肝膿瘍
liver abscess
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「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
- 肝膿瘍は,化膿性肝膿瘍(pyogenic liver abscess,起因微生物が細菌)とアメーバ性肝膿瘍(amoebic liver abscess,起因微生物がEntamoeba histolytica)に大別される.
- 発熱,肝腫大,右季肋部痛の訴え(発熱のみのこともあり38℃以上の数日来の発熱であることが多い)+腹部エコーで境界やや不明な肝内低エコー性SOL(占拠性病変)肝膿瘍を疑う.
- 造影CT(できればdynamic CT)で,エコーで見えたSOLが肝膿瘍であることを確認する.
- 経皮経肝的肝膿瘍ドレナージ術を行い,採取した膿の一部を直接検鏡,一部は培養検査に提出し,膿がドレナージされなくなるまでチューブを留置する.
- 抗菌薬は化膿性肝膿瘍ではユナシン®で開始し,膿培養結果をみてから狭域スペクトラムの薬剤に変更.アメーバ性はフラジール®(250 mg)9錠を3回に分け毎食後に内服する.
- 抗菌薬投与期間は,膿瘍の個数・サイズにもよるが,化膿性肝膿瘍では4~8週を目安とし,アメーバ性では10日間投与する.
診断
- ①問診・理学所見
発熱,肝腫大,右季肋部~心窩部痛が3 主徴とされる.しかし肝腫大は理学所見で感知しないことが多く,発熱のみであることも少なくない.発熱は,典型的には悪寒・戦慄を伴い,弛張熱を示す.食思不振,悪心・嘔吐などの消化器症状が存在することもあるが,黄疸がみられることはまれである. - ②血液学・血液生化学検査
白血球増加(好中球核左方移動を伴う,アメーバ性でも同様)と赤沈亢進,CRP・ALP 上昇とAST・ALTの軽度上昇がみられる.黄疸や腎障害がみられることはまれだが,それらが肝膿瘍でみられれば,感染症が局所的な病気ではなくDIC・多臓器不全の状態になっていると考えるべきである(その意味でも血液培養は必須). - ③画像診断
- ① US:肝内に境界不明瞭なSOL(占拠性病変)をみる.低~無エコーであることが多いが,高エコーや混合エコーで血管腫と紛らわしいことがありうる.超音波だけで診断を決めず,CT も必ず併施する.
- ② CT:単純CT では低吸収域.膿瘍壁が周囲肝実質よりやや低吸収域となる二重構造.造影では膿の部分は染まらず,膿瘍辺縁は炎症を伴う肝実質なので徐々に等~高吸収域に造影されるのが典型.造影CT でほぼ診断できる(感度・特異度ともほとんど100%).起因菌がガス産生菌である場合(糖尿病を基礎疾患にもつ患者などによくみられる),air density が膿瘍内または壁在性に存在するので診断することができる.
- ③ MRI:膿は液状であるため,プロトン分子が豊富であるからT1 強調画像では低信号,T2 強調画像では高信号を呈する.ガドリニウムでの造影ではCT と同様の造影効果が得られる.
- ④ 膿瘍造影:現在,この検査は不要とされつつある.
- ④原因微生物の同定
肝膿瘍を疑えば肝腫瘤内容物を採取し,色調や匂いなどを観察する.アメーバ性は暗赤色~トマトケチャップ様であることが特徴で,アンチョビソースまたはチョコレート様と称される.臭気はない.さらに膿中にアメーバそのものを観察しうるか検鏡する(検出率は約1/3であるが塗抹検査は細菌性肝膿瘍の否定に有用).すべての検体は細菌培養にも提出する.polymicrobial であると考えるべきであるため,嫌気性菌も効率よく検出する血液培養用のボトル内へ膿を注入し提出するほうがよい.
アメーバ性肝膿瘍の診断には血清抗体がきわめて有用である.発症後7~10 日後にほぼ100%陽性になる.抗体の検出方法には,間接蛍光抗体法,サンドイッチELISA が使われるようになった.これらはいずれでもよい.