薬物性肝障害
DILI
drug-induced liver injury
疾患スピード検索で表示している情報は、以下の書籍に基づきます。
「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。
「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。
(リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690)
Clinical Chart
- 肝障害のすべてに薬物性肝障害(drug-induced liver injury:DILI)の可能性がある.サプリメントや健康食品も原因薬物になりうることに,くれぐれも留意する.
- わが国では,現在,2004年のDDW-J 2004薬物性肝障害ワークショップのスコアリングシステム(滝川 一・他:DDW-J 2004 ワークショップ薬物性肝障害診断基準の提案.肝臓46:86,2005参照)により診断することが一般的とされる.
- 薬物性肝障害は,その発症機序により,薬物濃度依存性のもの(①中毒性),特異体質によるもの(②アレルギー性機序と③代謝性特異体質)に分類される.
- 頻度からみて,最近1~4週に開始された薬物によって起こるDILIをまず念頭に置く.次いで,3カ月以内,6カ月以内というように,次第に頻度が下降するものの,6カ月を越えても起こりうることを念頭に置く.遅発性発症の報告がある薬剤を認識しておくこと.
- 治療の原則は被疑薬の中止である.薬物治療が必要となるDILIは多くない.
- 薬物性肝障害による劇症肝炎はありうる.この際,医師も患者自身も初回投薬と思えた薬剤が,DDW-J 2004診断基準での「偶然の再投与」に該当している可能性を必ず念頭に置く.昨今のジェネリック薬剤推奨の流れから.薬剤名が患者には覚えがなく,そのために医師が初回投与と判断し投与した薬剤が,成分的に完全に該当してしまうケースがありうる.「偶然の再投与」での薬物性肝障害は,投与後たった1~2日後でも,医師の想像を超える重篤な肝障害を起こす症例が存在する.診断が遅れれば.劇症肝炎につながる可能性が十分あり,時間をかけた問診の重要性が,ますます高まっていると断言できる.
- 最悪のケースとしての劇症肝炎を念頭に置き,凝固系や昏睡度のチェックを怠らないこと.また,副作用被害救済制度に該当する場合があることにも注意する.
チェックリスト・検査
①急性肝障害
診断の基本は除外診断になるので,急性肝炎と同様の検査・問診をとる.スコアを算出するときに,「HAV,HBV,HCV,胆道疾患(US),アルコール,ショック肝」の 6 項目(カテゴリー 1)がすべて除外できればスコアが 1 点加点になり,さらに「CMV, EBV」(カテゴリー 2)の 2 項目が除外できれば 2 点加点になることを,始めから念頭においたうえで,診療にあたるとよい.
問診としては,1~4 週間前から服用し始めた薬物を中心に聞き取りをする.それ以上前からの服用については,頻度は減少するが,薬物性肝障害の可能性は有り得るため,まずは 3 カ月前,そして 6 カ月前までは,最低でも聞き取ること.さらに,その薬剤が初めての服用(初回投与)であったか,過去に服用したことがあったかを聞き取る.スコアリングでは,肝細胞障害型でも胆汁うっ滞型でも,初回投与薬剤の場合,薬物投与開始から 5~90 日の場合 2 点,90 日を越えると(あるいは 5 日未満は)1 点となっている.
昨今のジェネリック医薬品の普及から,今まで服用していた薬剤でも,製薬メーカーが変更になった際には,薬物性肝障害を起こす可能性はあり,この点についても十分聴取する.これは先発品から後発品への変更でも,逆に後発品から先発品へでも,後発品から他の後発品へでも,可能性がある.
同様の観点から,医師も患者自身も初回投薬と思えた薬剤が,DDW-J 2004 診断基準での「偶然の再投与」に該当している可能性も必ず念頭におく.薬剤名が患者には覚えがなく,しかし,成分的に完全に該当しているケースがありえる.これは薬剤投与前に,十分問診をとっていれば防げたケースかもしれず,「かかりつけ薬局」の重要性が高まっているといえる.「偶然の再投与」での薬物性肝障害は,投与後たった 1~2 日後でも,医師の想像を超える重篤な肝障害を起こす症例が存在する.スコアリングでも,例えば肝細胞障害型においては,再投与薬剤の場合,薬物投与開始から 1~15 日の場合 2 点,15 日を越えると 1 点となっている.このことは,再投与薬剤では,早期(投与開始 1 日)から起こり,短期間(加点スコア変更時期が,初回 90 日に対し再投与 15 日)に ALT が上昇してくることを示している.
