急性肝炎
別名 | acute hepatitis |
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「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。
詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690)
Clinical Chart
- 急性肝炎は,急性の肝障害(トランスアミナーゼやビリルビン値の中等度上昇:ALT>200 IU/dL,T-Bil>3.0 mg/dL程度)で疑い,閉塞性黄疸,肝炎ウイルス以外のウイルスによる肝障害,薬物性肝障害,急性発症型自己免疫性肝炎,アルコール性肝炎などを除外して診断する.
- 劇症化するか否かの判断がもっとも重要である.急性肝炎は肝炎ウイルスの一過性感染によって起こる病態で,70%以上は自然治癒しうるが,1~2%が劇症化する.劇症肝炎の50%は,2014年現在でも肝移植を施行せず治療した場合は死亡している.劇症化の予知にはCTでの容積計算と与芝の劇症化予知式(masuiura.web.fc2.com/gekishouka.xls)または厚労省研究班の劇症化予知式(http://intmed1.iwate-med.ac.jp/calc/calc.html)が役立つ.
- 劇症化の可能性がなくなれば,慢性化の可能性を考慮する.B型急性肝炎とC型急性肝炎では慢性化がありうる.B型では,若年者を中心に遺伝子型AのHBVによる急性肝炎が近年大都市圏を中心に流行しており,この5~10%が慢性化する.C型では健常成人でも約80%が慢性化する.ウイルスマーカーのチェックと感染源の推定(病歴聴取)が重要である.
- 感染症法によって急性肝炎(A型,E型)は4類に,それ以外の急性肝炎は5類に分類されている.したがって急性肝炎は全例管轄保健所に報告することが義務づけられている(A・E型は診断後直ちに,それ以外では1週間以内に).
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診断
- ①問診
- ①いつから症状が発症したか:劇症肝炎の型別を判断するうえで,またウイルスの潜伏期間を判断するうえで重要.症状には,発熱,頭痛,関節痛(患者は感冒様症状として把握していることが多い)といった全身症状と,食思不振,悪心・嘔吐,黄疸(褐色尿,灰白色便を含む)などの消化器症状がある.腹痛がまれにみられ,肝被膜の伸展痛が多く,持続痛で食事と無関係で部位は心窩部または右季肋部である.
- ②周囲に同じような症状を呈した者はいなかったか:A 型肝炎の場合,施設内感染や家族間でのウイルスの伝搬がありうる.E 型肝炎も同一の食材からの同時感染がありえ,B,C 型肝炎では注射針やピアス針の共有による伝播がありうる. HBV では通常の接触でも感染伝播が稀にあり,家族や肌を接する格闘技などの競技者内のキャリアを検索する.
- ③感染経路を意識して:輸血歴(B,C 型),肝疾患家族歴(B 型),海外渡航歴(A,B,E 型),生の二枚貝(カキなど)の摂取歴(A 型),性生活歴(B,C 型),経静脈的薬剤濫用歴(B,C 型),刺青・針治療歴(B,C 型),イノシシなど野生動物の摂食歴(E 型)(表1).
- ②血算,血液生化学
筋肉由来や血球由来の AST,ALT,LDH,T-Bil の高値を肝障害と鑑別するため,CPK,D-Bil の計測を行うこと. - ③肝炎ウイルスマーカー(表2,3)
大部分の急性肝炎はこれで原因ウイルスを同定できるが,C 型急性肝炎は,発症初期には血中 HCV-RNAを除いて陰性のことが少なくない.さらにウイルスマーカー陰性の急性ウイルス性肝炎が 20%前後存在する.肝炎ウイルス以外のウイルスによる肝障害を血清学的に除外しておくこと.
B 型急性肝炎が疑われる場合,劇症化率が異なるので遺伝子型と pre-C 領域や core-promotor 領域に点突然変異があるか否かをチェックする必要がある. - ④B 型肝炎ウイルスマーカーの解釈,C 型肝炎ウイルスマーカーの種類とその意義.
- ⑤腹部超音波検査,X 線,CT
- ① 第1 の目的は胆道系疾患(閉塞性黄疸)と慢性肝疾患の除外である.
- ② 重症の急性肝炎では,肝の容積,エコーレベル,CT 値の低下(壊死部が一定以上広いとき,そこに一致:http://www.hattori-iin.com/disease/liver/AH_1.htm)の有無,そして腹水の有無によって重症度を評価することがある程度可能である.一般に,MDCT で撮像した肝臓の肝容積≦700 mL では劇症化の可能性ありと考えて対応する.劇症肝炎では血漿交換などの血液浄化療法を含む集中治療が必要なので,自施設で施行不可能であれば早めに転送する.
- ⑥凝固系
PT≦40% または PT-INR≧1.5 では意識障害を認めなくとも非昏睡型急性肝不全として,劇症化を予想した対応が必要である. - ⑦血漿アンモニア,アミノ酸BTR
肝性昏睡の進行と相関があり,また肝性昏睡治療の目安や指針を与えてくれる. - ⑧血清保存
後に種々の病原微生物に対する抗体やDNA 診断のため,血清が必要となる可能性がある.とりわけ重症の場合,血漿交換などが施行される前の血清を5~10mL 以上凍結保存しておくことが推奨される.
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- 表 1 各急性肝炎の特徴
- 表はPC版サイトをご覧ください
- 表 2 急性肝障害時にチェックすべきウイルスマーカー
- 表はPC版サイトをご覧ください
- *1 HSV:単純ヘルペスウイルス,EBV:EB ウイルス,CMV:サイトメガロウイルス
*2 640 倍以上の強陽性をもって急性感染(再活性化も含む)と解釈する.
*3陽性の場合は急性感染は否定できる.
**健康保険適用外
- 表 3 急性期のマーカーの解釈
- 表はPC版サイトをご覧ください
- *1 IgMHBc抗体は,慢性B型肝炎の急性増悪でも陽性化しうるが,そのときは値が低い.EIA 法で 2.0 以上,RIA 法で 3.0 以上の高い値なら,まず急性 B 型肝炎である.ただし例外あり.
*2 発症時には HCV 抗体は陰性であり,約 2~48 週後に陽性化する(平均約 6 週後).
注:A 型,B 型,C 型の同時/重複感染に注意.
〈肝炎ウイルス以外のウイルスによる肝炎〉
①EBV による急性肝障害(伝染性単核症):FA 法にて
VCA(IgM)抗体陽性 and/or VCA(IgG)抗体≧640 倍 and/or EBV-EA-DR(IgG)抗体陽性
かつ EBNA 抗体陰性
②CMV による急性肝障害(伝染性単核症):IgM CMV 抗体陽性
③単純ヘルペスウイルス肝炎:IgM HSV 抗体陽性
(③では肝生検による確認が必要)