深在性真菌症
cryptosporidiosis
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「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
- 抗癌剤や,免疫抑制剤の使用頻度上昇に伴って真菌感染症の頻度も増加傾向であるが,「深在性真菌症」とひとくくりにして,漠然と抗真菌薬を開始してはならない.
- 患者背景と症状から,感染臓器と真菌名を具体的に想起し,可能な限り培養や病理検体での確定診断を得るように心がける.
- 日常診療の中で比較的遭遇頻度の高いものは「カンジダ血症」「侵襲性肺アスペルギルス症」「クリプトコッカス脳髄膜炎」であり,本項では,これらを中心に解説する.
- 真菌感染症の代表的マーカーであるβ-D-グルカンは,単独ではいまだ有用性が高いとは言い難いが,頻用されることも多く,別項を設けて解説した.
- わが国の抗真菌薬の添付文書に従うと,用量が不足であったり治療期間が短くなったりするおそれがある.表1 に深在性真菌症に使用される抗真菌薬をまとめた.投与法の詳細については,各項を参照されたい.なお,治療については Infectious Disease Society of America(IDSA)の各種ガイドラインを参照した.
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表1 深在性真菌症に使用される抗真菌薬
抗真菌薬 系統 一般名 略語 代表的な商名 剤形 特徴 アゾール系 フルコナゾール FLCZ,FCZ ジフルカン 内服 or 静注 吸収良好,点滴では溶媒が多くなる ホスフルコナゾール F-FLCZ,F-FCZ プロジフ 静注 溶媒が少なくても溶解可能 ボリコナゾール VRCZ ブイフェンド 内服 or 静注 吸収良好,腎機能障害例では静注は避ける イトラコナゾール ITCZ イトリゾール 内服 or 静注 カプセルは吸収不良 エキノ
キャンディン系ミカファンギン MCFG ファンガード 静注 カスポファンギン CPFG カンサイダス 静注 ポリエン系 リポソーマル
アムホテリシン BL-AMB アムビゾーム 静注 電解質異常に注意する フリシトシン 5-FC アンコチル 内服
侵襲性カンジダ症に対する使用 loading 維持量 FLCZ,FCZ 800mg 24時間ごと2日間 400mg 24時間ごと F-FLCZ,F-FCZ 800mg 24時間ごと2日間 400mg 24時間ごと MCFG 不要 100mg 24時間ごと CPFG 70mg 24時間ごと1日間 50mg 24時間ごと VRCZ 6.0mg/kg 12時間ごと1日間 4.0mg/kg 12時間ごと ITCZ 200mg 12時間ごと2日間 200mg 24時間ごと L-AMB 不要 2.5mg/kg 24時間ごと 侵襲性アスペルギルス症に対する使用 loading 維持量 VRCZ 6.0mg/kg 12時間ごと1日間 4.0mg/kg 12時間ごと L-AMB 不要 2.5~5.0mg/kg 24時間ごと MCFG 不要 300mg 24時間ごと CPFG 70mg 24時間ごと1日間 50mg 24時間ごと クリプトコッカス脳髄膜炎に対する使用 loading 維持量 L-AMB 不要 3~4mg/kg 24時間ごと 5-FC 不要 100mg/kg 24時間ごと FLCZ,FCZ 800mg 24時間ごと2日間 400mg 24時間ごと F-FLCZ,F-FCZ 800mg 24時間ごと2日間 400mg 24時間ごと VRCZ 6.0mg/kg 12時間ごと1日間 4.0mg/kg 12時間ごと ITCZ 200mg 12時間ごと2日間 200mg 24時間ごと
診断
- 侵襲性カンジダ症(カンジダ血症を中心に)
- [診断]
- ①カンジダが血液培養陽性となった場合,一般にそれはコンタミネーションとは扱わず治療対象とする.
- ②侵襲性カンジダ症の症状は,発熱のみから重症敗血症までさまざまである.
- ③診断のゴールドスタンダードは血液培養陽性であるが,その陽性率は50%前後との報告もあり,血液培養陰性の侵襲性カンジダ症の診断には播種性病変の検索が重要である.