②慢性の肝障害
慢性の薬物性肝障害を起こすことが知られる薬剤は,そう多くない.メチルドーパ(アルドメット®)は数年の使用後慢性肝炎に類似した肝障害を起こす.ほか,ダントロレンナトリウム(ダントリウム®)も慢性肝炎様,イソニアジド(イスコチン®)は後述するが投与を中止しないと肝障害が重症化し,ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®)は自己免疫性肝炎様で発症することがある.
機序についても一部を除いては,中毒型なのか代謝型なのかアレルギー型なのか,あるいは自己免疫性肝炎など別の肝疾患を誘発したのかなどは,今後も解明は難しい可能性がある.慢性の薬物性肝障害がありながら,リスクベネフィットを考え,被疑薬を継続投与するというケースは,比較的稀だと考えられるからである.
また,近年注目される NAFLD との関係から,投与薬剤が NAFLD の起因薬になる可能性を念頭に置く.
③薬剤リンパ球刺激試験(drug lymphocyte stimula-tion test:DLST)
薬剤を患者の血液検体に付加することによって,患者のリンパ球が分裂(幼若化)を始めるか否かをみる検査であり,通常の 180%以上の反応があれば陽性とする.肝障害が起こってから,あまり時間が経過しないうちに行うべきである(肝炎極期は偽陰性がありえ,回復期初期が推奨される).ただし,陽性率はそれほど高くなく,平均すると 50%には満たないと考えられる.46%や44%などの報告がある.つまり,偽陰性がかなり含まれてしまうのが難点である.DDW-J 2004 診断基準に DLST の施行要領が示されているが,これは,DLST は正確な施行がなされて,初めて信頼できる結果が得られることを示している(滝川 一・他:DDW-J 2004ワークショップ薬物性肝障害診断基準の提案. 肝臓 46:90, 2005 参照).
一方,偽陽性は,漢方薬に多く報告されている.その他,MTX(リウマトレックス®)とテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワン®),健康食品のウコンなどでは偽陽性に注意する.これら偽陽性を呈しやすい薬剤以外は,DLST の陽性となれば,相当診断価値が高いと考えられる.基本的に経口薬剤であれば検査可能なので,たとえサプリメントが被疑薬でも,検査を施行できる.
ただし,2015年11月現在,薬疹の原因薬剤検索にしか保険適応がない.つまり,薬疹(皮疹)を伴う薬物性肝障害の場合は保険適応があるが,皮疹がない場合は保険適応がないことには注意を要する.
④皮膚パッチテスト
皮膚科領域では施行されることもあるが,DDW-J2004診断基準では,皮疹はスコアリングからは外れ,使用マニュアル(滝川 一・他:DDW-J 2004ワークショップ薬物性肝障害診断基準の提案. 肝臓 46:88, 2005 参照)に「アレルギー症状として,皮疹の存在も参考になる」のみの記載になっている.皮疹を伴う薬物性肝障害は,15.0%という報告などがあり,それほど頻度が高いわけではない.一方,薬剤性過敏症症候群などの重症型の薬疹の存在には注意を要する.
診断の基本は除外診断になるので,急性肝炎と同様の検査・問診をとる.スコアを算出するときに,「HAV,HBV,HCV,胆道疾患(US),アルコール,ショック肝」の 6 項目(カテゴリー 1)がすべて除外できればスコアが 1 点加点になり,さらに「CMV, EBV」(カテゴリー 2)の 2 項目が除外できれば 2 点加点になることを,始めから念頭においたうえで,診療にあたるとよい.
問診としては,1~4 週間前から服用し始めた薬物を中心に聞き取りをする.それ以上前からの服用については,頻度は減少するが,薬物性肝障害の可能性は有り得るため,まずは 3 カ月前,そして 6 カ月前までは,最低でも聞き取ること.さらに,その薬剤が初めての服用(初回投与)であったか,過去に服用したことがあったかを聞き取る.スコアリングでは,肝細胞障害型でも胆汁うっ滞型でも,初回投与薬剤の場合,薬物投与開始から 5~90 日の場合 2 点,90 日を越えると(あるいは 5 日未満は)1 点となっている.
