感染性腸炎
infectious gastroenteritis
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「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。
「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
検査
- ①便グラム染色
便には多数の腸内常在菌が存在するため,便グラム染色で病原体を特定することは困難であり,有用性は低い.ただし唯一診断的価値がある場合があり,それは特徴的な形をしたカンピロバクターのときである(特異度99%とされる).つまり便グラム染色は,感染性腸炎の全例に行うのではなく,問診上,カンピロバクター腸炎の疑いが強い(検査前確率が高い)場合に行うことが現実的である.カンピロバクターはgull wing(カモメの翼)と形容されるグラム陰性らせん桿菌で,小型で染色も薄い(図1).疑いの目で見ないと見逃すことがあり,ある程度の熟練を要する.またグラム染色では,大腸型を示唆する便中白血球を確認することも可能である.
- ②便培養
便培養は特殊な培養方法を多用し,手間やコストがかかるのに対し,急性の下痢症状に対する便培養の陽性率は1~5%であり,また培養結果が得られる頃にはほとんどの患者は改善しているため,感染性腸炎の全例に行うべきではない.問診により細菌性腸炎が強く疑われる場合にかぎり提出する.また入院患者の下痢は抗菌薬関連下痢,Clostridium difficile 感染,薬剤性腸炎などの可能性が高く,入院患者に行う意義はさらに低い.一方,集団食中毒や食品関連の職業などの公衆衛生に対する意義がある場合は,積極的に便培養を活用する.また特別な事情でC. difficileの培養を行いたい場合は,便の嫌気培養が必要である.その場合は便検体を採取したら,すぐにケンキポーターという特殊なスピッツに入れて提出し,検査室に嫌気培養を追加依頼する必要がある.
- ③便の迅速検査
- ①ノロウイルス抗原キット:2012 年4 月より保険適用となった.ただし適用は,ⅰ 3 歳未満,ⅱ 65歳以上,ⅲ 担癌患者,ⅳ 免疫抑制薬の使用者や臓器移植後の患者にかぎられる.また感度70~80%,特異度97%とされており,感度がやや低い点に注意が必要である.たまに食品関連の仕事に従事する患者が,検査希望で来院することがあるが,この場合,偽陰性があることを理解してもらったうえで施行する.保険点数は判断料込みで294 点である.
- ② ベロ毒素:腸管出血性大腸菌(EHEC)が産生する毒素を調べる.感度80%,特異度95%以上とされるが,便の量が少ないと感度が低下することがある.
- ③大腸菌O157 抗原:上記ベロ毒素と似るが,EHEC のO157 抗原を検出する.感度,特異度についてははっきりわかっていない.
- ④C. difficile 毒素および抗原:CD トキシンA とBの2 種類の毒素と,グルタミン酸脱水素酵素(GDH)の抗原を同時に検出する.便の量が少ないと感度が低下するため,十分量の便(拇指頭大)を提出する.CD トキシンA/B については感度60~80%,特異度95%以上というデータがある.GDH 抗原に関しては,感度は優れるが,毒素産生株と非産生株を区別なく検出するため,病原性がない毒素非産生株による偽陽性がある.確定診断(rule in)にはCD トキシンA/B の陽性で行い,GDH は参考程度とする方がよい.加えて,両者が陰性の場合でも,C. difficile 感染を否定しない方がよい.また治療後も保菌していることがあるため,治癒の確認試験としてこの検査を使用すべきではない.
- ⑤ ロタウイルス抗原:ロタウイルスのなかでもA 群のみを検出する.感度・特異度は90%台で比較的高いという報告がある.各論のロタウイルスの項で説明するが,乳児における感染症のため,特別な事情を除けば成人での検査は不要である.
- ①ノロウイルス抗原キット:2012 年4 月より保険適用となった.ただし適用は,ⅰ 3 歳未満,ⅱ 65歳以上,ⅲ 担癌患者,ⅳ 免疫抑制薬の使用者や臓器移植後の患者にかぎられる.また感度70~80%,特異度97%とされており,感度がやや低い点に注意が必要である.たまに食品関連の仕事に従事する患者が,検査希望で来院することがあるが,この場合,偽陰性があることを理解してもらったうえで施行する.保険点数は判断料込みで294 点である.
- ④大腸内視鏡検査
腸炎の極期には侵襲性が強い検査であり,よほどの事情がない場合,感染性腸炎には不要である.ただし腸結核,C. difficile 感染(偽膜性腸炎),アメーバ性腸炎の診断には有効なことがある.また感染性腸炎との鑑別が必要となる炎症性腸疾患,虚血性大腸炎,大腸癌の診断が可能である.
- ⑤便の直接検鏡
ランブル鞭毛虫,赤痢アメーバといった原虫は直接検鏡によって診断が可能である.1 週間以上続く下痢(ランブル鞭毛虫)や肛門性交の習慣(赤痢アメーバ)がある患者で考慮する.赤痢アメーバの栄養型は死滅しやすいため,新鮮便(排便後15 分以内)で行う必要がある.
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図1 カンピロバクター(Campylobacter jejuni) (矢頭)