急性膵炎
acute pancreatitis
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「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。
「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
- 人口10万人あたり年間27人の発生数であり,男女比はおおむね2:1である.アルコール性,ついで胆石性によるものが多い.
- 死亡率は全体で3%だが,最重症例では30%に達する.
- 膵炎を疑った場合は早急に血液検査,腹部造影CTを施行して診断と重症度判定を行う.
- 全例入院とし,尿量を確認しながら大量輸液を行う(心負荷に留意すること).
- 呼吸不全,腎不全を併発した場合は,人工呼吸器管理,CHDFを導入する.
- 後期合併症を予防する目的で,早期の経腸栄養を考慮する.
- 特殊治療(膵酵素阻害剤の動注,腎不全でない段階でのCHDF)の適応は,いまだ議論の多いところである.
診断
- ①上腹部痛の患者では急性膵炎の可能性を考え,血液検査およびCT を第一選択とする画像検査を行う.
- ②膵炎の診断がつけば,速やかに成因診断と重症度判定を行う.
血液検査と造影CT をすぐに施行できる環境で診療している医師にとっては,急性膵炎の診断自体はさほど困難なものではないが,発症早期に来院したためあまり腹痛が前景に立たない症例も存在し,このような症例では診断が遅れる可能性や「急性胃腸炎」として帰宅させてしまう可能性すらある.やはり少しでもおかしいと思ったら,血液検査を施行するべきであろう.血液検査では,上腹部痛をきたす他の疾患も鑑別する必要があり,アミラーゼに加えて,CBC,肝酵素,BUN,Cr,心筋逸脱酵素も測定する.リパーゼがすぐに測定できる施設ではリパーゼも測定する.アミラーゼやリパーゼの上昇は膵炎を疑う強い根拠にはなるが,消化管穿孔などでも上昇することもあるので,これのみをもって膵炎と即断することは危険である.
急性膵炎の画像検査としては超音波とCT があり,ガイドライン上はいずれも推奨されているが,腹部超音波はガスなどの影響を受けると描出困難になることや尾部の評価ができない場合が多いこと,血流不良域の検出ができないなどの欠点を有する.その点,CT検査は客観的であって膵炎の診断自体に非常に有用であるばかりか,膵腫大の程度,膵の造影不良域の存在や膵周囲への炎症の波及の程度といった重症度判定に必要な情報も得られる.造影CT は腎機能やアレルギーの問題がないなら,まず選択するべき画像検査である.しかし,来院時からCr が上昇している症例では,造影剤を使用するべきかどうか十分に検討しなくてはならない.膵炎であるかどうかのみの診断であれば,単純CT だけでも可能なことが多く,輸液負荷をかけて尿量を維持しなければならない病態で腎機能がいったん悪いほうへ行くと,ドミノ倒しのごとく重症化してしまう.CHDF(continuous hemodiafiltration)などの適応を判断するために造影不良域がどの程度あるか把握することの大切さを主張する意見もあるが,不安定な腎機能を代償に得なければならないほどの情報ではない(他の臨床指標が,CHDF の適応を示唆するであろう).
いったん急性膵炎と診断したら,速やかに重症度判定(急性膵炎診療ガイドライン 2015, 金原出版, 2015 参照)と成因診断を行う.成因診断のうち,治療方針に関わるものとして胆石性膵炎がある.黄疸を伴う肝機能異常や,CT で胆管拡張がある場合は胆石性膵炎を疑う.CT で乳頭近傍に結石が確認できれば,確実に胆石性である.胆石性膵炎では緊急ERCP(endoscopic retrograde cholangiopancreatography)の適応を考慮するが,軽症では保存的治療のみで改善する可能性もあり,実際にERCP を施行するかの判断は消化器内科医専門医が担うべきである.重症度判定に必要な項目は「急性膵炎診療ガイドライン 2015, 金原出版, 2015」のとおりであるが,ここでも発症早期に来院した症例では,重症度を低く判定してしまう可能性があることを強調しておく.