- ④播種する臓器としては,眼,腎臓,心臓弁,肝臓,椎体,脳,皮膚などがあげられる.
- ⑤播種巣が認められる,あるいは侵襲性カンジダ症が疑われ各臓器に所見がある場合,膿瘍ドレナージや生検などの積極的な検体採取が望ましい.
- ⑥好中球減少患者では,しばしば確定診断が困難となる.発熱性好中球減少症の章も参考にされたい.
- ⑦β-D-グルカンについては,別項も参照されたい.侵襲性カンジダ症については,感度・特異度ともに80%前後の報告である.
- ⑧カンジダ抗原については,その検査方法により差異はあるものの,いずれの検査も特異度に比して感度が低いことが問題である.おもに用いられているプラテリアカンジダ(ELISA)でcut off 値を0.1 ng/mL とすると感度60.9%,特異度100%,ユニメディカンジダ(ELISA)(cut off 値0.05 ng/mL)で感度82.1%,特異度100%とされる.プラテリアカンジダでは,C. parapsilosis やC. krusei といった菌種で反応が乏しいことが知られている.
- いずれも,感度・陰性尤度比が低いことから,カンジダ抗原検査が陰性であっても侵襲性カンジダ症が否定できるわけではないことを念頭に置かなければならない.逆に,検査前確率が高い症例でカンジダ抗原陽性であれば,侵襲性カンジダ症と確定診断してよいだろう.
- 侵襲性アスペルギルス症
- [診断](表4)
- ①確定診断には,病理学的に組織浸潤が証明された組織からの培養や,無菌検体の培養陽性などが必要だが,感度が低く,事前確率が高い場合,培養陰性であっても治療をためらうべきではない.
- ②また,侵襲性アスペルギルス症の高リスク患者は,確定診断に必要な検査の合併症のリスクも高く〔例:造血幹細胞移植患者は血小板も低く,経気管支肺生検(TBLB)に伴う出血リスクも高い〕,検査が困難であることもしばしばである.
- ③高リスク群の喀痰培養からAspergillus が検出された場合は,侵襲性肺アスペルギルス症の可能性が高く,治療適応とするのが妥当とされる.
- ④アスペルギルスは,病原体が小動脈へ浸潤し,血管閉塞に伴う梗塞を伴うことから,肺末梢の胸膜直下に結節影または腫瘤影を認める.その周囲にはスリガラス影を伴うことがあり,出血性梗塞を反映している.これがhalo sign である.侵襲性肺アスペルギルス症に特徴的な所見とされ,この段階で治療を開始すると抗真菌薬に良好な反応性を示すとの報告がある.疑い例では積極的なCT の撮影が必要である.
- ⑤ガラクトマンナン抗原は,カットオフ値1.0 EU では感度が50%前後と低いが,特異度は95%前後と高い.カットオフ値を0.5 EU とすれば,感度は80%前後となる.侵襲性アスペルギルス症の重症度からは,より感度を重視した基準が用いられることが多く,昨今は0.5 EU が一般的である.ガラクトマンナン抗原に関する多くの研究は,好中球減少を伴う血液疾患患者が対象であり,固形腫瘍移植患者では,感度が低いことが知られている.
- ⑥ガラクトマンナン抗原は,特定の抗菌薬使用(ピペラシリン/タゾバクタム,アンピシリン/スルバクタム)や,ガンマグロブリンなどの血液製剤などで偽陽性が生じる可能性を指摘されているので注意が必要である.
- ⑦前述のとおり,侵襲性アスペルギルス症の確定診断は困難であり,EORTC/MSG は「EORTC/MSG criteria 2008年度改訂版」のようなcriteriaを発表している.宿主因子,臨床的基準,菌学的基準の3 つをそれぞれ評価し,それぞれをひとつずつ以上満たす場合を「臨床診断例(probable)」,宿主因子と臨床的基準をひとつ以上満たすが,菌学的基準がないものを「可能性例(possible)」とする.臨床研究の質を確保するために作成されたもので,治療開始の基準とはならないが,参考にされたい.
