発熱性好中球減少症
FN
febrile neutropenia
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「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
- 好中球減少を有するがん患者は抗菌薬使用のガイドライン〔米国感染症学会(IDSA), 2010 年改訂版〕に準拠して治療する.好中球が減少している状態では,感染症が急速に進行して重篤な病態に陥る可能性が高く,感染徴候である発熱がみられたらただちに経験的治療を開始する.発熱がない場合でも,感染症に相当する徴候・症状を呈する場合には同様な治療が必要である.
- 好中球数が 500/μL 未満,または 1,000/μL 未満で 48 時間以内に 500/μL 未満に減少が予測される状態で,かつ腋窩温 37.5℃以上(口腔内温 38℃以上)の発熱を生じた場合を発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)とする.
- 初期の診断は,診察,すべての血球数,血清 Cr,BUN,トランスアミナーゼ,T-Bil, ALP を含む血清生化学検査を行う.抗菌薬開始前に 2 セット以上の静脈血培養を行う.中心静脈カテーテルが留置されている場合はカテーテル内腔から 1 セットと末梢静脈から 1セットを,留置されていない場合は異なる部位の末梢静脈から 2 セットを採取する.
- 化学療法誘発性の好中球減少症は炎症所見や症状に乏しく,発熱のみが重症の潜在的な感染症を示す指標といえる.呼吸器症状・徴候を伴い感染が疑われる場合は胸部Xpを撮る.感染が疑われる症状・徴候を示す身体部位での培養検査を行う.
- 固形腫瘍患者の 10~50%および 80%を超える造血器悪性腫瘍患者において,1 サイクル以上の化学療法施行中に好中球減少における発熱を認める
- 好中球減少症の初期にみられる最初の発熱の原因としては,真菌感染はまれであり,細菌感染を考える.好中球減少が長期にわたり経験的抗菌薬治療が1週間以上経過してから後に現れる.
- 初期治療でリスク判定を行うときは定量化された指標(IDSA:Febrile Neutropenia ガイドライン, 2002 参照)を利用し,低リスク患者を判別することが重要である.また,低リスク患者の治療にあたっては,経口薬の選択を考慮する.初期治療判定期間は,3~5 日間である.抗菌薬の選択では,広域スペクトラムを有する必要性から,セフタジジム,セフェピム,タゾバクタム・ピペラシリン,イミペネム,メロペネムなどが推奨されている.G-CSF は合併症(肺炎,皮下組織炎,低血圧,多臓器不全,侵襲性真菌感染症)のない場合にはルーチンに使用しないことが,2001 年の ASCO (米国臨床腫瘍学会)ガイドラインで勧告されており,IDSA でも同様に扱う.
評価法
重症の好中球減少症では,炎症所見や感染徴候が軽度もしくは認められない場合が多い.現在使用できる診断法は,迅速性,感度,微生物の同定の点においては十分とはいえないため,経験的治療が開始される.症状を伴わない感染症では,感染頻度の高い部位(歯周組織,咽頭,食道下部,肺,肛門を含む会陰,眼底,骨髄穿刺部位を含む皮膚,血管カテーテル挿入部位,爪周囲)の疼痛など軽微な症状,徴候をも見逃さないことが重要である.また,感染が疑われる場合には,ただちに細菌・真菌培養のための検体を採取する必要がある.カテーテル関連感染が疑われる場合には,末梢血とカテーテルから血液を採取した検体の比較が有用である.気道の異常が認められた場合には,胸部X線検査を行う.支持療法が予定されているもの,薬剤の副作用発現をモニターするためにも,血算,血清Cr,BUN の測定が必要である.
<重症感染症に対するリスク判定>
好中球減少時の発熱患者で,重症感染症リスクが低いとして特定された因子を「IDSA:Febrile Neutropenia ガイドライン, 2002」に示す.これらの予後因子は外来患者を識別する指標として利用できる.さらに,好中球減少時に発熱した悪性腫瘍患者1,139 名を対象として施行された試験結果に基づく指標(MASCC:Multinational Association for Supportive Care in Cancer)では,7 項目の点数の合計が21点以上であれば低リスクとする(Klastersky J, et al:J Clin Oncol 18:3038-3051, 2000 参照).これらの予後因子による判定で,低リスク患者を識別することができる.
<重症感染症に対するリスク判定>
好中球減少時の発熱患者で,重症感染症リスクが低いとして特定された因子を「IDSA:Febrile Neutropenia ガイドライン, 2002」に示す.これらの予後因子は外来患者を識別する指標として利用できる.さらに,好中球減少時に発熱した悪性腫瘍患者1,139 名を対象として施行された試験結果に基づく指標(MASCC:Multinational Association for Supportive Care in Cancer)では,7 項目の点数の合計が21点以上であれば低リスクとする(Klastersky J, et al:J Clin Oncol 18:3038-3051, 2000 参照).これらの予後因子による判定で,低リスク患者を識別することができる.