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急性肝不全

別名 acute hepatic failure

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臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

  1. 急性肝不全とは意識障害の有無にかかわらずプロトロンビン時間が40%以下またはINR値1.5以上を示す急性肝障害のことである.肝性昏睡Ⅱ度以上の意識障害を伴うものを昏睡型,伴わないものを非昏睡型と呼ぶ. 急性肝不全のうち,肝性昏睡を伴う肝炎は,劇症肝炎と呼称する(厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班」平成22年度報告書 参照).
  2. 急性肝炎様の症状発症10日以内にⅡ度以上の意識障害をきたす昏睡型急性肝不全急性型(劇症肝炎急性型)と10日以後に昏睡症状をきたす昏睡型急性肝不全亜急性型〔劇症肝炎亜急性型,および遅発性肝不全(LOHF)〕.の鑑別が重要である.後者は内科的治療で救命できる可能性は低く(15~25%),肝移植可能施設との連絡が必須である.
  3. 昏睡型急性肝不全は全体としても現在も予後不良である.肝移植適応ガイドライン(厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班」劇症肝炎分科会 参照)に基づき脳死・生体肝移植の可能性を探りながら,人工肝補助療法(血液浄化療法)を含む集中治療を行う.自施設で施行不能な場合は直ちに10%ブドウ糖を点滴しつつ可能な施設に転送する.
  4. 劇症肝炎以外の急性肝不全の原因で最も多いものはアルコール性急性肝不全である.元来肝硬変程度まで進展した慢性肝障害に発症することの多いアルコール性肝炎(≒アルコール性急性肝不全)は,実際には慢性肝不全の急性増悪であり,多臓器不全で死亡する率が高く,この項では扱わない.劇症肝炎以外の急性肝不全の原因疾患は,以下循環不全,悪性腫瘍浸潤,中毒性と続く.
  5. 劇症肝炎は全体として1970年代初頭をピークに減少し続けており,昏睡型急性肝不全の原因は,どの病型でもウイルス肝炎の比率が減少し,自己免疫性,薬物性の比率が,相対的に増している.とくに亜急性型とLOHF(遅発性肝不全.原則として事前に肝障害がなく,肝障害症状出現後8週以後24週までに凝固異常と意識障害を伴う肝不全が現れる症候群のこと)では近年は循環不全と成因不明例が増加してきている.
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診断

  1. ①問診
    1. ①前駆する肝障害の有無:急性肝不全は前駆する肝障害がないことが前提である.可及的に情報を集める.症状には,発熱頭痛関節痛,食思不振,悪心・嘔吐黄疸(褐色尿,灰白色便を含む).
    2. ②昏睡型急性肝不全の場合:問診
    3.  a:いつから症状が発症したか
    4.  b:いつから意識障害を発症したか?
    5. 昏睡型急性肝不全の型別を判断(すなわち予後を判定)するうえで重要.
    6. 意識障害の鑑別.昏睡度の識別(犬山シンポジウム:1972年 参照):意識障害を評価するためたとえば 7 シリーズ(→100-7, 93-7,9-7 までの時間と正確さを測る)など,簡単な計算を指示することも有用.アンモニア値と羽ばたき振戦(asterixis)を参考に.必要であれば脳波(三相波など)や脳 CT(脳浮腫の有無)をチェックする.
    7. ④輸血歴,飲酒歴,薬歴,sick contact など肝不全の原因を知るための項目
  2. ②理学的所見.
    1. ①呼吸数,体温,心拍数:SIRS 基準を満たす症例は致死率が高い.急性肝不全は全身に症状を及ぼすため,バイタルサイン,尿量,動脈圧,動脈酸素分圧などのモニタリングが必要である(Bernal W, Wenden J:N Engl J Med 369:2525-2536, 2013 参照)
    2. ②羽ばたき振戦(asterixis):手関節またはより中枢側の関節で出現する粗大な振戦.手関節を背屈させて肘関節,手指を伸展させることによって誘発できる.この所見があれば昏睡型と診断する(持田 智:厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する研究事業」平成24年度報告書. pp.108-124, 2013 参照).
    3. ③クモ状血管腫,手掌紅斑:慢性肝障害が基礎にあったか否かを判別する.発症初期の腹部 CT・US での肝表面鈍化・凹凸不整も参考になる.
    4. ④末梢浮腫・腹水:同様に慢性肝障害が基盤にあったかどうかの判別に有用だが,これらは慢性肝障害が基盤になくても出現しうる.
  3. ③血液検査
    1. ①a:凝固系:凝固蛋白は半減期が短いため肝での合成能の鋭敏な指標である.PT 活性≦40%またはINR≧1.5 で昏睡型急性肝不全への移行を考慮する必要がある.HBVが原因の場合はPT≦80%の段階から抗ウイルス療法が必要.
    2.   b:FDP,D-ダイマー,AT-Ⅲ,TAT,PIC:急性肝不全はDIC準備状態であり,脳症出現以前に少なくとも一度は調べておく.
    3. ②血算,血液生化学
    4. ③肝炎ウイルスマーカー,自己抗体など.:厚生労働省科学研究費補助金(難治性疾患克服事業)「難治性の肝・胆道疾肝疾患に関する調査研究」班による急性肝不全の成因分類に示す(自己免疫性に関する国際診断基準).
  4. ④画像検査
    1. ①腹部超音波:エコーレベルの低下(肝組織壊死に一致),腹水の存在が劇症肝炎の特徴(http://www.hattori-iin.com/disease/liver/AH_1.htm).
    2. ②腹部CT:CT volumetryで肝容積を計算できる.ワンポイントの計測であっても容積<600 mL は予後不良を意味する.CT 値の低下が壊死組織の分布を現わし(map sign;http://www.hattori-iin.com/disease/liver/AH_1.htm),継時的に容積の有意な低下が確認できれば,たとえその時点で脳浮腫が認められなくとも,80%は死亡と予測できる.
  5. ⑤昏睡型急性肝不全(≒劇症肝炎)移行の予測式数種あるが,最も感度が高く(反面特異度は低いが…)劇症化する症例をもれなく拾い上げるとされる与芝の予知式を挙げておく(表7)
     なお,感度・特異度とも良好な厚労省班会議(岩手医大)の予知式は以下の web サイトを参照のこと.
     http://intmed1.iwate-med.ac.jp/calc/calc.html
  6. ⑥昏睡型急性肝不全(≒劇症肝炎)の移植適応ガイドライン(厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班」劇症肝炎分科会より)
     肝性昏睡 2 度以上が出現した時点で,内科的治療で救命可能かどうかを予測する.移植必要性のインフォームドコンセントを得るうえで Key となる情報である.スコアシステムで死亡予測が出る,あるいは劇症化予知された時点でも脳死肝移植登録(近隣の脳死移植可能施設(https://www.jotnw.or.jp/jotnw/facilities/04.html)に連絡し,まずは家人だけで受診して戴く)を行っておく.一方人工肝補助(血液浄化)療法をはじめとする集中治療を行いつつ,決定木法を用いたさらに正確な死亡予測(移植以外の治療法で助からない)を行うためのアルゴリズム(持田 智:厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する研究事業」平成24年度報告書 参照)(data mining 法に基づく)も厚労省班会議研究で開発されており,以下のアドレスにメールすることにより,ケースごとの検討結果や,治療に関する相談・指導を受けることも可能である(smochida@saitama-med. ai.jp).

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表7 ウイルス性劇症化予知式(与芝の式)
表はPC版サイトをご覧ください
※ウイルス肝炎以外でも成因を「その他」として計算する.
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