シクロスポリン
シクロスポリン
略称 | CYA |
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臨床的意義
- 腎移植,骨髄移植,心移植,肺移植,膵移植の場合は,通常,移植1日前からCYA注射液として1日量3~5mg/kgを投与する.内服可能となった後はできるだけ速やかに経口投与に切り換える.
- 肝移植の場合は,通常,移植1日前からCYA注射液として1日量4~6mg/kgを投与する.内服可能となった後はできるだけ速やかに経口投与に切り換える.
- 経口投与されたCYAは,主に小腸で吸収されるが,その吸収率は患者間で大きなばらつきが認められる.この吸収のばらつきを改善した製剤として,従来の製剤(サンディミュン®)に加えてマイクロエマルジョン製剤(ネオーラル®)が使用されるようになった.しかし,サンディミュン®はネオーラル®と生物学的に同等ではなく,ネオーラル®はバイオアベイラビリティが向上しているので,サンディミュン®からネオーラル®に切り換える際には,CYAの血中濃度(AUC,Cmax)の上昇による副作用の発現に注意する.特に,高用量での切り換え時には,サンディミュン®の投与量を上回らないようにする.
- 一方,ネオーラル®から本剤への切り換えについては,CYAの血中濃度が低下することがあるので,原則として切り換えは行わない.特に移植患者では,用量不足によって拒絶反応が発現するおそれがある.
- 臓器移植において,3剤あるいは4剤の免疫抑制剤を組み合わせた多剤免疫抑制療法を行う場合には,CYA注射液の初期投与量を低く設定することが可能な場合もあるが,移植患者の状態および併用される他の免疫抑制剤の種類や投与量などを考慮して投与量を調節する.
- 臓器移植患者に投与する際には,過量投与による副作用の発現および低用量投与による拒絶反応の発現などを防ぐため,血中濃度の測定を移植直後は頻回に行い,その後は1ヵ月に1回を目安に測定し,投与量を調節する.
- Behçet病,乾癬,再生不良性貧血,ネフローゼ症候群患者に投与する際には,副作用の発現を防ぐため,1ヵ月に1回を目安に血中濃度を測定し,投与量を調節する.
- ショック,腎障害,肝障害,中枢神経系障害,感染症,急性膵炎,血栓性微小血管障害,溶血性貧血,血小板減少,横紋筋融解症,悪性リンパ腫,リンパ増殖性疾患,悪性腫瘍(特に皮膚),神経Behçet病症状[内服]
[注射]腎移植,肝移植,心移植,肺移植,膵移植における拒絶反応の抑制,骨髄移植における拒絶反応および移植片対宿主病の抑制
[内服]上記以外にBehçet病(眼症状のある場合),尋常性乾癬(皮疹が全身の30%以上に及ぶものあるいは難治性の場合),膿疱性乾癬,乾癬性紅皮症,関節症性乾癬,再生不良性貧血(重症),赤芽球癆,ネフローゼ症候群(頻回再発型あるいはステロイドに抵抗性を示す場合)
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基準値・異常値
- 基準範囲
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有効血中濃度域
- 一般的にCYAの有効血中濃度域は,50~200ng/ml(FPIA)とされるが,移植や他の免疫抑制剤の併用の有無により異なる.また,測定法によっても異なり,RIAでは100~400ng/ml,HPLCでは100~450ng/mlとされる.
- CYAは製剤によっても有効血中濃度域が異なり,ネオーラル®を投与した場合,その治療域は0.8~2.0μg/mlとされる.
- CYAの中毒域は300ng/ml 変動要因
- 適応症
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[注射]腎移植、 Behçet病、 ネフローゼ症候群、 乾癬性紅皮症、 肝移植、 関節症性乾癬、 再生不良性貧血(重症)、 心移植、 尋常性乾癬、 赤芽球癆、 膿疱性乾癬、 肺移植、 膵移植における拒絶反応の抑制
- 次に必要な検査
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今後の検査の進め方
- 腎・肝・膵機能障害などの副作用が起こることがあるので,頻回に臨床検査〔血球数,クレアチニン,BUN,ビリルビン,AST(GOT),ALT(GPT),アミラーゼ,尿検査など〕を行うなど,患者の状態を十分に観察する.異常が認められた場合には減量・休薬などの適切な処置を行う.
- 全身痙攣,意識障害,失見当識,錯乱,運動麻痺,小脳性運動失調,視覚障害,視神経乳頭浮腫,不眠などの脳症の徴候を呈することがあるので,このような場合には,CT,MRIによる画像診断を行うとともに,減量または中止するなど適切な処置を行う.
- なお,低マグネシウム血症による神経学的症状の発現が知られているので,特に移植直後は血清マグネシウム値に注意し,マグネシウム低下がみられた場合にはマグネシウムを補給するなど,適切な処置を行う.
- CYA注射液の添加剤であるポリオキシエチレンヒマシ油を含有する医薬品でショックの発現が報告されているので,注意する.また,ポリオキシエチレンヒマシ油を含有する他の製剤で高脂血症がみられたとの報告がある.
- 変動要因
- CYA注射液を過量投与し,悪心・嘔吐,傾眠,頭痛,頻脈,血圧上昇,腎機能低下などの徴候や症状が発現した場合,CYAの血中濃度と症状の程度に相関性がみられるので,血中濃度をモニターし,必要により対症療法を行う.CYAは透析によりほとんど除去されない.
- サンディミュン®を過量投与し,CYA注射液と同様の徴候や症状が発現した場合,服用後短時間であれば催吐,活性炭投与,胃洗浄が有効である.
- CYA注射液は多くの薬剤との相互作用が報告されているが,可能性のあるすべての組み合わせについて検討されているわけではないので,他剤と併用したり,CYA注射液または併用薬を休薬する場合には注意する.特に,CYAは主に代謝酵素チトクロムP4503A(CYP3A)系で代謝されるので,CYP3Aの活性に影響する医薬品・食品と併用する場合には,可能な限り血中薬物濃度を測定するなど用量に留意して慎重に投与する.
- CYA注射液との相互作用(併用禁忌)が報告されている医薬品の作用機序と影響は表3-13のとおりである.
( 加藤裕久 )
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