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パラコート

パラコート

別名 メチルビオローゲン,グラモキソン

臨床的意義

  • パラコート中毒者の初期症状・徴候は特徴が乏しく,急性期には嘔吐,呼吸数・脈拍の増加,消化管のびらん,潰瘍,ショック,蛋白尿,乏尿,黄疸である.意識明瞭なことも多いので,パラコート服用の事実を見逃さないよう注意する必要がある.胃洗浄は摂取後1時間以内に始めなければ効果を期待できないとされ,血中濃度の分析結果を待っている余裕はない.
  • 経口摂取だけでなく,吸入や経皮吸収によっても全身中毒を起こす.死亡例も報告されている.
  • 尿中のパラコートが還元を受けると青色に変化する反応を利用するヒドロサルファイト試験は,迅速検査法として利用される.
  • パラコートは大量に摂取すると多臓器不全をきたすが,これを乗り越えても遅発症状として肺線維症が起きることで知られる.肝・腎障害に引き続き,摂取後3,4日で起き,呼吸不全による死亡の原因となる.予後は血中濃度と摂取後の経過時間とから推定できることが知られ,Hartの生存曲線として示されている.また,治療開始時の血清濃度(μg/ml)×治療開始までの時間(時)を中毒重症指数(SIPP)とし,SIPP10未満は生存可能,10~50では遅延死亡,50以上では急性期死亡という報告もある.この生存曲線やSIPPが考案された背景には,来院時の治療開始前に予後は決まっているため意味のない過剰な集中治療を避ける,という考え方がある.
  • 経口摂取の場合,胃では強い酸性のため四級アンモニウム塩となって吸収されないが,腸ではパラコートイオンとして吸収される.吸収量は摂取量の1~5%にすぎず,残りは糞便中に排泄される.吸収されたパラコートの90%以上は,48時間以内に尿中に排泄される.腎機能障害を合併すると排泄が遅れ,血中濃度が維持される.
  • パラコートは生体内でNADPHと酸素とともに酸化還元を繰り返し,スーパーオキシド基を生成し,さらに過酸化水素,ヒドロキシルスーパーオキシド遊離基を生成する.すなわち,パラコートの毒性発現には酸素が大きく関わっているため,初期治療においてはどうしても必要な場合を除いて酸素の投与を避けるべきとされる.
  • パラコートの慢性職業曝露では,皮膚の発赤,爪の変形,鼻出血などの症状が現れる.使用前の混合・充填時,および散布時に皮膚への接触や吸入による曝露が問題となる.散布中の急性中毒事例も報告され,アメリカ労働衛生専門家会議(ACGIH)は気中許容濃度を0.1mg/m3と勧告している.
  • 職業的な曝露作業者の生物学的モニタリング指標として,尿中パラコート濃度を使用した報告がある.0.25%のパラコートを12週間スプレー作業した場合の尿中濃度は平均0.04μg/ml,最高0.32μg/mlであり,自覚症状は生じなかった.許容濃度0.1mg/m3に対応する尿中濃度は0.7μg/mlとされる.
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( 上島通浩 )
臨床検査項目辞典

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「最新 臨床検査項目辞典」
監修:櫻林郁之介・熊坂一成
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, inc., 2008.

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