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急性白血病

別名 acute leukemia

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臨床医マニュアル

「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。

「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.


詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。 (リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690

Clinical Chart

●急性白血病
  1. 発症頻度
    本邦の 1 年間に診断された新規白血病患者は 11,156 人(2008 年)で,粗罹患率(人口10 万に対し)は,5.4 人(男性 6.5 人,女性 4.3 人)で,約 5 割を急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML),2~3 割を急性リンパ芽球性(acute lymphoblastic leu-kemia:ALL)が占めている.
  2. 病態
    分化・成熟能が障害された造血前駆細胞のクローナルな増殖を特徴とする造血器腫瘍である.骨髄における白血病細胞の無秩序な増殖は,正常な造血機能を著しく障害し,汎血球減少症と白血病細胞の臓器浸潤により多彩な症状を呈する.
  3. 臨床所見
    ①汎血球減少症による所見:貧血(全身倦怠感,動悸,息切れ),好中球減少症(易感染性,発熱),血小板減少症(出血),凝固障害(DIC など)を認める.
    ②白血病細胞の臓器浸潤による所見:肝脾腫,リンパ節腫大,歯肉腫脹,中枢神経系浸潤による頭痛,嘔気,髄膜刺激症状などを認める.
  4. 検査所見
    ①末梢血液所見:好中球数<1,500/μL,ヘモグロビン値<10 g/dL,血小板<5 万/μL (白血球数>10,000/μL,or<3,000/μL or 施設基準値内といずれの場合もありうる).
    ②骨髄所見:芽球>20%
    ③染色体検査所見:正常核型 or 相互転座 or 染色体の欠損
    ④白血病遺伝子所見:各サブタイプに特徴的な遺伝子変異
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診断法・予後予測

1.急性白血病
[診断法]
 急性白血病の診断には,白血病そのものと合併症の診断が必要である.
1 )急性白血病の診断
 以下の4 つの過程が含まれる.
 ①骨髄における白血病細胞浸潤の診断
 ②白血病細胞の起源の診断
 ③FAB/WHO 分類に基づく白血病の診断
 ④ 白血病細胞の細胞遺伝学的・分子遺伝学的サブタイプの診断
①骨髄における白血病細胞浸潤の診断
 骨髄検査(骨髄穿刺あるいは骨髄生検)により骨髄中の白血病細胞(芽球)の浸潤を検出するDry tap などで骨髄液の吸引ができない場合,骨髄生検を行う.ただし,DIC を合併している場合の骨髄生検は推奨できない.
 骨髄検査の部位としては,成人では骨盤骨の上後腸骨稜や上後腸骨棘が選ばれる.骨盤骨への放射線療法などの既往がある場合は,別な場所を選ぶ必要がある.腸骨以外の骨髄穿刺部位として胸骨が選ばれることは多いが,同部の骨髄生検は大血管や心臓損傷のリスクが高く禁忌である.
②白血病細胞の起源の診断
 骨髄塗沫標本で芽球を20%以上認めれば急性白血病と診断する.この芽球割合は,骨髄有核細胞(芽球,前骨髄球,骨髄球,後骨髄球,桿状球,分節球,好酸球,好塩基球,単球,リンパ球,形質細胞,赤芽球,肥満細胞)に占める割合である.AML の1 つである急性赤芽球性白血病の診断では,骨髄有核細胞中赤芽球が50%以上を占めるため,この赤芽球を除いて芽球が20%以上占めることを条件としている.芽球の性状は形態的特徴,細胞化学,細胞表面マーカーを検索し,リンパ系マーカーが陽性ならばALL,ミエロペルオキシダーゼ陽性,顆粒球系・巨核球系マーカーが陽性ならばAML と診断する(後述するがALL では骨髄中の芽球割合25%以上としている).
③新WHO 分類に基づく白血病の診断
 白血病の分類は,従来は形態学的特徴を基本としたFAB 分類(表1)が広く用いられていたが,1999 年にWHOから白血病細胞起源を考慮した新分類が提唱された.以来,改訂が加えられ,現在は2008 年に出された改訂新WHO 分類(以下新WHO 分類と略す)(表2)が用いられる(なお,FAB 分類では芽球割合30%以上を急性白血病としており,骨髄異形成症候群の不応性貧血過剰芽球が新WHO 分類ではAML に含まれる).
④白血病細胞の細胞遺伝学的・分子遺伝学的サブタイプの診断
 白血病においては,細胞遺伝学的検索は染色体分析検査で,分子遺伝学的検索は逆転写ポリメラーゼ鎖反応(reverse transcriptase polymerase chain reaction:RT-PCR)検査や蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(fluorescent in situ hybridization:FISH)検査で施行される.
2 )合併症の診断
 感染症,出血傾向,臓器障害の診断には,以下の検査が含まれる
①生化学検査
 尿酸値,LDH,電解質(K,Na,Cl,Ca,など),肝機能(トランスアミナーゼ,アルカリホスファターゼ,ビリルビンなど),腎機能(UN,血清クレアチニン,eGFR),血糖値,CRP などを検索する.
②凝固系検査
 PT,APTT,ATⅢ,fibrinogen,FDP/D ダイマーなどを検索し凝固線溶系の異常の有無,特にDIC 合併の有無を検索する.
③画像検査
 肺感染症など発熱をきたす合併症の原因を検索する.
④心電図検査
 心疾患の有無を検索する.必要に応じて心エコー検査を行うこともある.
⑤その他
 B 型肝炎ウイルスやC 型肝炎ウイルスの検索は,既感染の有無の検索に必要である.


