炎症性腸疾患
IBD
inflammatory bowel disease
疾患スピード検索で表示している情報は、以下の書籍に基づきます。
「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。
「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
詳細な情報は「臨床医マニュアル第5版」でご確認ください。
(リンク先:http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731690)
Clinical Chart
- 炎症性腸疾患(IBD)とは腫瘍性腸疾患と対比した名称で広義にはさまざまな疾患を含むが,狭義には特発性(idiopathic)炎症性腸疾患を指す.特発性炎症性腸疾患には潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)とクローン病(Crohn disease:CD)が含まれる.ここではUCとCDに限定して記す.なお過敏性腸症候群は英語でirritable bowel syndrome(IBS)という.IBDとIBSは名称が紛らわしいが,まったく別の疾患である.
- UCもCDも国の指定する特定疾患,いわゆる難病に含まれている.診断が確定すれば,主治医は速やかに特定疾患の申請をする.患者の医療費負担が大幅に軽減される.
- 2009年のUCの有病率は10万人当たり84人,CDの有病率は10万人当たり26人である.欧米の1/2~1/4と少ないが,1970年代以降の食生活の欧米化により急激に増加し,患者総数は2013年現在UCが14万人,CDが4万人である.UCもCDも毎年10%増えており一般臨床医が遭遇する機会は増えている.
- 好発年齢はいずれも10~30歳代であるが,全年齢に発生しうる.男女比はUCが1:1,CDが2:1である.
- 腹痛,発熱,下痢,血便といった腹部症状が1週間以上続く場合はIBDを疑う.細菌性腸炎との鑑別が重要で,生もの摂取についての問診は必須である.確定診断には大腸内視鏡検査がもっとも有用である.下痢,血便が重症の場合でも,できるだけ前処置を通常どおりしてから検査を行う.どうしても全身状態が悪く前処置ができない場合は,浣腸のみで検査を行ってもある程度の情報は得られる.
- 診察は腹部触診のみならず直腸診,できれば肛門鏡による直腸粘膜の観察を行う.UCでは直腸の潰瘍,びらん,粘血が観察される.CDではいわゆるCrohnの肛門(浮腫状皮垂,難治性複雑痔瘻,下掘れ裂肛)が50~80%でみられる.便培養も忘れずに行う.
- 治療として生活療法,5アミノサリチル酸(5-ASA),TNFα抗体,ステロイド,アザチオプリン,白血球除去療法は両者に共通する.UCに特異的治療としてタクロリムス,シクロスポリン,CDに特異的治療として経腸栄養療法,ED療法,食事療法,メトロニダゾールがある.内科治療が限界となった場合(穿孔,中毒性巨大結腸,大出血,瘻孔,難治,癌化)は躊躇せず手術を行う.手術をすれば助かる患者を,手術時期を逸したために死なせるようなことがあってはならない.
- 両者の鑑別を表1~4に示す
-
表1 UC とCD の鑑別:病態
潰瘍性大腸炎(UC) Crohn 病(CD) 炎症の主座 粘膜固有層と粘膜下層 全層性 病変の分布 大腸のみ 回盲部に好発するが全消化管に発生 病変の進展 全周性かつ連続性で直腸より口側に広がる 区域性で小腸型,小腸大腸型,大腸型あり 潰瘍形態 点状,網状,不整形,地図状,下掘れ 不整形,縦走 潰瘍分布 びまん性 腸管膜付着側や結腸紐に沿って生じる -
表2 UC とCD の鑑別:症状
潰瘍性大腸炎(UC) Crohn 病(CD) 腸管症状 便性状 粘血便(ジャム様ないし泥状便) 軟便,水様便,便鮮血陽性 腹痛 下腹部痛:少ない(排便前に悪化) 臍周囲痛:多い(排便と無関係) 肛門病変 少ない(時に痔核) 多い(浮腫状皮垂,複雑痔瘻,下掘れ裂肛) 腸管外症状/合併症を含む 発熱 少ない 多い 食欲低下 軽度~中程度 中程度~高度 体重減少 68%に認める 87%に認める 関節炎 少ない 多い 皮膚疾患 結節性紅斑:多い