- クリプトコッカス症
- [診断](表6)
- ①おもな感染者は免疫不全者であり,AIDS が最多である.続いて,ステロイド長期使用者,臓器移植患者,悪性腫瘍患者,サルコイドーシス患者と続く.健常人にも発症しうる.
- ②臨床症状はさまざまである.診断まで数カ月かかるほど緩徐なものもあれば,数日で発症する急性なものもある.発熱は50%程度で認める.典型的には,頭痛,嘔気,嘔吐,不穏,無気力,性格変化,記憶障害などが2~4 週の経過で出現する.
- ③髄膜刺激徴候は75%で認めないという報告もある(HIV 感染者).
- ④真菌血症の合併や,播種性病変を有することも多い(脳,皮膚,肺).
- ⑤腰椎穿刺が確定診断には必要である.上述のとおり症状が乏しいため,高リスク患者で少しでもクリプトコッカス脳髄膜炎を疑った場合には,積極的な腰椎穿刺を行う.
- ⑥初圧は高くなることが多く,HIV 感染者の場合,半数以上で2 cmH2O 以上,約3 割で30 cmH2O 以上と報告される.非HIV 感染者の場合,その割合は少なくなるようだ1).
- ⑦髄液では,髄液一般検査に加え,クリプトコッカス抗原,墨汁染色,培養を提出する.
- ⑧髄液中の細胞数は非HIV患者では比較的多く(20~200cell/mm3),単球優位となる.糖の低下と,蛋白の上昇もしばしば認めるが,正常例もある.
- ⑨墨汁染色は非HIV患者では50%程度が陽性となる.
- ⑩髄液中のクリプトコッカス抗原は,早期に結果が得られる.感度は93~100%,特異度は93~98%とされ,非常に有用な検査である.
- ⑪血中のクリプトコッカス抗原は非HIV 患者では感度が下がるため,陰性であるからといってクリプトコッカス脳髄膜炎の否定にはならない.
- ⑫血液培養や,播種病(皮膚など)への生検・培養も怠らない.
- ⑬巣症状や意識障害,乳頭浮腫などがある場合,腰椎穿刺に先行して頭部CT(またはMRI)を撮影することが推奨される.
- ⑭しばしば画像は正常であるが,ときに水頭症やcryptococcoma とよばれる腫瘍性病変を認める.
- ムコール症
- ①接合菌症とも呼ばれる.Zygomycetes 網のMucor属,Rhizopus 属などによる感染症の総称である.
- ②広く土中に存在し,健常者に感染症を起こすことはない.遷延する好中球減少症,細胞性免疫低下など,侵襲性アスペルギルス症の高リスク群と患者背景はおよそ一致する.
- ③上記背景に加え,糖尿病がリスクとなる.
- ④鉄キレート剤であるデフェロキサミン(デスフェラール®)もリスクとなる.
- ⑤侵入門戸は呼吸器系が多く,血管侵襲性による壊死を起こす.肺や副鼻腔,頭蓋内などに浸潤する.
- ⑥糖尿病性ケトアシドーシス患者で遷延する意識障害,顔面痛や頭痛,視力障害や複視(病変の眼窩への進展を示唆する)などを認める場合には疑
- ⑦糖尿病患者では,鼻腔や脳が障害されることが多く,好中球減少症では,それらに加えて肺病変が多い.その場合,侵襲性アスペルギルス症との鑑別がときに困難となる.
- ⑧β-D-グルカンは上昇しにくい.組織診断が重要であり積極的な検体採取を心がける.
- ⑨予後は不良であり,基礎疾患の治療(血糖コントロールなど),免疫状態の改善が必要である.
- ⑩大量のL-AMB(5~10 mg/kg/日)などが用いられるが,抗真菌約治療のみでは治療困難なことが多く,早期の外科的切除も考慮する.VRCZ は無効である.
- ⑪治療期間は少なくとも6 週以上は必要だろう.
