過敏性腸症候群
IBS
irritable bowel syndrome
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「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。
「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
- IBSは腸管の運動と感覚,および中枢神経機能の統制不全状態であり,症候的には,腸蠕動の亢進または低下と腸管の感覚神経の過敏によって,腹痛や便通異常がもたらされる機能的障害である.2014年4月の「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS)」(日本消化器病学会編)では,「過敏性腸症候群は,代表的な機能性腸疾患であり,腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連する便通異常が慢性もしくは再発性に持続する状態」と定義した.
- IBSのメカニズムには,ストレスが大きく関与する.腸管の運動反応性の亢進(同一刺激に対して健常者より過度に高度な腸蠕動が起きる)と,刺激(腸管壁伸展)に対する感受性の増大または刺激に対して自然に起こる腸管収縮の増大などに代表される,脳腸相関(brain-gut interactions)の考え方が病態として重要である.
- Lovellらの世界の80のstudyの26万人以上の検討によると,世界の有病率は11.2%(95%CI:9.8~12.8%)で男女比は男性1.00に対し女性1.67(95%CI:1.53~1.82%)で,南米では21.0%(95%CI:18.0~25.0%)と非常に高く,東南アジアは7.0%(95%CI:5.0~9.0%)と低かった.この報告における日本の有病率は2004年のKumanoらの6.2%(ROMEⅡによる)と2011年のHongoらの14.0%(Questionnairesによる)が採用されていて,最終的に有病率は6.0%(95%CI:5.0~7.0%)であった.一方,日本の有病率を検討した2008年のMiwaの10,000人のインターネットsurveyでの検討(Rome Ⅲによる)では,13.1%がIBSであった.このうち,下痢型は29%,便秘型は24%,混合型は47%であった.この報告での男性有病率は10.7%,女性15.5%で1.45倍女性の方が高かった.
世界的にみても,日本においても40歳代までの成人に多く,性別では女性に多い.ただ,ガイドラインによると,世界中での有病率の推移は,1981年台から2010年までを10年刻みの区切りでみると,10~12%で変化がない.また,肥満と有病率の関係については,ガイドラインでは「IBSの有病率は肥満者で高くない」とした. - 心理的・社会的要因は,病状とアウトカム(臨床的成果)を変化させるうえで重要な役割をはたす.したがって本症はbio-psycho-social aspectsすべてに目配りすべき疾患である(表1).
チェックリスト
①便通異常
便秘,下痢,または交替性便通異常が比較的長期にわたり存在するものはIBS である可能性がある(Thompson WG, et al:Gut 45(Suppl Ⅱ):1143-1147, 1999 参照).
②その他の消化器症状
間欠的腹痛や腹部膨満感など(Thompson WG, et al:Gut 45(Suppl Ⅱ):1143-1147, 1999 参照).
③理学所見
特異的なものはないが,他の器質的疾患の除外のために警告症状・徴候(アラームサイン)に注意を払う.ガイドラインによると,警告症状は,発熱,関節痛,血便,6 カ月以内の予期せぬ3 kg 以上の体重減少,異常な身体所見(腹部腫瘤の触知,腹部の波動,直腸指診による腫瘤の触知・血液の付着)などをいう.種々の不安を抱えていることが多いIBS 患者にとって,医師が丁寧に診察し,理学所見をとること自体が,元気づけになりうるため,理学的所見を丁寧にとることは重要である.
④危険因子の除外と通常臨床検査
ガイドラインに準じて述べる.危険因子は,50 歳以上での発症,大腸器質的疾患の既往歴または家族歴.また,患者が消化管精密検査を希望する場合にも精査を行う.検査所見では,特異的なものはないが,反対に,便潜血陽性,貧血,低蛋白血症,炎症反応陽性があれば,大腸内視鏡検査(or 大腸造影検査)を行う.その他,血液生化学検査,TSH,尿一般検査などに加え,腹部単純Xp を行う.
