人工呼吸管理
ventilator management
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「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
●人工呼吸管理
●非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)
●人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia:VAP)
- 酸素吸入のみでは呼吸不全の対処が困難な場合に人工呼吸器管理を要する.
- 呼吸器管理のみに目を奪われず,栄養管理,感染コントロール,呼吸器ケアなど全身に目を配る.
- 一定の量を送気する従量式と,決められた気道内圧に達するまで送気する従圧式の 2 種類がある.
- 目安とする初期設定:モード SIMV,吸入酸素濃度(FiO2)1.0,1 回換気量(TV)6~10 mL/kg,呼吸回数 10~15 回/分,吸気:呼気時間比(I:E 比)1:2,PEEP 3~5.
●非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)
- 気管内挿管・気管切開を行わずに,適切なマスクを用いて陽圧をかけ換気を補助する人工換気.
- 侵襲的人工呼吸器管理と比べて簡便で導入は容易であり,挿管に伴う合併症を回避でき,積極的な呼吸管理が可能であるため,慢性呼吸不全の安定期/急性憎悪のみならず急性呼吸不全に対しても,有効な治療方法である.ただし,患者の理解と協力が NPPV 管理を成功させる最も重要な要因となる.
●人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia:VAP)
- 侵襲的人工呼吸器管理開始後 48 時間以降に発症する肺炎.
- 人工呼吸器管理患者の 9~24%に発症.
- 4日以内に発症する早期VAPと4日以後に発症する晩期VAPとに分けられる.早期VAPには第 3 世代セフェム,βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンを,晩期 VAP には抗緑膿菌作用をもつ抗菌薬を使用してエンピリック治療を行う.
適応・診断
1.人工呼吸器
[適応]
以下のような場合,人工呼吸器の使用を考慮する.
2.非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)
[適応]
慢性閉塞性肺疾患(COPD)急性増悪,うっ血性心不全においてエビデンスが豊富であるが,自発呼吸があり,循環動態が安定しており(ショックでない),気道分泌物のコントロールが可能な場合には,種々の急性呼吸不全(免疫不全に伴う急性呼吸不全,人工呼吸離脱に際しての支援方法,肺結核後遺症の急性増悪など)や慢性呼吸不全(COPD,うっ血性心不全,肥満低換気症候群,神経・筋疾患など)に対して使用されている.NPPV(noninvasive positive pressure ventilation)の使用により気管内挿管による人工呼吸管理を回避できることが多く,院内感染などの合併症発生率の軽減などに資すると考えられており,使用の機会は増加している.導入基準の詳細については各項目に詳述.
3.High-flow nasal cannula(高流量式鼻カニュラ)
High-flow nasal cannula は,ベンチュリーマスクやネブライザー式酸素マスクなどと同じ高流量式酸素療法に分類される.これらは100%近い酸素濃度を供給できるが,患者の吸気量よりも下回るためにFiO2は60%前後となる.
High-flow nasal cannula は鼻カニュラを用いて加湿・加温した酸素を高流量(30~40 L/分)で投与することで,鼻腔を刺激せず,鼻腔・咽頭などの解剖学的死腔を酸素で置換することにより,設定したFiO2が下気道に到達するように設計されている.さらに,高流量のために気道内圧が上昇してPEEP に似た効果も発揮され(30~40 L/分で2~3 cmH2O),肺胞の虚脱を予防することも期待される.これらの利点を持ちながら,鼻カニュラによるQOL の向上が期待される.
適応としては,低流量式鼻カニュラ・酸素マスクで酸素化が改善しない場合,喀痰が多くてNPPV が困難な場合,抜管直後でNPPV が必要か微妙な場合,がん末期でDNI(Do not intubate)の場合,などがあげられる.
なお,高二酸化炭素血症(PaO2>48 Torr.)や気胸を伴う場合には適応しない.
4.ECMO(extracorporeal membraneoxygenation)
重症呼吸不全や心不全で通常の人工呼吸管理で酸素化を改善できない場合に,生命維持を目的として用いられる方法として,ECMO がある.
ECMO は生命維持のために施行され,原疾患の治療にはまったく資さないため,ECMO の導入と並行して原疾患の治療を行うことが重要である.
ECMO は体外循環を用いた侵襲的な治療法であると共に,多大な人的資源を要しコストが高いことなどを勘案すると,適応は重症肺炎,敗血症に伴うARDSなどの可逆的な急性呼吸不全に限定すべきで,間質性肺炎やもともとのADL/performance status が低い場合などは適応から外れることが多い.
ECMO の導入基準(藤本圭作:日呼吸誌 3:738-782, 2014 参照)は,通常の人工呼吸管理で酸素化が維持できない場合に加えて,陽圧換気による肺障害(圧損傷)などで肺に不可逆的な損傷を与える可能性がある場合があげられる.酸素化障害の程度として,P/F 比(PaO2/FiO2 ratio)が80 未満とされる.
また,ECMO の除外基準(藤本圭作:日呼吸誌 3:738-782, 2014 参照)として,重度の頭蓋内出血,明らかに不可逆的な肺疾患(肺移植の適応を有さない)があげられるが,それ以外は全身状態や合併症による相対的除外基準となるため,実臨床では適応の判断は難しく,施設による基準の違いなどが多く認められる.
適応に迷う場合は,ECMO プロジェクト(http://square.umin.ac.jp/jrcm/contents/ecmo/)へ連絡すればアドバイスを得られる.
5.人工呼吸器関連肺炎(VAP)
[診断]
[適応]
以下のような場合,人工呼吸器の使用を考慮する.
- ①低酸素血症:強い呼吸困難,チアノーゼ,リザーバーマスクなどの高流量酸素投与(FiO2 0.5)下でPaO2<60 Torr.
