胸痛
chest pain
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「臨床医マニュアル 第5版」 編集:臨床医マニュアル編集委員会
Copyright:(c) Ishiyaku Publishers, Inc., 2016.
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Clinical Chart
- 胸痛をきたす疾患は多数あるが,まず緊急の対応を行わないと死に至る疾患による胸痛(Killer Chest Pain)の除外が必要.
- 胸痛の訴え方は様々であるので,単なる「胸が痛い」という訴えでのみでなく,「胸が押されているようである」,「胸苦しい」,「胸やけがする」などの訴えも含めて胸痛・胸部不快感として胸痛の訴えとして鑑別するとよい.
- 胸痛をきたす疾患には腹部臓器疾患(胃潰瘍,胆石症など)もあることを忘れずに鑑別を進める.
- 心筋梗塞のように典型的には胸痛を呈する疾患でも,高齢者や糖尿病患者では胸痛を呈さないこともあることに留意する(無痛性心筋梗塞).
胸痛への一般的アプローチ
Killer Chest Pain の除外を行った後の鑑別について記す.
①胸痛をきたす疾患は多数あるので,他の主訴と同様に系統立てて鑑別することが重要である.まず,胸痛の原因が外因(主に外傷)によるものかそれ以外(内因,感染によるもの)かを分ける方法がある.
②外傷による胸痛は,受傷歴から胸痛の原因となる傷病を推測しやすい.ただし,特に激しい運動や打撲などがはっきりした機転がなくても,肋骨骨折を生じている例などもあり,常に外傷による胸痛も鑑別に入れておく.また,いわゆる家庭内暴力などでは外傷機転をはっきりと言いにくい患者も多いので留意する.
③外傷(外因)によらない胸痛は内因性疾患,感染性疾患による.原因の臓器別に解剖学的に系統立てて鑑別すると整理しやすい.表1 にその例を示す.
④胸痛の性状,既往歴・既存の疾病(治療中の疾患,診断がついているが未治療の疾患),随伴症状を十分に把握することは,鑑別すべき疾患の絞り込みに重要である.
⑤胸痛の性状の詳細を把握するには,一般的な痛みの問診として部位,持続時間,継時的変化,発症時間,性質や性状,程度,放散の有無,増悪・軽快因子やこれまで同様の痛みを生じたことがあるかを尋ねる.特に胸痛と関連する項目としては,労作や呼吸運動,咳嗽で増悪するのか,安静で軽快するのか,食事摂取や嘔吐で誘発されたのか,ニトログリセリンや気管支拡張剤など既に処方されている薬剤の使用で軽快したのかなどを具体的に問診するとよい.
⑥既往歴・既存の疾病では,心疾患(虚血性心疾患,弁膜症,心筋症など),高血圧症,脂質異常,糖尿病,慢性閉塞性肺疾患(COPD),嚥下障害などに特に注意する.
⑦随伴症状では発熱,呼吸困難,咳嗽,喀痰,喀血,悪心・嘔吐,胸やけ,動悸,冷汗,失神などが鑑別を進める上で重要である.これらで鑑別疾患を絞り込みながら,身体所見で疑わしい疾患の所見を確認し,必要な検査へとつなげる.
⑧その結果,胸痛,胸部不快感の原因が外科的治療や抗菌薬や抗ウィルス薬の投与など特異的治療を要するかどうかを検討して入院治療の必要性を検討する.肺炎(胸膜炎)や胃潰瘍による場合などがこれに該当する.
⑨悪性疾患の除外ももちろん重要である.胸痛,胸部不快感の訴える患者で悪性疾患が診断され(悪性疾患の存在が強く疑われ),癌性胸膜炎による大量の胸水貯留や肺癌の心膜浸潤による心嚢液貯留などを原因としていた場合は早期の処置が必要となるのは言うまでもない.しかし,悪性疾患が胸痛,胸部不快感の訴えの原因であったとしても,現在重篤な状況を生じているのでない場合は,必ずしも即座な入院治療が必要となるわけではない.例えば転移性骨腫瘍に起因する肋骨骨折で他に緊急度の高い合併症を認めない場合などである.このような場合は悪性疾患の告知の方法,タイミング,専門の診療科への紹介も検討しながら信頼できる医師-患者関係を築くことにも重点を置く.
⑩胸痛,胸部不快感の原因が慢性疾患による場合は,初診で確定診断に至らない場合も多く,対症療法を検討し経過観察しながら診断を進めていくこととなる.しかし,患者は診断に至っていないことが大きな不安となる.他の主訴と同様に現在までの診察で除外できていること(Killer Chest Pain など)や考えられる診断名,注意すべき症状,状態について説明し十分な理解を得て外来診察継続(他の外来への紹介を含む)とする.