昨今のジェネリック医薬品の普及から,今まで服用していた薬剤でも,製薬メーカーが変更になった際には,薬物性肝障害を起こす可能性はあり,この点についても十分聴取する.これは先発品から後発品への変更でも,逆に後発品から先発品へでも,後発品から他の後発品へでも,可能性がある.
同様の観点から,医師も患者自身も初回投薬と思えた薬剤が,DDW-J 2004 診断基準での「偶然の再投与」に該当している可能性も必ず念頭におく.薬剤名が患者には覚えがなく,しかし,成分的に完全に該当しているケースがありえる.これは薬剤投与前に,十分問診をとっていれば防げたケースかもしれず,「かかりつけ薬局」の重要性が高まっているといえる.「偶然の再投与」での薬物性肝障害は,投与後たった 1~2 日後でも,医師の想像を超える重篤な肝障害を起こす症例が存在する.スコアリングでも,例えば肝細胞障害型においては,再投与薬剤の場合,薬物投与開始から 1~15 日の場合 2 点,15 日を越えると 1 点となっている.このことは,再投与薬剤では,早期(投与開始 1 日)から起こり,短期間(加点スコア変更時期が,初回 90 日に対し再投与 15 日)に ALT が上昇してくることを示している.
②慢性の肝障害
慢性の薬物性肝障害を起こすことが知られる薬剤は,そう多くない.メチルドーパ(アルドメット®)は数年の使用後慢性肝炎に類似した肝障害を起こす.ほか,ダントロレンナトリウム(ダントリウム®)も慢性肝炎様,イソニアジド(イスコチン®)は後述するが投与を中止しないと肝障害が重症化し,ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®)は自己免疫性肝炎様で発症することがある.
機序についても一部を除いては,中毒型なのか代謝型なのかアレルギー型なのか,あるいは自己免疫性肝炎など別の肝疾患を誘発したのかなどは,今後も解明は難しい可能性がある.慢性の薬物性肝障害がありながら,リスクベネフィットを考え,被疑薬を継続投与するというケースは,比較的稀だと考えられるからである.
また,近年注目される NAFLD との関係から,投与薬剤が NAFLD の起因薬になる可能性を念頭に置く.
③薬剤リンパ球刺激試験(drug lymphocyte stimula-tion test:DLST)
薬剤を患者の血液検体に付加することによって,患者のリンパ球が分裂(幼若化)を始めるか否かをみる検査であり,通常の 180%以上の反応があれば陽性とする.肝障害が起こってから,あまり時間が経過しないうちに行うべきである(肝炎極期は偽陰性がありえ,回復期初期が推奨される).ただし,陽性率はそれほど高くなく,平均すると 50%には満たないと考えられる.46%や44%などの報告がある.つまり,偽陰性がかなり含まれてしまうのが難点である.DDW-J 2004 診断基準に DLST の施行要領が示されているが,これは,DLST は正確な施行がなされて,初めて信頼できる結果が得られることを示している(滝川 一・他:DDW-J 2004ワークショップ薬物性肝障害診断基準の提案. 肝臓 46:90, 2005 参照).
一方,偽陽性は,漢方薬に多く報告されている.その他,MTX(リウマトレックス®)とテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワン®),健康食品のウコンなどでは偽陽性に注意する.これら偽陽性を呈しやすい薬剤以外は,DLST の陽性となれば,相当診断価値が高いと考えられる.基本的に経口薬剤であれば検査可能なので,たとえサプリメントが被疑薬でも,検査を施行できる.
ただし,2015年11月現在,薬疹の原因薬剤検索にしか保険適応がない.つまり,薬疹(皮疹)を伴う薬物性肝障害の場合は保険適応があるが,皮疹がない場合は保険適応がないことには注意を要する.
④皮膚パッチテスト
皮膚科領域では施行されることもあるが,DDW-J2004診断基準では,皮疹はスコアリングからは外れ,使用マニュアル(滝川 一・他:DDW-J 2004ワークショップ薬物性肝障害診断基準の提案. 肝臓 46:88, 2005 参照)に「アレルギー症状として,皮疹の存在も参考になる」のみの記載になっている.皮疹を伴う薬物性肝障害は,15.0%という報告などがあり,それほど頻度が高いわけではない.一方,薬剤性過敏症症候群などの重症型の薬疹の存在には注意を要する.