2.急性骨髄性白血病(AML)

[予後予測]
 AML の治療の予後予測は,患者側因子と白血病側因子に分けて評価される.AML 治療では,抗白血病薬(抗がん薬)の多剤併用化学療法が主体となるため,患者が化学療法による臓器毒性や合併症に耐えうるかどうかを,年齢,臓器機能,全身状態(performance status:PS)などより適切に判断する必要がある.
 患者側の因子として,年齢は最も重要な予後因子であり,高齢者は若年者に比べて予後は不良である.5 年全生存(overall survival:OS)割合は,55 歳未満:50%~40%,55~64 歳:20%,65~69歳:15%,70 歳以上は10%を大きく下回る.本邦も65 歳を境に同様の傾向を示している.
 白血病側の因子としては,AML 細胞のクローナルな特徴が最も重要であり,欧州のELN(European LeukemiaNet)は,診断時のAML 細胞の染色体異常と遺伝子異常により予後良好(Favorable:Fav)群,中間(Intermediate:Int)群,不良(Adverse:Adv)群の3 つのリスクに分類を提唱している.この分類の根拠の1 つとなった米国CALGB(Cancer Leukemia Study Group B)の解析では,CR 割合/5 年OS 割合の値が,Fav 群は88%/55%(APL が含まれている),Int 群は67%/24%,Adv 群は32%/5%と3 群間に有意差があった.本邦でも同様の染色体異常と予後の関連性は認められる.これら患者側と白血病側の予後因子(表3-1,薄井紀子:内科学雑誌102:1687-1695,2013 参照)を評価し,適切な治療法を選択する治療の層別化が行われる.


3.急性前骨髄球性白血病(APL)

[予後予測]
 APL は,もともとAML の中ではFav 群に分類されるが,APL の予後予測には,診断時の白血球数血小板数を用いたリスク分類が用いられる.初診時の白血球≦1 万/μL を低リスク,白血球>1 万/μL を高リスクとする2 群分類や,白血球数≦1 万/μL で血小板≧4 万/μL を低リスク,血球数≦1 万/μL で血小板<4万/μL を中リスク,血小板にかかわらず白血球>1 万/μL を高リスクとする3 群分類が用いられる.


4.急性リンパ芽球性白血病(ALL)

[予後予測]
 ALL の予後因子には,年齢,初診時白血球数,染色体異常(細胞遺伝学的・分子遺伝学的異常),免疫形質,初回治療への反応性があげられる.
1 )年齢
 ALL は小児に多く,成人に比べて治療成績も良好である.成人ALL では,国内外の臨床研究より,年齢が50~55 歳を超えると明らかに生存率は低下し,治療プロトコールにもよるが,年齢30~35 歳以上は予後不良となる.
2 )初診時白血球(WBC)数
 初診時WBC 数は腫瘍量の反映であり,治療プロトコールにより多少の違いはあるが,概してB-ALL では30,000/μL 以上,T-ALL では100,000/μL 以上は予後不良因子となる.
3 )染色体異常(細胞遺伝学的・分子遺伝学的異常)
 染色体異常も重要な予後因子である.Ph+ALL は,9 番-22 番相互転座t(9;22)(BCR-ABL1 融合遺伝子が形成される),4 番-11 番転座t(4;11)あるいは11q23 に存在するMLL 遺伝子の再構成を有するALLは予後不良である.Ph+ALLはチロシンキナーゼ阻害薬の導入で予後の改善が見込まれる.その他,-7,低倍数体染色体異常(染色体数<45 本)等は予後不良とされ,無病生存率は2 割を下回る.
4 )ALL 細胞の免疫形質(immunophenotype)
 B-ALL では,CD10-のPro-B サブタイプ,細胞質にμ重鎖を発現するPre-B サブタイプ,CD20 抗原を発現する成熟B 細胞サブタイプは,予後不良とされる.T-ALL では,CD1a+の皮質/胸腺phenotype にくらべてCD1a-,CD3-/CD3+のPro-,Pre-T-ALLの予後は不良である.
5 )初回治療への反応性
 初回治療としての化学療法に感受性があるほうが白血病細胞の除去が効果的に行われることは論を待たない.第1 コースの併用化学療法でCR に導入されること,あるいは,プレドニゾロン治療後7 日までに末梢血,あるいは14 日目までに骨髄中のALL 細胞の消失が得られることは, 予後良好の因子となる.さらに,CR 時に分子レベルでALL 細胞のMRD の排除ができていれば,良好な長期予後が期待できる.MRD の検出には,ALL 細胞に特徴的な遺伝子マーカーが発現していることが必要となる.
6 )予後不良因子とリスク分類
 上述の1)~5)の予後因子を初診時にいくつ有するかにより,標準リスクstandard risk(SR)群,高リスクhigh risk(HR)群,超高リスクvery high risk(VHR)群に分類可能であり(表5),リスクが高くなるにつれて治療予後は不良となり,治療法の改良が必要となる.
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表1 急性白血病のFAB 分類
表はPC版サイトをご覧ください
MPO(myeloperoxidase):ミエロペルオキシダーゼ,PPO(platelet peroxidase):血小板ペルオキシダーゼ
表2-1 ALLの新WHO分類(2008年改訂)
表はPC版サイトをご覧ください
表2-2 ALLの新WHO分類(2008年改訂)
表はPC版サイトをご覧ください
表3-1 急性骨髄性白血病の予後因子
表はPC版サイトをご覧ください
PS:performance status,MDS:myelodysplastic syndrome(骨髄異形成症候群),MPD:myeloproliferative disorder(骨髄増殖性疾患),FLT3:fms-related like tyrosineekinase 3
表5 成人ALL 治療における予後不良因子とリスク分類
表はPC版サイトをご覧ください
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