多形滲出性紅斑
壊疽性膿皮症結節性紅斑:少ない
多形滲出性紅斑眼疾患 虹彩炎,結膜炎 虹彩炎 肝疾患 原発性硬化性胆管炎 肝膿瘍 -
表3 UC とCD の鑑別:内視鏡
潰瘍性大腸炎(UC) Crohn 病(CD) 活動期 病変の広がり 直腸からびまん性・連続性病変 区域性あるいは非連続性病変(skip lesion) 粘膜面 発赤した粗糙~顆粒状の粘膜 直腸は正常のことが多いが時にアフタや発赤あり びらんや炎症性滲出物の付着 内腔の狭小化や深い潰瘍 血管透見像 消失 潰瘍周辺粘膜でみられる 出血 易出血性 なし 潰瘍 点状,網状,地図状潰瘍 縦走潰瘍 粘膜の隆起変化 炎症性ポリープ 潰瘍周辺のひだの断端は浮腫状に盛り上がり敷石像 寛解期 周縁の変化 半月ひだの消失 ひだ集中を伴った潰瘍の瘢痕 粘膜面 血管透見は回復するが毛細血管が蛇行,増生 片側性の変形
区域性病変ポリープ 炎症性ポリープの散在,まれに粘膜橋 炎症性ポリープの集蔟 -
表4 UC とCD の鑑別:病理
潰瘍性大腸炎(UC) Crohn 病(CD) 部位 直腸に始まり近位部に連続的に広がる 大腸のみ 小・大腸に限局性区域性に生じる
小腸型50%,小腸大腸型30%,大腸型10%病変 浅く主として粘膜,粘膜下層 深く腸管壁全層性 潰瘍形成 粘膜下層中心の潰瘍 粘膜下層固有筋層に至る限局性潰瘍 裂溝 なし あり 病変の特徴 陰窩膿瘍,陰窩炎から始まる浅い潰瘍であり,リンパ球と形質細胞の強い浸潤
杯細胞の著減非乾酪性類上皮細胞肉芽腫であるが,全体は非特異的炎症細胞浸潤とその周囲の強い線維化
粘膜下層~奬膜のリンパ管拡張
検査
①血液
白血球高値,CRP 高値,赤沈亢進といった炎症反応亢進がみられる.慢性炎症を反映して血小板はしばしば40 万/μL 以上に増加する.栄養の喪失による貧血,低蛋白血症,低脂血症がみられる.便は粘血便を含めて顕血便のことが多い.
②腹部Xp,CT,超音波
中毒性巨大結腸の有無を調べる.中毒性巨大結腸では横行結腸が直径6 cm 以上に拡張する.穿孔,敗血症が危惧され緊急手術の適応である.腹部超音波検査,腹部CT 検査では大腸の壁肥厚がみられ,病変範囲,重症度を推定できる.腹部CT でS 状結腸,直腸の壁肥厚,腸間膜のけばだち像,腸間膜脂肪織の濃度上昇はUC を疑う根拠となる.
③大腸内視鏡(colonoscopy)
UC の検査でもっとも重要なものである.活動期は軽度(mild),中等度(moderate),強度〔高度(severe)〕の3 つに分けられる.潰瘍の大きさ,深さが重要である.
軽度ではびまん性・全周性に,血管透見消失,粗糙,顆粒,発赤,アフタ,小黄色点・点状潰瘍を認める.初期の潰瘍はリンパ濾胞に一致する白色から黄色の点状潰瘍で本症に特徴的である.
中等度ではびまん性・全周性に,粗糙,びらん,網状潰瘍,不整形潰瘍,易出血性(接触出血),粘血膿性分泌物付着を認める.
強度(高度)ではびまん性・全周性に,地図状潰瘍,全周性潰瘍,深掘れ潰瘍,著明な自然出血を認める.潰瘍が互いに癒合して地図状潰瘍,全周性潰瘍となる.残存粘膜が島状〔偽ポリポーシス(pseudopolyposis)〕に見える潰瘍の海を形成する.重症化,難治化すると潰瘍は深掘れとなる.サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)の活性化も疑われ,生検(核内封入体の有無)が必須である.穿孔は大腸内視鏡検査の禁忌であるが,中毒性巨大結腸は必ずしも禁忌ではない.診断をつけるため,やむをえずS 状結腸まで挿入,観察することもある.その際は炎症の増悪を防ぐため,通常の空気による送気ではなく,CO2送気で検査する.
寛解期には潰瘍,出血などの炎症像は消失し,潰瘍は瘢痕化し炎症性ポリープの散在もみられる.粘膜の混濁,ひきつれ,凹凸,変色,毛細血管の新生・増生もみられる.