①胸痛をきたす疾患は多数あるので,他の主訴と同様に系統立てて鑑別することが重要である.まず,胸痛の原因が外因(主に外傷)によるものかそれ以外(内因,感染によるもの)かを分ける方法がある.
②外傷による胸痛は,受傷歴から胸痛の原因となる傷病を推測しやすい.ただし,特に激しい運動や打撲などがはっきりした機転がなくても,肋骨骨折を生じている例などもあり,常に外傷による胸痛も鑑別に入れておく.また,いわゆる家庭内暴力などでは外傷機転をはっきりと言いにくい患者も多いので留意する.
③外傷(外因)によらない胸痛は内因性疾患,感染性疾患による.原因の臓器別に解剖学的に系統立てて鑑別すると整理しやすい.表1 にその例を示す.
④胸痛の性状,既往歴・既存の疾病(治療中の疾患,診断がついているが未治療の疾患),随伴症状を十分に把握することは,鑑別すべき疾患の絞り込みに重要である.
⑤胸痛の性状の詳細を把握するには,一般的な痛みの問診として部位,持続時間,継時的変化,発症時間,性質や性状,程度,放散の有無,増悪・軽快因子やこれまで同様の痛みを生じたことがあるかを尋ねる.特に胸痛と関連する項目としては,労作や呼吸運動,咳嗽で増悪するのか,安静で軽快するのか,食事摂取や嘔吐で誘発されたのか,ニトログリセリンや気管支拡張剤など既に処方されている薬剤の使用で軽快したのかなどを具体的に問診するとよい.
⑥既往歴・既存の疾病では,心疾患(虚血性心疾患,弁膜症,心筋症など),高血圧症,脂質異常,糖尿病,慢性閉塞性肺疾患(COPD),嚥下障害などに特に注意する.
⑦随伴症状では発熱,呼吸困難,咳嗽,喀痰,喀血,悪心・嘔吐,胸やけ,動悸,冷汗,失神などが鑑別を進める上で重要である.これらで鑑別疾患を絞り込みながら,身体所見で疑わしい疾患の所見を確認し,必要な検査へとつなげる.
⑧その結果,胸痛,胸部不快感の原因が外科的治療や抗菌薬や抗ウィルス薬の投与など特異的治療を要するかどうかを検討して入院治療の必要性を検討する.肺炎(胸膜炎)や胃潰瘍による場合などがこれに該当する.
⑨悪性疾患の除外ももちろん重要である.胸痛,胸部不快感の訴える患者で悪性疾患が診断され(悪性疾患の存在が強く疑われ),癌性胸膜炎による大量の胸水貯留や肺癌の心膜浸潤による心嚢液貯留などを原因としていた場合は早期の処置が必要となるのは言うまでもない.しかし,悪性疾患が胸痛,胸部不快感の訴えの原因であったとしても,現在重篤な状況を生じているのでない場合は,必ずしも即座な入院治療が必要となるわけではない.例えば転移性骨腫瘍に起因する肋骨骨折で他に緊急度の高い合併症を認めない場合などである.このような場合は悪性疾患の告知の方法,タイミング,専門の診療科への紹介も検討しながら信頼できる医師-患者関係を築くことにも重点を置く.
⑩胸痛,胸部不快感の原因が慢性疾患による場合は,初診で確定診断に至らない場合も多く,対症療法を検討し経過観察しながら診断を進めていくこととなる.しかし,患者は診断に至っていないことが大きな不安となる.他の主訴と同様に現在までの診察で除外できていること(Killer Chest Pain など)や考えられる診断名,注意すべき症状,状態について説明し十分な理解を得て外来診察継続(他の外来への紹介を含む)とする.
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表1 外傷以外の原因による胸痛(胸部不快感)の鑑別の例
1)心血管系疾患
・急性冠症候群(狭心症,心筋梗塞*)
・心外膜炎
・心筋炎
・心筋症
・弁膜疾患(とくに大動脈弁疾患)
・急性大動脈解離*
・肺血栓閉栓症*
2)肺・胸膜疾患
・気胸(緊張性気胸*)
・肺炎,胸膜炎
3)食道疾患
・逆流性食道炎(GERD)
・マロリーワイス症候群
・特発性食道破裂*
4)腹部消化器疾患
・胃潰瘍
・虫垂炎の初期
5)皮膚・筋骨格疾患
・帯状疱疹
・肋軟骨炎
・胸鎖関節炎
6)精神疾患
・パニック障害注1:*はKiller Chest Painに含まれる疾患
注2:悪性疾患は表中に記載していない
注3:乳腺炎など乳房の疾患も割愛している