⑤大腸検査
大腸内視鏡検査か大腸Xp 検査.警告症状,危険因子,通常臨床検査で,一つでも陽性なら施行する.ガイドラインでは,推奨の強さ2(合意率100%),エビデンスレベルB で,「器質的疾患との鑑別に有用で,行うことを提案する」.また,大腸内視鏡検査施行時,IBS 患者は,有意に痛みを訴えることが多く,一部は診断の補助になる.
⑥その他の検査
腹部エコー,腹部CT,腹部MRI など,必要に応じて,さらに器質的疾患の除外に努める.ガイドラインは器質的疾患の除外を保証するものではなく,あくまで,担当医が責任をもって除外診断は行うこと.
便秘,下痢,または交替性便通異常が比較的長期にわたり存在するものはIBS である可能性がある(Thompson WG, et al:Gut 45(Suppl Ⅱ):1143-1147, 1999 参照).
②その他の消化器症状
間欠的腹痛や腹部膨満感など(Thompson WG, et al:Gut 45(Suppl Ⅱ):1143-1147, 1999 参照).
③理学所見
特異的なものはないが,他の器質的疾患の除外のために警告症状・徴候(アラームサイン)に注意を払う.ガイドラインによると,警告症状は,発熱,関節痛,血便,6 カ月以内の予期せぬ3 kg 以上の体重減少,異常な身体所見(腹部腫瘤の触知,腹部の波動,直腸指診による腫瘤の触知・血液の付着)などをいう.種々の不安を抱えていることが多いIBS 患者にとって,医師が丁寧に診察し,理学所見をとること自体が,元気づけになりうるため,理学的所見を丁寧にとることは重要である.
④危険因子の除外と通常臨床検査
ガイドラインに準じて述べる.危険因子は,50 歳以上での発症,大腸器質的疾患の既往歴または家族歴.また,患者が消化管精密検査を希望する場合にも精査を行う.検査所見では,特異的なものはないが,反対に,便潜血陽性,貧血,低蛋白血症,炎症反応陽性があれば,大腸内視鏡検査(or 大腸造影検査)を行う.その他,血液生化学検査,TSH,尿一般検査などに加え,腹部単純Xp を行う.
⑤大腸検査
大腸内視鏡検査か大腸Xp 検査.警告症状,危険因子,通常臨床検査で,一つでも陽性なら施行する.ガイドラインでは,推奨の強さ2(合意率100%),エビデンスレベルB で,「器質的疾患との鑑別に有用で,行うことを提案する」.また,大腸内視鏡検査施行時,IBS 患者は,有意に痛みを訴えることが多く,一部は診断の補助になる.
⑥その他の検査
腹部エコー,腹部CT,腹部MRI など,必要に応じて,さらに器質的疾患の除外に努める.ガイドラインは器質的疾患の除外を保証するものではなく,あくまで,担当医が責任をもって除外診断は行うこと.
- ⑦これらすべてが陰性の場合,機能性消化管疾患(functional gastrointestinal disorder:FGID)の可能性が高く,Rome Ⅲ診断基準を用いて,IBS を診断する.診断基準を満たさなければ,IBS 以外のFGIDということになる.
- ⑧治療に役立つように診断するためには,腸管の機能異常の診断だけでなく,患者の心理面や社会面まで立ち入った積極的な問診が必要である.初診時にこれらをすべてチェックすることは時間的にも難しく,初対面では患者側も(プライバシーにかかわるため)心理的に不可能なので,1~2 カ月の間に初期診断を再評価しつつ,じっくり患者の言葉に耳を傾ける(表1).
-
表1 患者の心理的・社会的背景のチェックポイント
1 .個人的な重病に関する関心(最近,家族や親しい人で重病にかかったり,亡くなった人がいないかどうか)
2 .ストレッサーの存在〔失恋や離婚,子どもの病気や死(major loss),ドメスティックバイオレンスや幼児期の虐待の既往(abuse history),子どもの不登校,親や配偶者の介護の必要性,職場の人間関係など〕
3 .精神科的問題の共存(うつ,不安神経症)
4 .日常生活への不適合(最近,不登校になったり出勤できなくなっていないか)
5 .薬物依存(睡眠薬,下剤の使いすぎや麻薬・覚せい剤中毒,アルコール依存など)