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表4 侵襲性アスペルギルス症のチェックリスト
□おもにリスクとなるのは,血液悪性腫瘍患者に対する化学療法,造血幹細胞移植,臓器
移植などの比較的高度な免疫抑制患者である.
□標的臓器の大部分は肺であり,症状は,発熱のほか,胸痛や呼吸困難,咳嗽,血痰など
を認めることがある.
□しかし,好中球減少患者(≒侵襲性アスペルギルス症の高リスク群!)では,呼吸器症状
は全く呈さず,発熱のみが症状となることがしばしばである.
□アスペルギルスは広く自然界に存在するため,喀痰培養陽性は必ずしも感染を示唆しない
□確定診断には,感染組織の培養〔例:TBLB(transbronchial lung biopsy)による肺生検〕
や無菌検体からの検出(例:髄液培養陽性)だが,実際には侵襲を伴うため難しいことが多い.
□患者リスク,臨床症状,画像検査,血清学的検査などから総合的に診断することがしばしば
である.
□胸部のHR(high-resolution)-CTでの,「結節影の周囲をスリガラス影が取り囲むhalo sign」
や「三日月形透亮像であるair-crescent sign」などは特徴的である.
□ガラクトマンナン抗原はカットオフ値0.5で感度特異度ともに80%前後である.したがって,
この検査だけでの診断はできない.
□β-D-グルカンについては別項を参照されたい.
□治療の第一選択はVRCZとされる.肝機能障害が問題となることが多く,また腎機能障害患者
では静注薬は使用しにくい.
□代替え薬はL-AMBである.電解質異常や腎機能障害に注意する.
□重症例では,上記にエキノキャンディン系を併用することも検討する.
□表1(臨床医マニュアル第5版 参照)に抗真菌薬の投与量を示す.
□VRCZはTDMが推奨され,target troughは2~5.5mcg/mLである.
□治療期間は,最低でも6~12週間が推奨されるが,感染臓器や患者の免疫抑制状態,治療
への反応によっては数カ月からときには数年の治療を要することもある. -
表6 クリプトコッカス症のチェックリスト
□もっとも遭遇するのはHIV感染者で,米国ではHIV感染者の5~8%程度にみられる.
□細胞性免疫が低下するステロイド治療,免疫抑制治療,リンパ系悪性疾患,骨髄移植後,
臓器移植後などもリスクとなる.健常者にも発症しうる.
□髄膜炎がもっとも重要であるが,肺クリプトコッカス症もしばしば遭遇する.本項では,非HIV
患者のクリプトコッカス脳髄膜炎を中心に述べる.
□臨床症状はさまざまである.数カ月の経過のものもあれば数日で症状が完成することもあり,
発熱も半数程度しか認めない.典型的には頭痛や無気力などを認める.
□髄液検査は必須で,初圧の測定が重要である(比較的高い).
□髄液中のクリプトコッカス抗原は感度特異度ともに高く,培養結果よりも早期に結果がわか
るため有用である.
□cryptococcomaと呼ばれる脳浸潤病変を認めることもある.巣症状を伴う場合は髄液検査
前に頭部の画像検査が必要である.
□治療は「導入療法(induction therapy)」「地固め療法(consolidation therapy)」「維持療法
(maintenance therapy)」の3つのphaseからなる.
□導入療法として,L-AMB 3~4mg/kg/日と5-FC100mg/日を少なくとも2~4週行う.
□髄液中にクリプトコッカスが認められなくなったら,地固め療法として,FLCZ400~800mg/日
を8週間投与する.
□経過が良好であれば,その後維持療法としてFLCZ200~400mg/日を6~12カ月投与する.
□脳脊髄圧が亢進している場合,腰椎穿刺によるドレナージを繰り返し20cmH2Oまで減圧する.
□肺クリプトコッカス症は健常人にも発症することがあり,症状は非典型的で画像から診断され
ることも多い.
□肺クリプトコッカス症と診断された場合,髄液検査によってクリプトコッカス脳髄膜炎がないこ
とを確認する.
□肺クリプトコッカス髄膜炎は,FLCZ400mg/日による6~12カ月の治療が標準的である.