胸水・胸膜炎
pleural effusion, pleuritis
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「臨床医マニュアル 第5版」は、医歯薬出版株式会社から許諾を受けて、書籍版より一部(各疾患「Clinical Chart」および「臨床検査に関する1項目」)を抜粋のうえ当社が転載しているものです。転載情報の著作権は,他に出典の明示があるものを除き,医歯薬出版株式会社に帰属します。
「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
- 胸水貯留は何らかの疾患の部分症ととらえ,原疾患の究明に努める.
- 胸腔穿刺を行って,漏出性か滲出性かを Light の基準により判断する.胸水/血清総蛋白>0.5,胸水/血清 LDH>0.6,胸水 LDH>血清 LDH 正常上限×2/3 の 1 項目以上を満たせば滲出性胸水と診断する.
- 胸水貯留をきたす原因として,うっ血性心不全,肺炎(細菌性胸膜炎),癌性胸膜炎,結核性胸膜炎の頻度が高い.
- 漏出性胸水の場合,原因疾患の治療を行えば,胸腔ドレナージ術は不要である.滲出性胸水の場合,病側 1/2 以上を占める大量胸水,血胸・膿胸,pH<7.20 または糖<40 mg/dLまたはグラム染色陽性は胸腔ドレナージ術を要する.
検査・鑑別診断
胸痛を自覚し胸水貯留を伴う疾患で特に注意すべき疾患は,心筋梗塞後に発症するDressler症候群,急性大動脈解離,肺血栓塞栓症,急性膵炎,である.胸膜炎以外にも胸水貯留をきたす疾患を除外する必要がある.
①画像検査
200mL 以上の胸水が貯留していれば,立位胸部単純Xp正面像で胸水の確認は容易であるが,50mL 程度の場合は立位側面像で検出が可能である.より少量の場合には,側臥位での撮像や胸部CTでしか確認できないこともある.胸水が多量なために,原因となっている基礎疾患(例:肺炎,結核,肺癌など)が圧排性無気肺の中にマスクされている可能性があるので,胸腔ドレナージ術で排液後にCT 撮像して肺野病変の有無について検索することが重要である.
②胸腔穿刺 ② Light の基準(Light RW:N Engl J Med 346:1971-1976, 2002 参照)に従って,漏出性胸水か滲出性胸水かを区別する.滲出性胸水と漏出性胸水の原因となる疾患を表2に示す.さらに,胸水の性状から鑑別診断を進めていく(表3).診断困難な症例は,胸膜生検(閉胸下)や胸腔鏡検査を実施する. ③ pH<7.2:膿胸がほとんどであり胸腔ドレナージの適応となる.全身性エリテマトーデス,関節リウマチによる胸膜炎,結核性胸膜炎ではpH<7.20を示すこと多いが,多量でない限りドレナージせずに原疾患の治療を優先させる. ④ 糖低値:通常の胸水は血糖値の60%以上の値を示す.悪性腫瘍,感染症では低値を示す.関節リウマチでは10mg/dL 以下を示すことが多い. ⑤ アミラーゼ:P型は膵炎,S型は肺炎,食道穿孔,時に悪性腫瘍で上昇する.膵炎による胸水では血清よりも胸水中が高値を呈する場合がある. ⑥ ADA>50IU/L:結核性胸膜炎の可能性が高い(ただし,膿胸や悪性腫瘍でも上昇することがあり,注意を要する)
③胸膜生検
Cope 針による閉胸下胸膜生検は,検査手技の性質上,ブラインドで行われるために,必ずしも生検部位に病変があるとは限らず,その診断率は高くない.しかし,手技が簡便で比較的安全であり,組織診断を得られれば確定診断となることから,考慮されるべき検査である.全身麻酔による開胸生検は胸腔鏡補助下胸膜生検でもその侵襲とリスクに比べて,得られる情報が限られており,低侵襲な局所麻酔下胸腔鏡による直視下胸膜生検が広く行われている.
①画像検査
200mL 以上の胸水が貯留していれば,立位胸部単純Xp正面像で胸水の確認は容易であるが,50mL 程度の場合は立位側面像で検出が可能である.より少量の場合には,側臥位での撮像や胸部CTでしか確認できないこともある.胸水が多量なために,原因となっている基礎疾患(例:肺炎,結核,肺癌など)が圧排性無気肺の中にマスクされている可能性があるので,胸腔ドレナージ術で排液後にCT 撮像して肺野病変の有無について検索することが重要である.
③胸膜生検
Cope 針による閉胸下胸膜生検は,検査手技の性質上,ブラインドで行われるために,必ずしも生検部位に病変があるとは限らず,その診断率は高くない.しかし,手技が簡便で比較的安全であり,組織診断を得られれば確定診断となることから,考慮されるべき検査である.全身麻酔による開胸生検は胸腔鏡補助下胸膜生検でもその侵襲とリスクに比べて,得られる情報が限られており,低侵襲な局所麻酔下胸腔鏡による直視下胸膜生検が広く行われている.
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表2 胸水貯留の原因疾患
漏出性胸水 滲出性胸水 うっ血性心不全
肝硬変(非代償期)
ネフローゼ症候群
腎不全(溢水)・腹膜透析
低アルブミン血症
横隔膜交通症(腹水貯留)
無気肺
上大静脈症候群
粘液水腫(甲状腺機能低下症)
胸膜髄膜イ(やまいだれに委)感染症(細菌性胸膜炎・膿胸,結核性胸膜炎,真菌感染,
ウイルス感染,寄生虫感染)
癌性胸膜炎(肺癌,転移性胸膜腫瘍)
悪性胸膜中皮腫
良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚
気胸・血胸
肺血栓塞栓症
消化器疾患(食道破裂,急性膵炎,横隔膜下膿瘍,肝膿
瘍,脾膿瘍,横隔膜ヘルニアなど)
尿毒症性胸膜炎
膠原病関連(全身性エリテマトーデス,関節リウマチ,
Sjögren 症候群,混合性結合組織病,多発血管炎性肉芽
腫症,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症など)
開心術後・開胸術後
心筋梗塞後(Dressler 症候群)
心外膜炎
大動脈解離
胸部放射線療法後(放射線胸膜炎)
乳び胸
コレステロール胸膜炎
薬剤性胸膜炎
卵巣過剰刺激症候群
特発性好酸球性胸水
Meigs 症候群
サルコイドーシス -
表3 胸水の性状からみた鑑別診断
1 .外観
①膿性:白血球数が25,000/μL 以上(一方,漏出性では白血球数は1,000μL 以下)
膿胸
②血性
悪性胸水,結核性胸膜炎,血胸(外傷性,非外傷性),肺血栓塞栓症
③白色混濁
ⅰ)乳び胸:TG>110 mg/dL
悪性腫瘍,悪性リンパ腫,外傷,胸管損傷,上大静脈症候群,フィラリア,lymphangiomyomatosis(LAM)
ⅱ)偽性乳び胸:コレステロール≧200 mg/dL
結核性胸膜炎,関節リウマチ,悪性腫瘍,寄生虫,気胸,外傷
2 .細胞成分
①好中球優位
細菌性胸膜炎,膿胸,急性膵炎,腹腔内膿瘍(肝膿瘍,横隔膜下膿瘍),特発性食道破裂
②リンパ球優位
結核性胸膜炎,癌性胸膜炎,悪性胸膜中皮腫,膠原病(RA,SLE),マイコプラズマ肺炎,サルコイドーシス
③好酸球優位
薬剤性胸膜炎,悪性腫瘍,寄生虫,好酸球性肺炎,気胸,血胸,特発性好酸球性胸水