疾患ではないということを説明するだけで安心する患者も多い.
<心窩部痛>
責任臓器として胃十二指腸,膵臓を考える.虫垂炎の初期も考慮しなくてはならない.いわゆる消化器疾患ではない疾患として,心筋梗塞,腹部大動脈解離・腹部大動脈瘤破裂などもありうるが,大動脈疾患の疼痛は激烈である.
①胃十二指腸潰瘍
②急性膵炎(慢性膵炎の急性増悪も含む)
③非特異的胃十二指腸炎
④膵臓癌
⑤胃癌
<右季肋部痛>
責任臓器として,まず胆嚢・胆管を考える.頻度はやや落ちるが十二指腸・腎臓・虫垂炎の初期もありうる.腹腔外の疾患として肺炎・胸膜炎がありうる.また若年女性であれば,骨盤腹膜炎(PID)の亜型である,クラミジア肝周囲炎も考える.
①胆石発作/急性胆嚢炎,胆管炎
②腎疝痛
<右下腹部痛>
責任臓器は上行結腸,虫垂が多く,回盲部,尿管,卵巣/卵管が次ぐ.
①急性虫垂炎
②憩室炎(上行結腸憩室炎)
③大腸癌(上行結腸)
④回盲部腸炎
<左下腹部痛(左側腹部痛)>
責任臓器として下行結腸,S 状結腸,卵巣を考慮する.
①虚血性腸炎
②S 状結腸憩室炎
③感染性腸炎
<腹部全体の疼痛>
腹部内臓の疾患に基づくものと,腹部内臓には一義的な原因がないものとがある.前者として腸閉塞,腹膜炎(穿孔などに基づくもの)などがあり,後者として糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA),副腎不全(最近は医原性が多い),などがあげられる.腸閉塞については,手術既往,鼠径ヘルニアの有無,嘔気嘔吐,排便停止などの徴候がないかを確認し,疑わしければ腹部造影CT を施行する.CTで拡張した腸管があり,閉塞機転が同定できるようであれば診断可能である.腹膜炎は消化管穿孔に続発して発生することが多いため,圧痛は穿孔部位の近傍を最強とすることが多い.穿孔部位の同定やリーク量・腹水の存否を評価するために,造影CT を行う.
DKA,副腎不全は腹部内臓にだけ注意が向いていると誤診されやすい疾患である.それでもDKA は血糖をチェックしておけば診断できるが,副腎不全の診断にはACTH負荷試験を行わねばならず,確定診断はやや困難である.以前と異なり,内因性のAddison 病などは少なくなり,多くはステロイド投与の離脱期に起きてくることが多いため,患者背景に留意する.
さらに「痛みかた」からも,ある程度原因を絞り込むことが可能である.
痛みに消長がある場合は,管腔臓器の蠕動によって生じる疼痛である可能性が高いが,持続痛であっても,「痛みに変化がある」という表現をする患者もいる.胆石の疼痛は「胆石疝痛」という別名があるため誤解されやすいが,持続痛である.
また,突発的な発症は血管病変や臓器が「詰まる,破れる,裂ける」病態を示唆する.悪性腫瘍で突発的な症状が出現することはまれである.痛みの程度を客観的に把握することは困難であるが,「冷汗」を伴った場合は一定以上の疼痛であったことを示す.
上記からある程度疾患が絞りこめれば,疾患を確定するための検査を行うことになるが,上下部消化管内視鏡,腹部造影CT などを行っても器質的診断の同定にいたらない腹痛は多い.このような病態は機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)あるいは過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)など,ある程度特徴的な徴候をもつ群に分類され,現在その原因追及のための研究が盛んに行われているが,かなり雑多な病態を扱っていることから,いまだ診断治療で確立されたものは少ない.慢性の経過をもつ腹痛診療においては,初診の段階からこのような疾患概念があることを説明し,器質的疾患の同定に至らないことも多いという事実を理解してもらう必要がある.もちろん,悪性疾患をはじめとする器質的疾患を除外(同定)することが前提であるのはいうまでもない.検査の結果,悪性疾患ではないということを説明するだけで安心する患者も多い.
<心窩部痛>
責任臓器として胃十二指腸,膵臓を考える.虫垂炎の初期も考慮しなくてはならない.いわゆる消化器疾患ではない疾患として,心筋梗塞,腹部大動脈解離・腹部大動脈瘤破裂などもありうるが,大動脈疾患の疼痛は激烈である.
①胃十二指腸潰瘍
②急性膵炎(慢性膵炎の急性増悪も含む)
③非特異的胃十二指腸炎
④膵臓癌
⑤胃癌
<右季肋部痛>
責任臓器として,まず胆嚢・胆管を考える.頻度はやや落ちるが十二指腸・腎臓・虫垂炎の初期もありうる.腹腔外の疾患として肺炎・胸膜炎がありうる.また若年女性であれば,骨盤腹膜炎(PID)の亜型である,クラミジア肝周囲炎も考える.
①胆石発作/急性胆嚢炎,胆管炎
②腎疝痛
<右下腹部痛>
責任臓器は上行結腸,虫垂が多く,回盲部,尿管,卵巣/卵管が次ぐ.
①急性虫垂炎
②憩室炎(上行結腸憩室炎)
③大腸癌(上行結腸)
④回盲部腸炎
<左下腹部痛(左側腹部痛)>
責任臓器として下行結腸,S 状結腸,卵巣を考慮する.
①虚血性腸炎
②S 状結腸憩室炎
③感染性腸炎
<腹部全体の疼痛>
腹部内臓の疾患に基づくものと,腹部内臓には一義的な原因がないものとがある.前者として腸閉塞,腹膜炎(穿孔などに基づくもの)などがあり,後者として糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA),副腎不全(最近は医原性が多い),などがあげられる.腸閉塞については,手術既往,鼠径ヘルニアの有無,嘔気嘔吐,排便停止などの徴候がないかを確認し,疑わしければ腹部造影CT を施行する.CTで拡張した腸管があり,閉塞機転が同定できるようであれば診断可能である.腹膜炎は消化管穿孔に続発して発生することが多いため,圧痛は穿孔部位の近傍を最強とすることが多い.穿孔部位の同定やリーク量・腹水の存否を評価するために,造影CT を行う.
DKA,副腎不全は腹部内臓にだけ注意が向いていると誤診されやすい疾患である.それでもDKA は血糖をチェックしておけば診断できるが,副腎不全の診断にはACTH負荷試験を行わねばならず,確定診断はやや困難である.以前と異なり,内因性のAddison 病などは少なくなり,多くはステロイド投与の離脱期に起きてくることが多いため,患者背景に留意する.
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図1 腹痛部位と関連臓器・疾患の関係