- ②PaCO2>60 Torr.,pH7.25 以下:慢性呼吸不全の急性増悪時,pH7.25 以下で意識障害(傾眠,呼びかけに対する反応の低下)を伴うとき.
- ③1回換気量(tidal volume:TV)<150 mL
- ④呼吸回数(respiratory rate:RR)<5/分の徐呼吸,あるいはRR>40/分の頻呼吸(頻呼吸は疲労をもたらす),または著しい呼吸努力を伴う場合.
- ⑤低換気:呼吸抑制,意識状態の低下(昏迷,昏睡,傾眠),呼吸筋疲労.
- ⑥循環不全:ショック状態,重篤な不整脈
2.非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)
[適応]
慢性閉塞性肺疾患(COPD)急性増悪,うっ血性心不全においてエビデンスが豊富であるが,自発呼吸があり,循環動態が安定しており(ショックでない),気道分泌物のコントロールが可能な場合には,種々の急性呼吸不全(免疫不全に伴う急性呼吸不全,人工呼吸離脱に際しての支援方法,肺結核後遺症の急性増悪など)や慢性呼吸不全(COPD,うっ血性心不全,肥満低換気症候群,神経・筋疾患など)に対して使用されている.NPPV(noninvasive positive pressure ventilation)の使用により気管内挿管による人工呼吸管理を回避できることが多く,院内感染などの合併症発生率の軽減などに資すると考えられており,使用の機会は増加している.導入基準の詳細については各項目に詳述.
3.High-flow nasal cannula(高流量式鼻カニュラ)
High-flow nasal cannula は,ベンチュリーマスクやネブライザー式酸素マスクなどと同じ高流量式酸素療法に分類される.これらは100%近い酸素濃度を供給できるが,患者の吸気量よりも下回るためにFiO2は60%前後となる.
High-flow nasal cannula は鼻カニュラを用いて加湿・加温した酸素を高流量(30~40 L/分)で投与することで,鼻腔を刺激せず,鼻腔・咽頭などの解剖学的死腔を酸素で置換することにより,設定したFiO2が下気道に到達するように設計されている.さらに,高流量のために気道内圧が上昇してPEEP に似た効果も発揮され(30~40 L/分で2~3 cmH2O),肺胞の虚脱を予防することも期待される.これらの利点を持ちながら,鼻カニュラによるQOL の向上が期待される.
適応としては,低流量式鼻カニュラ・酸素マスクで酸素化が改善しない場合,喀痰が多くてNPPV が困難な場合,抜管直後でNPPV が必要か微妙な場合,がん末期でDNI(Do not intubate)の場合,などがあげられる.
なお,高二酸化炭素血症(PaO2>48 Torr.)や気胸を伴う場合には適応しない.
4.ECMO(extracorporeal membraneoxygenation)
重症呼吸不全や心不全で通常の人工呼吸管理で酸素化を改善できない場合に,生命維持を目的として用いられる方法として,ECMO がある.
ECMO は生命維持のために施行され,原疾患の治療にはまったく資さないため,ECMO の導入と並行して原疾患の治療を行うことが重要である.
ECMO は体外循環を用いた侵襲的な治療法であると共に,多大な人的資源を要しコストが高いことなどを勘案すると,適応は重症肺炎,敗血症に伴うARDSなどの可逆的な急性呼吸不全に限定すべきで,間質性肺炎やもともとのADL/performance status が低い場合などは適応から外れることが多い.
ECMO の導入基準(藤本圭作:日呼吸誌 3:738-782, 2014 参照)は,通常の人工呼吸管理で酸素化が維持できない場合に加えて,陽圧換気による肺障害(圧損傷)などで肺に不可逆的な損傷を与える可能性がある場合があげられる.酸素化障害の程度として,P/F 比(PaO2/FiO2 ratio)が80 未満とされる.
また,ECMO の除外基準(藤本圭作:日呼吸誌 3:738-782, 2014 参照)として,重度の頭蓋内出血,明らかに不可逆的な肺疾患(肺移植の適応を有さない)があげられるが,それ以外は全身状態や合併症による相対的除外基準となるため,実臨床では適応の判断は難しく,施設による基準の違いなどが多く認められる.
適応に迷う場合は,ECMO プロジェクト(http://square.umin.ac.jp/jrcm/contents/ecmo/)へ連絡すればアドバイスを得られる.
5.人工呼吸器関連肺炎(VAP)
[診断]
- ①①発熱,白血球増多,酸素分圧低下,②胸部Xp で新たな異常陰影の出現,③膿性気道分泌があり,かつa:肺膿瘍からの直接吸引で細菌を証明または,b:胸開肺生検で組織学的および細菌定量培養で103CFU/g組織,であればVAP と診断.
- ②臨床所見に加え,①気管支鏡を使用したBAL(>104CFU/mL)またはPSB(protected specimen brush,>103CFU/mL)で細菌定量培養,または,②血液培養陽性で下気道からの菌と一致,または,③胸水培養陽性で下気道からの菌と一致している場合にVAP の可能性ありと判断する(日本呼吸器学会:呼吸器感染症に関するガイドライン成人院内肺炎診療の基本的考え方2002 参照).
- 臨床所見の発熱,白血球増多,酸素分圧低下,膿性分泌物すべてを満たすことを診断基準にすると感度が下がり,1 項目を満たすのみでは感度が高まるが特異度は落ちて臨床的有用性に欠ける.米国胸部医学会(ACCP)は発熱,白血球増多,酸素分圧低下,膿性分泌物の4 項目のうち2 項目を満たす場合VAP を疑うべきであると提唱している.現状では,画像診断と臨床所見でVAP を疑い,下気道から直接検体を得て診断している.