④注腸Xp,注腸透視(barium enema:BE)(図1)
大腸内視鏡全盛の現代においても注腸X線の意義は失われてはいない.大腸を川の流れにたとえると,大腸内視鏡は魚の目(微視的),注腸Xp は鳥の目(巨視的)といえる.注腸Xp は細かい点は弱いが,全体の形を見るのに適している.バリウムにステロイドを混入すると,検査による病状の悪化を防げる.穿孔,中毒性巨大結腸は注腸Xp の禁忌である.
UCの注腸Xp像は以下のとおりである.①連続性・びまん性・全周性:病変が直腸にはじまり口側の大腸へ連続している(ただし病変が非連続な例もある).②鉛管像〔lead(レッド)pipe〕:ハウストラが消失し狭窄,伸展不良のため,鉛管状となる.③潰瘍:正面像ではバリウムの溜り(fleck),ニッシェ(niche)としてみられる.大腸の辺縁ではスピキュラ(spicula)小棘状,カラーボタン(collar button)状となる.④炎症性ポリポーシス,偽ポリポーシス.
白血球高値,CRP 高値,赤沈亢進といった炎症反応亢進がみられる.慢性炎症を反映して血小板はしばしば40 万/μL 以上に増加する.栄養の喪失による貧血,低蛋白血症,低脂血症がみられる.便は粘血便を含めて顕血便のことが多い.
②腹部Xp,CT,超音波
中毒性巨大結腸の有無を調べる.中毒性巨大結腸では横行結腸が直径6 cm 以上に拡張する.穿孔,敗血症が危惧され緊急手術の適応である.腹部超音波検査,腹部CT 検査では大腸の壁肥厚がみられ,病変範囲,重症度を推定できる.腹部CT でS 状結腸,直腸の壁肥厚,腸間膜のけばだち像,腸間膜脂肪織の濃度上昇はUC を疑う根拠となる.
③大腸内視鏡(colonoscopy)
UC の検査でもっとも重要なものである.活動期は軽度(mild),中等度(moderate),強度〔高度(severe)〕の3 つに分けられる.潰瘍の大きさ,深さが重要である.
軽度ではびまん性・全周性に,血管透見消失,粗糙,顆粒,発赤,アフタ,小黄色点・点状潰瘍を認める.初期の潰瘍はリンパ濾胞に一致する白色から黄色の点状潰瘍で本症に特徴的である.
中等度ではびまん性・全周性に,粗糙,びらん,網状潰瘍,不整形潰瘍,易出血性(接触出血),粘血膿性分泌物付着を認める.
強度(高度)ではびまん性・全周性に,地図状潰瘍,全周性潰瘍,深掘れ潰瘍,著明な自然出血を認める.潰瘍が互いに癒合して地図状潰瘍,全周性潰瘍となる.残存粘膜が島状〔偽ポリポーシス(pseudopolyposis)〕に見える潰瘍の海を形成する.重症化,難治化すると潰瘍は深掘れとなる.サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)の活性化も疑われ,生検(核内封入体の有無)が必須である.穿孔は大腸内視鏡検査の禁忌であるが,中毒性巨大結腸は必ずしも禁忌ではない.診断をつけるため,やむをえずS 状結腸まで挿入,観察することもある.その際は炎症の増悪を防ぐため,通常の空気による送気ではなく,CO2送気で検査する.
寛解期には潰瘍,出血などの炎症像は消失し,潰瘍は瘢痕化し炎症性ポリープの散在もみられる.粘膜の混濁,ひきつれ,凹凸,変色,毛細血管の新生・増生もみられる.
④注腸Xp,注腸透視(barium enema:BE)(図1)
大腸内視鏡全盛の現代においても注腸X線の意義は失われてはいない.大腸を川の流れにたとえると,大腸内視鏡は魚の目(微視的),注腸Xp は鳥の目(巨視的)といえる.注腸Xp は細かい点は弱いが,全体の形を見るのに適している.バリウムにステロイドを混入すると,検査による病状の悪化を防げる.穿孔,中毒性巨大結腸は注腸Xp の禁忌である.
UCの注腸Xp像は以下のとおりである.①連続性・びまん性・全周性:病変が直腸にはじまり口側の大腸へ連続している(ただし病変が非連続な例もある).②鉛管像〔lead(レッド)pipe〕:ハウストラが消失し狭窄,伸展不良のため,鉛管状となる.③潰瘍:正面像ではバリウムの溜り(fleck),ニッシェ(niche)としてみられる.大腸の辺縁ではスピキュラ(spicula)小棘状,カラーボタン(collar button)状となる.④炎症性ポリポーシス,偽ポリポーシス.
-
図1 UC 注腸 Xp